2011年10月22日 講義

 

 

第18講 「社会主義をめざす」諸国の社会主義

 

1.「社会主義をめざす」諸国とは何か

●「資本主義から離脱したいくつかの国々で……社会主義をめざす新しい探究
 が開始され、……21世紀の世界史の重要な流れの1つとなろうとしている」
 (日本共産党綱領)

●「社会主義をめざす」国とは何か

 ・その国の政府や党が社会主義を自称しているからといって、それだけで「社
  会主義をめざす」とはいえない(ソ連の経験から)

 ・その国が「社会主義への方向性」をもっていると判断しうる場合にはじめて
  「社会主義をめざす」国といえる―具体的には中国、ベトナム、キューバ。
  将来的にはベネズエラ、エクアドル、ボリビアにも可能性あり

 ・その「方向性」とは社会主義の3つの基準

 ・同様に、方向性を示すものであって、現時点ですでに社会主義国であるとみ
  なすものではない

● 中国、ベトナム、キューバの「社会主義」の方向性

 ・この3カ国は、いずれも自力で社会主義をめざして歩みはじめた

 ・ソ連・東欧の崩壊による否定的影響をそれぞれが乗り越えてきたという点で
  も共通点をもつ

 ・これらの諸国はなぜ存続しえたのか。これらの諸国の社会主義への方向性な
  どが検討課題

● 現存する諸国への論評となるため、内政不干渉の原則からしても、社会主義
 の理念にかかわる問題にかぎっての論評に

 

2.中国の「社会主義」

① 中国革命

● 1949.10 中華人民共和国設立

 ・第2次大戦中、反帝・反封建の人民民主主義革命をめざす抗日民族統一戦線
  の結成

 ・日本の敗戦後、中国共産党はアメリカ帝国主義に支援された蒋介石政権を倒
  し、中華人民共和国設立

 ・力点を農村から都市に移し、「ソ連社会主義」をモデルとしながら社会主義
  の道へ

● 1956年から10年間は、社会主義建設に取り組む

 ・都市における生産手段の国有化と農村での土地改革

 ・生産力発展の具体策のないまま、生産目標のみ拡大

●「文化大革命」による毛沢東の専制支配体制

 ・1966 中国共産党の指導的幹部を根こそぎにする「文化大革命」で毛沢東の
  専制支配体制を築く

 ・毛思想を日本に押しつけ、大国主義的干渉、日本共産党の転覆をめざす

 ・1998年の日中会談で中国側謝罪、関係正常化

● 1976 毛沢東死去。「文革」破綻、「内乱」と総括


② 改革・解放路線

● 1979 鄧小平による改革・開放路線

 ・生産力を発展させるために市場経済をつうじて社会主義の道へ(社会主義市
  場経済)

 ・ソ連型指令経済から計画経済と市場経済の統一

 ・経済成長優先路線―以後30年にわたって年平均成長率9.8%の高度成長、
  2010年にはGNP世界第2位の経済大国に

 ・貧富の格差、都市と農村の格差拡大

● 2004 「調和社会」(和諧社会)への転換

 ・雇用の拡大、社会保障の充実、所得分配、医療・健康の改善など


③ 政治的にはソ連同様共産党の一党支配体制

● 党が国家のうえに

 ・党官僚の特権的地位と汚職・腐敗問題

● 1989 天安門事件
 ―政治の民主化、報道の自由化、汚職・腐敗反対、物価値上げ反対などで連日
  100万人規模のデモ。党指導部が軍隊を導入して血の弾圧、いまだに反省なし

 ・日本共産党、民主主義と人権尊重の立場から「言語道断の暴挙を断固糺弾」
  と批判

 ・天安門事件を機に報道統制強化

 ・2008 劉暁波(リュウ・シャオボー)ら303名の民主活動家「08憲章」発
  表―自由、人権、平等、共和、民主の憲政を―を弾圧

 ・2010 劉にノーベル平和賞―授賞式出席認めず

 ・2011 新幹線追突・脱線・転落―被害者救命よりも国家の威信優先


④ 現段階を「社会主義の初級段階」と位置づけ

● 2004. 5 中国政府と政界銀行の主催で「世界貧困削減会議」

 ・ 「1日1ドル以下で生活する中国人は、1981年には4億9000万人いた
  が、それが現在では8800万人となった。つまり4億人減った、そして減っ
  た数は、同じ時期に世界全体で極貧状態から抜け出した人の総数の4分の3
  を占めている」
  (「ガーディアン」記事、不破『21世紀の世界と社会主義』66ページ)

