2012/09/22 講義

 

第6講 中世哲学①
    スコラ哲学(人間、自然から神へ)

 

1.中世は封建制社会

① 封建制社会の構造

● 社会構成体としての封建制社会

 ・古代社会は奴隷制社会

 ・中世社会は封建的土地所有を基礎として、封建領主と農奴を基本的階級とす
  る封建制社会

● フランク王国によって封建制社会の基礎が築かれる

 ・ゲルマン民族の大移動により、西ヨーロッパゲルマン諸民族の国家誕生

 ・ゲルマン諸国家はキリスト教に改宗

 ・なかでもフランク王国のカール大帝はキリスト教を国家組織に取り入れ、ゲ
  ルマン・キリスト教国家を誕生させ、封建制へ

● 古代社会はポリスから出発したのに対し、中世社会は農村から出発

 ・古代社会はポリス(都市)から出発

 ・ゲルマン民族の「マルク共同体の土地制度」―自由民による土地の共同使
  用。ローマ法のポセッシオ(所有)に対し、ゲルマン法の「ゲヴェーレ」
  (占有)

 ・三圃農法―冬穀作付、夏穀作付、休閑地に3分して、均等な持分にした
  がって共同して耕作(エンゲルス「マルク」全集⑲ 316ページ)―土地の
  共同使用を前提として成立している

● フランク王国のもとで侵略戦争がくり返されるなかで、一方での大土地所有
 と他方での農民の零落(「マルク共同体」の崩壊)

 ・「マルク共同体」の形式のみ残し、実質は自由民の農奴化

 ・「フランク王たちは、全人民に属する広大な土地、とくに森林を自分のもの
  とし、それを彼らの廷臣や部将、司教や、大修道院長に贈与」(同319
  ページ)することによって「貴族や教会の将来の大領地の基礎をつくった」
  (同)

 ・国王と教会は2大土地所有者として封建制の2大権力に

 ・「農民は、自由な土地保有者から、賃租を払い賦役に服する隷農に、それ
  どころか農奴にさえ、変えられてしまった」(同320ページ)

 ・「土地所有のヒエラルヒー的編成ならびにこれと関連する武装した従士団が
  貴族にたいして農奴たちを支配する力を与えた」(新訳『ドイツ・イデオロ
  ギー』25ページ)

● 封建的政治制度(封建制度)

 ・封建領主が国王、皇帝から一定の「農民つき土地」(「マルク共同体」とし
  ての土地)を貸与され、それを封土としてその家臣団(公、候、伯、子、騎
  士などの身分制度をもつ)に位階に応じて貸与し、その見返りに領主への奉
  仕義務と忠誠を求める身分上の主従関係を結ぶ(封建制度)

 ・封建制度は封土貸与と奉仕義務の権利・義務から成る

 ・封建領主は領主裁判権を利用し、「農村を杖と鞭とが支配」(全集⑲ 323
  ページ)

 ・他方カトリック教会も教皇を頂点とするピラミッド型の位階制をもち、絶頂
  期の教皇イノケンティウス3世は「教皇は太陽であり、皇帝は月」と公言

 ・カトリック教会の権威の基礎は「どこの国でもその土地の約3分の1の持主
  として封建的機構のなかで大きな勢力を占めていた教会のなかに」(全集
  ㉑ 495ページ)あった―カトリック教会はどの皇帝、国王とも比較になら
  ない西ヨーロッパ最大の土地所有者

 ・教会の権勢を示す象徴的な出来事が、教皇の指示で始まった全ヨーロッパ軍
  隊による十字軍の遠征


② 封建制社会のイデオロギーとしてのカトリシズム

● キリスト教は封建制社会の支配的イデオロギー

 ・「中世においてキリスト教は、封建制が発達するのとちょうど同じ歩調で封
  建制に照応した宗教となり、この制度に照応した封建的位階制度をもってい
  た」(同309ページ)

 ・カトリック教会は封建制社会の最大の権力者であると同時にカトリシズムは
  封建制社会の最大の支配的イデオロギーに

 ・1095年、教皇ウルバヌス2世はヨーロッパの統一強化と中近東への封建
  制社会の拡張を目的に十字軍を提唱―以後時々の教皇の指示のもとに約
  200年間に9回の十字軍

 ・「一群の諸民族からなっていた西ヨーロッパ世界の統一は、カトリシズムの
  なかでとりまとめられ」(同494~495ページ)、「中世の世界観は事実
  上神学的」(同494ページ)

 ・「法学も、自然科学も、哲学も、およそすべてその内容が教会の教えと一致
  しているかどうかを基準にしてかたづけられた」(同495ページ)

● カトリシズムの哲学としてのスコラ哲学

 ・人間や自然という「現実をば取るに足らぬものとして全く等閑に付し、之に
  対して何の興味も持たなかった」(『哲学史』㊦の1 144ページ)
  ―自然科学の停滞

 ・「神学の侍女」としてのスコラ哲学―カトリック教会付属の学校(スコラ)
  で教える公認の教義哲学

 ・スコラ哲学とは、6Cから16Cまでの「1千年間に渉るキリスト教のなし
  た哲学的努力を概念的に包括するきわめて漠然たる名前」(同139ページ)

