2011年11月26日 講義

 

 

第19講 日本共産党の社会主義論

 

1.自主的な社会主義論の探究

① 真理探究の歴史と伝統

●「党は、科学的社会主義を理論的な基礎とする」(規約)

 ・党は日本における社会主義論の探究をその中心的課題に

 ・自らの頭で、日本人民のたたかいの歴史をふまえて自主的に日本の社会主義
  論を探究

● 社会主義論探究の歴史

 ・戦前、自由民権運動をふまえて、自由と民主主義の全面開花する社会主義論
  を確立(32年テーゼ)
  ―レーニン流「プロ執権」の押しつけに反対して勝ちとったもの

 ・1946. 6 「日本共産党憲法草案」発表―人民主権の立場にたつ民主共和制
  を提唱し、憲法に主権在民を明記させる力に

 ・1961 「61年綱領」制定―「50年問題」を自主的に総括した「自主独立路
  線」にもとづき、民主主義革命から社会主義革命という二段階革命論


② 民主主義革命の意義

● 1960 モスクワで「81ヵ国共産党・労働者党代表者会議」で共同声明

● 日本共産党は、綱領討論をふまえ民主主義革命の意義を強調

 ・高度に発達しながらアメリカ帝国主義に従属している国の革命は、反帝・反
  独占の民主主義革命であることを提起

 ・社会主義を自由と民主主義の全面開花の社会としてとらえる基本的見地

 ・イタリア、フランス両党は、発達した資本主義の革命は社会主義革命以外に
  はないとの立場―レーニン流「プロ執権」の立場から、民主主義革命を否定

 ・両党の社会主義論の限界が、その後の両党の革命戦略上の迷走に

● フランス共産党

 ・ 1968 これまでの社会主義革命一本槍路線から、「先進的民主主義から社
  会主義へ」の二段階革命論に方針転換

 ・1972 社会党との間に民主主義革命の課題をかかげた「共同政府綱領」
  ―ミッテラン統一候補のもとで社会党のみ前進

 ・1977 フランス共産党、自ら統一戦線をぶちこわす
  ―民主主義革命は「一時 的な手段」

 ・1985 先進的民主主義は誤りだったと自己批判し、再び社会主義革命路線
  に回帰

 ・2000 ソ連の崩壊を受け、マルクス主義からの離脱宣言、ミニ政党に転落

● イタリア共産党

 ・1975 これまでの社会主義革命路線から「民主主義的、反ファシズム革命」
  の民主主義革命へ転換

 ・「歴史的妥協」により民主主義革命を実現するとして、キリスト教民主党
  (保守政党)にすり寄り、NATOからの脱退の立場を放棄

 ・1991 イタリア共産党から「左翼民主党」へ、さらには「民主党」へと名
  称変更し、中道政党に転落
  →フランス、イタリア両党と日本共産党との分岐点は、①社会主義を自由と
   民主主義の全面開花と位置づけるか否か、②自主独立を貫くか否か

● 日本共産党の社会主義論

 ・1961 反帝・反独占の民主主義革命から社会主義革命への二段階革命の綱
  領採択

 ・1976 「自由と民主主義の宣言」―科学的社会主義は自由と民主主義の問
  題で「近代民主主義のもっとも発展的な継承者」

 ・社会主義をフランス革命の「第二幕」として位置づけ、社会主義思想の原点
  にたつもの

 ・2004 綱領の社会主義論は「人間による人間の搾取もなく、抑圧も戦争も
  ない、真に平等で自由な人間関係からなる共同社会」

 

2.生産手段の社会化

① 生産力の社会化

●「社会主義的変革の中心は、主要な生産手段の所有・管理・運営を社会の手
 に移す生産手段の社会化である」

 ・所有・管理・運営は「多様な形態をとりうる」―国有化に限定されない

 ・「ソ連型社会主義」の教訓に学ぶ

● これにより「物質的生産力の飛躍的な発展の条件をつくりだす」

 ・生産手段の社会化は自動的に生産力を発展させるものではない

 ・「ソ連型社会主義」のもとで国有企業は労働者の勤労意欲の低下と非効率に
  よる生産力の停滞

 ・中国、ベトナムでも国有企業に問題ありとして「社会主義市場経済」へ

 ・ユーゴでは「生産者が主役」であったにもかかわらず、労働者は生産力の発
  展に関心なし(消費者と生産者への分離)

