2011年12月24日 講義
第20講 21世紀の社会主義を考える
1.社会主義の3つの基準への反省
① 3つの基準は定式化されたものではない
● 科学的社会主義における社会主義の3つの基準はどこで定式化されたのか
・一般的にはエンゲルス『空想から科学へ』とされている
・「プロレタリアートは公権力を掌握し、この権力を使って……社会的生産手
段を、公共の財産に転化する。……あらかじめ決められた計画にもとづく社
会的生産が、このときから可能になる」(全集⑲ 225ページ)
・しかしエンゲルスはこれに続けて、この3つの基準により人間は社会、自
然、人間自身の主人になり、「自由になる」(同)としている。―3つの基
準を人間が真に自由になるための前提としてとらえている
・資本主義から社会主義への移行を「必然の国から自由の国への人類の飛躍」
(同 224ページ)と規定
・マルクスも『経済学批判序言』において、資本主義をもって「人類社会の前
史は終わる」(全集⑬ 7ページ)としている
● マルクスもエンゲルスも社会主義の3つの基準を人間解放、真の自由と民主
主義を実現するための手段としてとらえていた
・旧ブルジョア社会にかわって、各人の自由な発展が万人の自由な発展の条件
であるような1つのアソシエーションが現われる」(『共産党宣言』全集
④ 496ページ)
・アソシエーションとは人々が支配・従属の関係ではなく、対等・平等の関係
において、自由に結合する民主主義的な共同社会
② 20 世紀の社会主義の実験をふまえた社会主義の真にあるべき姿
● 20世紀の社会主義の実験は社会主義を3つの基準でとらえることへの反省を
求めている
・「ソ連型社会主義」が「人間抑圧型の社会」をもたらしたことは社会主義の
理念に対する理論上の弱点も
・歴史上社会主義思想はフランス革命の第二幕として登場しており、自由と民
主主義を本質的構成要素としているにもかかわらず、3つの基準ではそれが
明確にされていない
・科学的社会主義の社会主義論は人間解放の真のヒューマニズムの社会であ
り、人間の類本質としての自由と民主主義という人間的価値の全面開花の社
会
・3つの基準も対立物の統一としてとらえるべき
・日本共産党の綱領路線は、こうした点からも社会主義論の真理をとらえたもの
2.21世紀の科学的社会主義を考える
① 科学的社会主義は真理探究の学説
● 科学的社会主義は弁証法的唯物論により真理を探究する学説
・社会主義論は事実の真理と当為の真理の統一をめざす
・しかし20世紀の社会主義論は社会主義という当為の真理に接近しようとしな
がらも、さまざまな制約をもつ
● 社会主義の根本基準は人間を「人間にとっての最高の存在」とする人間解放、
真のヒューマニズムの社会
・マルクスの出発点となったヘーゲル『法の哲学』も人間論から出発して国
家、社会を論じている
・マルクス『法哲学批判序説』は「いやしめられ、隷属させられ、見すてら
れ、軽蔑された存在にしておくようないっさいの諸関係を、くつがえ」
(全集① 422ページ)して、人間を「最高の存在」とすることが至上命令
だとしている
・この立場からマルクスは人間の類本質を「自由な意識」と「共同社会性」と
とらえ、その類本質の疎外からの解放をもって社会主義ととらえた
・またマルクスは、リンカーン大統領あてにアメリカを「1つの偉大な民主共
和国の思想がはじめて生まれた土地」「最初の人権宣言が発せられ」(全集
⑯ 16ページ)た土地として、自由と民主主義の普遍的価値を認める
・マルクス、エンゲルスの人間の本質論の探究がすすめば、自由と民主主義が
上記2つの類本質を反映した「人間的価値」という3つめの類本質をとらえ
たであろうと思われる
② 科学的社会主義は自由と民主主義をその本質的構成要素とする
● 自由と民主主義は科学的社会主義の本質的構成要素
・自由と民主主義は、「自由な意識」と「共同社会性」という2つの類本質を
意識のうえに反映した「人間的価値」として普遍的意義をもつ
・したがって人間解放をめざす科学的社会主義の学説にとって自由と民主主義
はその本質的構成要素をなすもの
・自由と民主主義の抑圧は人間疎外―階級闘争はその回復を求めるもの―階級
闘争に勝利した社会主義・共産主義は人間を「最高の存在」とする自由と民
主主義の全面開花した人間解放の社会
・科学的社会主義は近代民主主義を継承するのみならず、搾取廃止により「真
の人間解放に到達する道を、あきらかにした」
(『自由と民主主義の宣言』)
● 科学的社会主義の自由論
・自由の本質は意志決定の自由にあり、意志決定の自由は必然性との関係にお
ける自由―必然性をどのように考慮して意志決定するのかの問題
1)否定的自由
―必然性から逃れた自由な意志決定(引きこもりの自由)、必然性に100%
支配された不自由
2)形式的自由
―必然性を考慮することなく自由に決定する意志、近代的自由(思想、表現
の自由など)、形式的には自由であっても内容的には必然性に盲目的に支
配される不自由
3)必然的自由
―必然性を認識したうえで、それを容認して決定する自由。意識的に必然性
に支配される不自由
・資本主義の利潤第一主義から生まれる貧困と格差を認識し、貧乏もやむをえ
ないとする意志決定
4)概念的自由
―必然性を媒介して概念(真にあるべき姿)を認識することにより、必然性
を揚棄して決定する自由な意志
● 資本主義の利潤第一主義を人間のくらし第一の社会主義に転換させようとする
自由な意志
●「必然性の国から自由の国への人類の飛躍」とは必然的自由から概念的自由へ
