● 聴 講(①1:01:40、②43:44、③24:48)

 

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第5講 ‪古代哲学の成果と変遷‬

 

今回の講義では、アリストテレス哲学の後半部分と
ヘレニズム・ローマ時代の哲学を学ぶ。

アリストテレスの倫理学
アリストテレスはソクラテスが主観的に考察した人間の「徳」を初めて、人間の本質に結び付け客観的に考察しようとした。これは唯物論的倫理学の第一歩を築いたと言えるだろう。彼は人間の本質を「ポリス的動物(ゾーン・ポリティコン)」と捉え、マルクスはそれに学び、人間の本質の一つを「共同社会性」と考えた。
しかしアリストテレスは、この人間の本質を直接「徳」に結び付けることなく、単に最高のポリスのもとで最高善が実現すると主張していた。

最大のミステリー 
総じて科学的社会主義はアリストテレス哲学から何を発展的に継承したのか。
講師は「アリストテレスの個々の言説ではなく、その根本思想が発展的に継承されていなければならない」と強調し、それはアリストテレスが主著「形而上学」で述べた「思惟の思惟」にあると説明する。
これは、ヘーゲルが哲学史で「最高の立場」と評価したものであり、自身の哲学体系である「エンチクロペディ」の最後にも引用されている。
しかし従来、この「思惟の思惟」の立場は、「客観的観念論の根本思想を表したもの」と理解されていた。講師はそうした理解は間違いであり、ヘーゲルはイデア論を「思惟の思惟」を通じて理想と現実の統一としての実践的真理観と捉えたがゆえに、哲学の「最高の立場」と捉えたのではないか、だからこそ「エンチクロペディ」の最後にわざわざ、「思惟の思惟」を引用し自身の哲学的立場をさりげなく表明したのではないか、と説明し、「これは古代と近代を繋ぐ最大のミステリー」だと語った。

科学的社会主義はアリストテレスの「思惟の思惟」をヘーゲル哲学を媒介に継承し、従来の真理観である「存在に一致する思考」を踏まえたうえで、「思考に一致する存在」としての実践的真理観を打ち立て、現代において唯一の「革命の哲学」として、確固たる地位を築き上げているのです。古代哲学の双璧であるプラトン、アリストテレスの理解は、ヘーゲル哲学の理解に大きく左右されている事がよく分かる講義でした。

過渡期の哲学
続くヘレニズム・ローマ時代は、自由都市国家ポリスが解体し帝国主義的支配と他民族抑圧が横行する時代であり、一般的には「哲学の衰退期」としてのみ捉えられているが、講師は真理探究の哲学から、イデオロギーとしての哲学(支配階級の哲学)への「過渡期の哲学」として捉え、講義を進める。

「第1期の過渡期の哲学」として「主観性の哲学」を取り上げ、この時期の特徴は「現実からの逃避、何物にも無関心、無感動」な「心の平穏(アタラクシア)」こそ最高の道徳する、ストア派、エピクロス派、スケプシス派が取り上げる。
「第2期の過渡期の哲学」では、哲学がローマ帝国支配のイデオロギーに変遷し、キリスト教哲学(スコラ哲学)の萌芽となった教父哲学を説明。 中でも、ピロン、プロティノス、アウグスティヌスの哲学を紹介し、キリスト教の教義を体系化していく過程を示す。これが後にスコラ哲学として確立され中世封建制を支えるイデオロギーとなった。

現代哲学においても弁証法的唯物論以外の哲学は、全て支配階級の階級支配を支えるイデオロギーとして働いている。だからこそ、私達は哲学史を学ぶ事を通じて「本物の哲学」を見抜く目を不断に養わなければならない。