● 聴 講(①58:36、②51:00、③18:11)

 

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第6講 中世哲学①
    スコラ哲学(人間、自然から神へ)

 

今回は、中世全体を支配したスコラ哲学について学ぶ。

①封建社会を支えるイデオロギー
中世は社会構成体としては、奴隷制社会から封建制社会への転換を成し遂げた。
封建社会は、土地支配による封建領主と農奴の階級対立の社会であり、こうした支配を正当化するイデオロギーとして登場したのがスコラ哲学だった。ギリシア時代に誕生した「真理探求としての哲学」が、中世において支配正当化のための「イデオロギーとしての哲学」への転換を遂げ、哲学にも階級性、党派性がある事を歴史上初めて示した。

講義は、スコラ哲学全体を「生成期」、「最盛期」、「衰退期」の三時期に区分して展開。主に「信と知の統一」、「神学と哲学の統一」を巡って様々な議論が展開された歴史であった。

②「生成期」のスコラ哲学
アンセルムスは、信仰を知識によって裏付けようとし「神の存在論的証明」を試みた。
「もっとも偉大なものは、知のうちに存在するだけでなく、事物のうちにも存在しなければならない。よってもっとも偉大なものとしての神は存在する」
ヘーゲルはこの存在論的証明の中から「概念(真にあるべき姿)と存在の統一」という実践的真理観を引き出した。つまり、哲学の根本問題である「思考と存在の同一性」の「思考と同一となる存在」の側面を「概念と存在の統一」として、提起したのだ。

また、アンセルムスの議論からは有名な「普遍論争」が起こっている。
これは、「普遍」は実在するのか、それとも名前だけなのか、についての闘争であり、実在論と唯名論の対立として展開された。

③「最盛期」のスコラ哲学
トマス・アクィナスはアリストテレス哲学を取り入れ、スコラ哲学を体系化した「神学大全」を著した。彼はその中で、「形相」と「質料」のカテゴリーを取り上げ、両者の比率の違いによるヒエラルヒー的自然観を打ち立て、それが封建的位階社会を支えるイデオロギーとなった。また「信と知の矛盾」を認めつつ信を優先せよと主張した。シゲルス・デ・ブラバンティアは、「知を優先せよ」と説き、世界はそれ自身のうちに法則性、必然性を持つと、唯物論的自然観を提唱した。

④「衰退期」のスコラ哲学
近代哲学、近代科学に道を拓いた先駆者はウィリアム・オッカムであり、彼は「信と知の完全な分離」、「哲学の神学からの独立」を主張した。またジャン・ビュリダンは「物体の運動」に対しアリストテレスの目的因を排除し、近代力学の先駆者になった。彼の「ビュリダンのロバ」をマルクスは大変気に入り、全集の中で不決断の例として4ヶ所挙げていることも紹介する。

⑤世界観的確信を
一般にスコラ哲学は「神学の侍女」として、「哲学の暗黒時代」と評価される。しかしそうした「哲学の堕落期」にあっても、その中で真理探求の脈々とした流れがあったことは見落とせない。スコラ哲学の中での「信と知」、「神学と哲学」をめぐる闘争が近代哲学において再び「真理探求の哲学」として再生(ルネッサンス)する姿を見るとき「真理は必ず勝利する」という命題は、スコラ哲学においても実証されたといって過言ではないだろう。

今回の講義が、「世界観的確信とは何か」を考えるうえでも大きな示唆を与えるものとなることを望む。