 ・マルクス「ユダヤ人問題によせて」―社会主義への移行は利己的人間を公民
  的人間につくりかえ、消費者と生産者との統一を実現する人間変革の過程と
  とらえる


② 生産手段の社会化は生産力の発展をもたらしえないか

● 本質的問題として、「生産手段の社会化のもとでは競争原理が働かないから
 生産力は発展しないのか」の問題あり

 ・マルクス「社会的労働の生産諸力の発展は、資本の歴史的任務であり、歴史
  的存在理由である」(『資本論』⑨ 442ページ)

 ・資本は利潤第一主義の本質から、利潤を求めて弱肉強食の競争をくり広げ、
  生産力を発展させる

 ・しかし競争原理が唯一の生産力発展の要因ではない

●「共同社会性」こそより高度の生産力の発展をもたらす

 ・「労働者は、他の労働者たちとの計画的協力のなかで、彼の個人的諸制限を
  脱して、彼の類的能力を発展させる」(『資本論』③ 573ページ)
  ―「協業」のもつ集団力

 ・この「類的能力」が「共同社会性」

 ・人間は「共同社会性」の類本質のもとで、助け合い、学び合い、高め合うこ
  とによって集団力を発揮する

 ・競争原理のゆきつく先は成果主義賃金
  ―技能の継承がおこなわれず、生産力発展の障害に

● マルクス「自分たちの多くの個人的労働力を自覚的に一つの社会的労働力と
 して支出する自由な人々のアソシエーション」(『資本論』① 133ページ)

 ・自覚的に「共同社会性」を発揮する労働者が生産力発展のカギ

 ・この自覚を高め、社会主義の理念のもとに生産者と消費者の統一、利己的個
  人と普遍的個人の統一へと導くところに、科学的社会主義の政党の役割がある

 ・そのためにも時短が必要となる

 ・生産手段の社会化は「労働時間の抜本的な短縮を可能にし、社会のすべての
  構成員の人間に発展を保障する土台をつくりだす」
  ―公民的人間をつくりだす前提としての時短

生産関係の社会化
 
● 自由にして平等な経済的アソシエーション

 ・資本家はいなくなり、労働者は「生産者」に

 ・資本家がいなくなることで、搾取もなくなる

● 20世紀の社会主義の実験の提起した2つの問題

1)「ソ連型社会主義」のノーメンクラトゥーラという「新しい階級」

 ・生産手段の社会化は「生産者が主役という社会主義の原則を踏みはずしては
  ならない」

 ・「『国有化』や『集団化』の看板で、生産者を抑圧する官僚専制の体制をつ
  くりあげた旧ソ連の誤りは、絶対に再現させてはならない」

2)ユーゴの「自主管理症候群」

 ・「社会のどこにいてもやたらに会議や集会が多く、日常顔をつき合わせての
  対決が頻繁だ。そんなところからくる精神病、神経症」(岩田『凡人たちの
  社会主義』29ページ)

 ・とくに全員集会で個人への分配がきめられるところからくる不和

● 職場内の民主主義と中央集権制の統一が求められる―企業管理者と労働組合
 との対立と協調

 ・社会主義への道は「日本国民の英知と創意によって解決しながら進む新たな
  挑戦と開拓の過程」

 

3.社会主義的な計画経済

① 計画経済と市場経済の統一

●「経済の計画的な運営」により「くり返しの不況を取り除き、環境破壊や社会
 的格差の拡大などへの有効な規制を可能にする」

 ・計画経済は「ボタンの数まで国家できめて生産する」(聴濤『ソ連はどうい
  う社会だったのか』104ページ)ミクロ経済の問題ではない

●「市場経済をつうじて社会主義に進む」

 ・民主連合政府のもとで「ルールある経済社会」―大企業への民主的規制

 ・社会主義的変革の過程で「主要な生産手段」を少しずつ社会化

 ・社会主義部門の「合理性と優位性」(不破『激動の世界はどこに向かうか』
  220ページ)が市場経済のなかで点検されながら、「次第に社会主義部門
  の比重と力量を大きくしていく」(同)