● 2008 世界経済危機のなかで、7%前後の経済成長

 ・世界全体ではマイナス成長

 ・「国全体が政府の役割と市場の原理を結合させた中国式社会主義経済メカニ
  ズムが効果的に機能」(凌星光「世界金融危機と中国への影響」季論21 
  5号190ページ)


⑤ 今後も社会主義をめざす国を歩み続けるか否かは今後の検討課題

● 中国の経済発展の方向性が問題

 ・「中国が社会主義をめざしているから実現したのか、市場経済の導入で資本
  主義に近づいたから成功したのか」(不破『激動の世界はどこに向かうか』
  174ページ)

● ソ連崩壊の原因となった自由と民主主義を抑圧する「官僚主義・専制主義」
 との関係をどうみるか」も問題

 

3.ベトナムの「社会主義」

① ベトナム革命

● 1945. 9 「ベトナム民主共和国」樹立。ホーチミン初代大統領として独立宣言

 ・日本の占領下にあったのが、日本の敗戦で独立したもの

 ・「独立、自由、幸福」をスローガンに

 ・宗主国フランスの軍事介入(第1次独立戦争)。1954年 ディエンビエン
  フーの戦いで独立戦争終結

 ・ジュネーブ協定で南北ベトナムに分断

 ・1962年 アメリカの軍事介入(第2次独立戦争)。南ベトナム解放民族戦線
  結成

● 1976. 4 南北統一。ベトナム民主共和国を「ベトナム社会主義共和国」に改名

 ・全土破壊による極貧の社会主義をめざす国

 ・「バオ・カップ(包給制)」―「貧しさを平等に分かちあう」社会主義


② ドイモイ政策
 
● 1986. 12 中国に8年遅れて社会主義市場経済の道へ(ドイモイ政策)

 ・ソ連でペレストロイカ、グラスノスチの時代―中ソ比較のうえベトナムでは
  経済改革優先の道を決定

 ・それまでは、国家丸抱えの計画経済で、国家の財政破綻から生産力の発展を
  第1に

● 1986~2006年で1人あたりのGDPは200ドルから600ドルにと3倍化へ
 ―経済成長率は6~8%

 ・「極貧から貧しい」国へ

 ・経済成長は石油、コメ、コーヒーなどの一次産品の輸出と外資導入によるも
  の

 ・製造業が脆弱―外資はすべての材料を持ち込み、ベトナムの安い労働力で組
  み立てるのみ。バイクも自国で生産できない

 ・貧困削減―1993~2010の17年間に貧困世態は57%から10%に減少


③ ベトナム共産党の一党支配体制

● 中国と同様に政治面では「ソ連型社会主義」を継承
 ―上からの統治による警察国家

 ・共産党は「強くて恐い存在」―人民は政治を口にせず

 ・党が国家機構を支配

● 官僚主義により汚職・腐敗の横行

 ・許認可権限を官僚が一手に掌握

 ・汚職、腐敗は構造的な問題

● 不満分子、反体制派への取り締まり

 ・「国民は経済に集中すればよくて、政治のことは共産党に任せておけば良い
  のであって、編に口出しすると痛い目にあうぞ、というのが現政権の態度」
  (坪井善明『ベトナム新時代』96~97ページ、岩波新書)


④ 「社会主義の過渡期にある」と位置づけ、
  「21世紀の半ばごろまでに、わが国を社会主義志向の近代工業国を築く」
  との目標( 2011.1 の第 11 回党大会の綱領改定)

 ・社会主義の方向性をもった経済発展といえるのか

 ・人民が主人公に向かって前進しているのか

 

4.キューバの「社会主義」

① キューバ革命

●「アメリカの、アメリカによる、アメリカのための砂糖の島」(伊藤千尋
 『反米大陸』)

 ・対米従属、大企業、大地主優先の政治

 ・1953. 7. 26 カストロら165人モンカタ兵営襲撃(7月26日は革命記念日)
  ―失敗

● 1959. 1. 1 キューバ革命の勝利

 ・社会正義と民主主義、対米自立を求めた民主主義革命

 ・1959. 5 農地改革―アメリカ企業の所有する大農園を労働者や失業者に分配

 ・1960. 1 アメリカ、キューバに経済制裁、CIAによる武力転覆工作。
  4月ハバナなどを空爆―カストロ、キューバ革命を社会主義革命と宣言

 ・アメリカ、反革命を組織し、キューバに上陸、失敗(ビッグス湾事件)。
  その後もカストロ暗殺計画続く(639件)

● キューバ革命の歴史的意義

 ・「いくつもの世代のブラジル人は、キューバのモデルを参考にして政治活動
  に入った。そのモデルとは、主権を守り抜くことと、社会改革の成果」(ブ
  ラジル大統領政治顧問マルコ・ガルシア)(新藤通弘「革命勝利50周年を
  迎えたキューバ」『季論 21』5号 210ページ)