の飛躍を意味している
3.社会主義の3つの基準は人間解放、
真のヒューマニズムの社会実現の手段
● 社会主義の3つの基準は、それ自体を目的とするものではなく、人間を「最高
の存在」とする真のヒューマニズムの社会実現の手段にすぎない
① 生産手段の社会化は搾取と階級を廃止する
● 搾取は「自由な意識」を疎外し、階級は「共同社会性」を疎外する
・生産手段の社会化は、人間解放、自由と民主主義全面開花の手段
● 生産手段の社会化には「生産関係の社会化」と「生産力の社会化」の統一の問
題がある
・「ソ連型社会主義」はそのいずれも実現できず
・ユーゴの自主管理社会主義では、前者は基本的に実現したものの、後者には
問題を残した
② 社会主義的な計画経済は、経済活動全体をコントロールし、人間のくらし
第一の経済を実現する
● 貧富の格差解消により「共同社会性」を回復する
● 社会主義的な計画経済には「計画経済と市場経済の統一」「上からの計画と下
からの計画の統一」の問題がある
・「ソ連型社会主義」
―計画経済と上からの計画はあっても、市場経済と下からの計画なし
・ユーゴの自主管理社会主義
―市場経済はあっても計画経済は機能せず、下からの計画はあっても上から
の計画なし
③ 「プロ執権」は、科学的社会主義の政党の主導性と
「人民の、人民による、人民のための政治」(人民主権の政治)との統一
・「ソ連型社会主義」―党の「指導的役割」が存在するのみ
・ユーゴ―党の主導性にも人民主権にも問題あり
● 自由と民主主義の関係
・自由と民主主義は相互媒介の関係
―「最高の共同こそ最高の自由である」(ヘーゲル)
・最高の「共同社会性」のもとで人間は真に自由になり、真の自由が保障され
てこそ最高の共同社会が実現される
・「真の共同社会性においては、諸個人は、彼らのアソシエーションのなか
で、またアソシエーションをとおして、同時に彼らの自由を獲得する」
(『ドイツ・イデオロギー』)
・「各人の自由な発展が万人の自由な発展の条件であるような1つのアソシ
エーションが現われる」(『共産党宣言』)
4.日本共産党の社会主義論の真理性
● 日本共産党の綱領路線は真にあるべき社会主義を展望している
・弁証法的唯物論を武器に「自主独立」の立場で社会主義という当為の真理を
探究してきた成果
・当初から、社会主義を自由と民主主義の全面開花ととらえ、コミンテルンの
干渉を排して民主主義革命を経て社会主義へという二段階革命の32年テー
ゼを勝ちとる
・戦後もスターリンの押しつけた「50年問題」を克服し、自主的・創造的に
新しい二段階革命の「61年綱領」
・1973 「民主連合政府綱領案」
・1976 「自由と民主主義の宣言」
・2004 「64年綱領」の発展としての新綱領
―「国民が主人公」がキーワード
● 新綱領の社会主義論
・「国民が主人公」に自由と民主主義の社会主義論が集中的に表現
・3つの基準はそれを実現する手段として位置づけられ、また3つの基準はす
べて対立物の統一としてとらえられている
・社会主義の正しい理念と実践があれば「真理は必ず勝利する」
・新綱領は21世紀の社会主義論の真理を示すもの
5.21世紀の社会主義
① 理念をかかげての人民のたたかいのみが社会を発展させる
● 18世紀と20世紀の2つの時代の革命の理念と現実
・18世紀のブルジョア民主主義革命は「理性の国」(全集⑲ 187ページ)を
理念にかかげ、「ブルジョアジーの国」(同)として実現
・20世紀の社会主義革命は、社会主義を理念にかかげながら、「人民抑圧型
の国家」に
● しかし、2つの革命は「無意味な暴力行為」だったわけではない
・ブルジョア民主主義革命は基本的人権としての自由・平等を生みだす
・社会主義革命は、ロシアでの社会権、民族自決権、国際紛争の平和的解決へ
の道、ユーゴでの非同盟運動を生みだす
● 史的唯物論の正しさの証明
・理念をかかげての人民のたたかいのみが人類そのものと社会の進歩、発展を
生みだす
・同時に、どんな理念や理想もけっして「究極の決定的真理」にはなりえない
ことを証明
・「思考の至上性は、きわめて非至上的に思考する人間たちの系列をつうじて
実現され、また真理たることの無条件の主張権をもつ認識は、相対的誤謬の
系列をつうじて実現される」(全集⑳ 89ページ)
・人間の認識は当為の真理を認識し、無限にそれに接近していくことをつうじ
て無限に進歩・発展していく
・「矛盾をたえず定立しながら同時に解決してゆくことが、すなわち運動」
(同 125ページ)なのであり、人類と社会の進歩・発展も同様
・この意味でも人民のたたかいが歴史をつくる
② 資本主義限界論と21世紀の社会主義
● 21世紀は「資本主義限界論」と「社会主義論」とが交錯しながら議論されてい
く時代に
・ジョージ・ソロス―2008年の経済危機について「世界資本主義システムそ
のものが崩壊の一歩手前にあるわけで、……1つの時代の終わりなのだ」
(『ソロスは警告する』)
・2011. 8 アメリカ国債の格下げを機に、ヨーロッパ全体に金融危機が広が
り、カジノ資本主義がコントロール不能におちいったことを明らかに
● 反面からすると、社会主義が人類の未来を担いうるのか、その資格と能力が試
される時代に
・中南米の左派政権の動向が注目される
● それだけにいま21世紀の真にあるべき社会主義という理念を高くかかげること
が求められている
・本講座の問題提起が議論の俎上にのぼることを期待したい
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