●「社会主義的改革の推進にあたっては、計画性と市場経済とを結合させた弾
 力的で効率的な経済運営、農漁業・中小商工業など私的な発意の尊重などの
 努力と探究が重要

 ・市場経済のデメリットにより農漁業・中小商工業などが切りすてられないよ
 う「弾力的で効率的な経済運営」


② 上からの計画と下からの計画の統一

 ・経済の「当為の真理」を示すことは人民の多数の意志を基礎にして

 ・市場原理は、経済の「真にあるべき姿」を示さない―上からの計画の必要性

 ・統一戦線が政府と国民とを結ぶ中間団体として位置づけられている

 ・統一戦線を媒介に上から下へ、下から上への計画と実践が反覆され、上から
  の計画と下からの計画の統一が実現される

 

4.「プロ執権」論

① 民主共和制のもとでの「国民が主人公」の社会

●「プロ執権」とは党の主導性と人民主権の統一

● 人民主権の側面

 ・民主共和制が、「プロ執権」の「唯一の政治形態」(全集㉒ 287ページ)

 ・社会主義的変革は「国会の安定した過半数を基礎として」、国民の多数の意
  志にもとづく多数者革命

 ・社会主義・共産主義の日本は、「人間がほんとうの意味で、社会の主人公」
  となる「国民が主人公」の社会

 ・財界主権から国民主権へ。「国民による政治」のみならず「国民のための政
  治」、選挙のときのみの「主人公」ではなく、日常的な「主人公」に


② 直接民主主義と間接民主主義の統一

● 統一戦線を媒介に直接民主主義の実現

 ・全人民的な「納得と支持」のもとに一歩ずつ社会主義・共産主義の建設に


③ 日本共産党の主導性

● 現綱領には「労働者階級の権力」も党の主導性も明記されず

 ・一部に「プロ執権」論放棄説

 ・しかし原発「安全神話」にみられるように巨大なマスコミが世論誘導するな
  かで、党の主導性なしには多数者を統一戦線に結集することは不可能
 
● 実質的に「プロ執権」を規定

 ・党は「国民的な共同と団結をめざす」社会主義的変革の運動の「先頭にたっ
  て推進する役割を果たさなければならない」

 ・統一戦線の発展のための決定的な条件は、日本共産党の「高い政治的・理論
  的な力量」と「労働者をはじめ国民諸階層と広く深く結びついた強大な組織
  力」

 ・統一戦線における党の理論的、組織的主導性を認めたもの

 ・ただし、スターリン憲法の「指導的中核」条項の果たした役割を考慮し、こ
  れまでの「日本の労働者階級の前衛政党」の規定をあらため、「日本の労働
  者階級の党であると同時に日本国民の党」と規定し、党の主導性を国民に押
  しつけるものではないとの趣旨から「不屈の先進的役割をはたすことを、自
  らの責務として自覚している」(規約)とした

 

5.まとめ

● 日本共産党の社会主義論の普遍的意義

 ・かつては「自主孤立路線」とか「マルクス・レーニン主義からの逸脱」の批
  判

 ・ しかし、その批判の先頭にたったソ連、東欧は消滅し、フランス、イタリア
  両党も後退、消滅

 ・逆に中国、ベトナムは日本共産党とくり返し理論交流し、21世紀の社会主
  義論に関し、日本共産党の意見を求める

 ・またベネズエラ、エクアドル、ボリビアの3国は、自由と民主主義の花開く
  国民参加型の社会主義という21世紀の社会主義を探究

● 日本共産党の社会主義論の普遍的意義はこれまでの社会主義の3基準への反
 省をせまるものとなっている