② 中南米に広がるキューバの影響

●「社会主義の理念を掲げながら、国民の中に基本的な平等性を追求し、医
 療、教育、文化、スポーツなどにおける重要な社会変革の成果をあげてきた」
 (同 227ページ)

 ・革命後飢える人はいなくなったし、平等でスラムがない

 ・中南米一の教育、福祉先進国に

 ・授業料は、幼稚園から大学まで完全に無料

 ・病院は無料、医療技術は最高水準

 ・医師、教師等の海外派遣(48256人、97カ国)

● 中南米全体に社会主義の体制的優位性を示す

 ・20世紀末から21世紀にかけて中南米に相つぐ左派政権

 ・キューバ革命の影響の広がり

● キューバ革命50周年の課題

 ・2007. 7 ラウル・カストロ副議長、キューバ社会の諸問題を解決するのに
 「構造的な改革」の必然性を提起

 ・アメリカ帝国主義との恒常的対決のなかで、50年間革命を守ることが最優
  先とされ、あらゆる資材と人材を効果的に使用する「総動員体制」
  ―1968年に55,000余の中小零細企業まで国有化

 ・過度の平等性、市場の抑制、選挙制度、政党制度、集会・結社・出版の自由
  の一定の制約

 ・2011. 4 キューバ共産党大会で『経済社会政策路線」へ
  ―中国、ベトナムに学んで市場経済の導入へ


③ キューバ社会主義の体制的優位性はどこにあるか

● キューバも共産党の一党支配体制

 ・東欧諸国では複数政党のもとでの自由選挙で共産党は一挙に支持を失い、東
  欧「社会主義」の崩壊に

 ・キューバは1993年の普通選挙でカストロ政権に圧倒的支持

● ノーメンクラトゥーラ存在せず

 ・党指導部は清廉、労働者なみの賃金、普通の生活―平等主義の徹底

 ・カストロの兄弟も普通の住宅

 ・党指導部も自転車で出勤、視察。一般人と同じ場所で買い物

● 民族主権と社会改革、海外派遣などによりキューバ外交は躍進し、ラテンア
 メリカの最近の革新的流れを生みだす要因に

 ・ラテンアメリカは、アメリカの裏庭から逆にアメリカ包囲網に―アメリカの
  新自由主義の押しつけによる貧困化への抗議として、1999年ベネズエラの
  チャベス大統領誕生を機に中南米に相つぐ革新政権

 ・2009. 6 第39回米州機構(OAS)総会で、1962年のキューバ排除決議
  が35カ国中34カ国(アメリカを含む)の賛成で無効確認決議

 ・2009. 12 アメリカ、カナダ以外の33カ国すべてが参加して第1回「ラテ
  ンアメリカ-カリブ海統合と開発」首脳会議

 ・いまやキューバは中南米統合の象徴的存在に

● キューバ「社会主義」を参考にしつつ、ベネズエラ、エクアドル、ボリビア
 で「21世紀の社会主義」をめざす

 ・上記3ヵ国では「ソ連型社会主義」を否定し、国民参加型の自由と民主主義
  の社会主義を展望

 ・3カ国の大統領は、しばしばキューバと交流

 ・チャベスは1998年からの10年間に16回の国民投票で、国民の合意をえな
  がら、一歩ずつ社会主義の道へ

 ・南米最大のブラジルでも2003年のルラ政権は貧困層の購買力を高め、国内
  消費をふやす―子どもの健康診断受診や就学を条件に「ボルサ・ファミリ
  ア」(現金支給)、1200万世帯が利用

● キューバの市場経済の導入が「平等性」を損なわないかに懸念あり

 

5.社会主義の実現に
  科学的社会主義の政党は不可欠か

● 中国、ベトナム、キューバの社会主義

 ・未解決の問題を残しながらも、社会主義ならではの社会改革

 ・中国、ベトナムの貧困対策

 ・とりわけキューバの社会改革は、中南米全体に社会主義の体制的優位性を示
  す→いずれにしても社会主義・共産主義に至るのは長期の過程

● 中南米の左派政権の主力は科学的社会主義の政党ではないことをどうみるか

 ・科学的社会主義の政党といえるためには、当為の真理を示し続けることが求
  められる

 ・ 中南米ではむしろ左派政権の勢力が真理を探究―その点で日本共産党とも深
  い信頼関係

 ・左派政権が複雑な社会変革の長い過程をくぐり抜けて社会主義・共産主義に
  たどり着くまでには、遅かれ早かれ真理を探究する科学的社会主義の政党が
  求められることになるだろう

 ・21世紀は社会主義の当為の真理が求められる時代に