 ・真理は公認の教義のうちにのみあるとされる

 ・アリストテレス哲学を基礎として、神が世界のすべての事物を創造したとす
  る目的論的自然観をもつ客観的観念論の哲学

 ・しかしキリスト教が人間の本質を自由な精神に求めたことは、「近代的自
  我」の確立への地ならしとなる

● スコラ哲学の基本的矛盾

 ・思考と存在との関係に関わる2つの根本問題で、真理に背を向ける

 ・思考と存在のいずれが根本的かの問題は「中世のスコラ学においても大きな
  役割を演じており、……この問題は、尖鋭化して、教会にたいしては、神が
  世界を創造したのか、それとも世界は永遠の昔から存在しているのか、とい
  うところまでいきついた」(全集㉑ 279ページ)―客観的観念論

 ・真理の基準をどこにおくのかの問題については、神への信仰という主観的な
  ものにおく―「信と知の統一」「神学と哲学の統一」を主張し、聖書のなか
  の天地創造や、原罪、三位一体論などを真理と主張

 ・スコラ哲学は真理探究を課題とする哲学でありながら、哲学の2つの根本問
  題で真理に背を向けるという矛盾を内包

 ・その矛盾がスコラ哲学内部の対立を激化させ、15C後半のルネッサンスと
  宗教改革で崩壊

 ・しかしカトリック教会とカトリシズムは現代にもなお存続している

● スコラ哲学の時代区分

 ・9C~13Cの生成期、13Cの最盛期、14C~15C前半までの衰退期

 


2.生成期のスコラ哲学

① アンセルムス(1033~1109)

● 真の意味のスコラ哲学の創始者(「スコラ哲学の父」)

● 神による3期にわたる世界の創造として世界史をとらえる

 ・世界の創造と堕罪などを含む「前歴史」―神は最善の物をつくったとして、
  決定論、宿命論の自然観

 ・地上における「人類の歴史」

 ・最後の審判とそれに続く栄光の国の「後歴史」

● 教会の教義は絶対的な真理であるが、それは知識、理論によって根拠づける
 ことが可能と考えた

 ・アンセルムスは「われわれが信仰を得た後、もう一歩進んで思惟によってこ
  の信仰の内容を確証しようとしないのは怠慢である」(ヘーゲル『歴史哲
  学』㊦ 247ページ)として、信仰のための知識を強調

 ・スコラ哲学における信と知、神学と哲学の統一という基本的立場の確立
  ―以後この問題をめぐって論争がおこなわれることに

 ・この立場から、信仰内容のすべてを理性的に証明しようとした。そのなかの
  「神の存在論的証明」が有名

● アンセルムスの「神の存在論的証明」

 ・神の概念から神の存在を証明しようとするもの

 ・「もっとも偉大なものは知力のうちにのみ存在することはできない。何故な
  ら知力のうちのみならず、事物のうちにも存在する方が偉大だからである。
  よってもっとも偉大なものとしての神は存在する」(『小論理学』㊦180
  ~181ページ参照)

● ヘーゲルはアンセルムスの「神の存在論的証明」から実践的真理観を引き出
 す

 ・「神のみが概念と実在との真の一致」(同上124ページ)

 ・有限な事物は概念(真にあるべき姿)と存在とが一致しないから有限

 ・無限な事物は、概念と存在との一致という意味で真理である

 ・アリストテレスは、主観と客観の統一を最高の立場と考えたのに対し、アン
  セルムスは、主観のうちの概念と客観の統一を最高の立場と考えることに
  よって、実践的真理観を示した

 ・「いわゆる本体論的証明や完全なものについてのこうしたアンセルムス的規
  定をどんなに軽蔑しても、それは無益である」(同㊦ 182ページ)

● アンセルムスは、最高の普遍としての神は概念であるがゆえに存在するとし
 て「普遍論争」の契機をつくりだす

 ・普遍は実体として存在するのか、それともそれは存在せず名前だけにすぎな
  いのかをめぐる論争

 ・実在論(実念論)対唯名論の論争

 ・実質的には普遍の名を借りた神の存在そのものをめぐる観念論と唯物論との
  間の論争―唯名論は「唯物論の最初の表現」(全集② 133ページ)

 ・普遍論争の真理は「個は特殊と普遍の統一」(ヘーゲル)にある


② アベラルドゥス(アベラール)(1079〜1142)

● アンセルムスの実在論に対し、唯名論の代表者がアベラルドゥス

 ・アンセルムスの後継者として名声を博し、三位一体説を哲学的に証明しよう
  とした

 ・「然りと否」の著作で、スコラ哲学の方法論を確立することに貢献

● 普遍とは事物の類似性にたいして人間が与えた「意味」にすぎない
 ―普遍は個物を離れては存在しない

 ・普遍とは存在するさまざまの事物の類似性であり、類似性は「存在者の属
  性」にすぎず、個物から自立しては存在しない―それは類似性に対して人間
  が与えた名称にすぎない

 ・「多くのものが哲学では真であっても、神学では偽であり得る」(『哲学
  史』㊦の1 172ページ)として、信と知との分離・対立を主張し、異端
  として追求される


③ アヴェロエス(1126〜1198)

● アリストテレス哲学を基調とするスコラ哲学の樹立に貢献

 ・東ローマ皇帝ユスティニアヌスは、529年ギリシア哲学を異端として禁止

 ・ギリシア哲学(とくにアリストテレス哲学)はヨーロッパからイスラム世界
  に流出。アラビア語に翻訳されて生き延びる

 ・十字軍(11C〜13C)によるイスラム諸国への侵略をつうじて、アラビ
  ア語のアリストテレス哲学がヨーロッパに逆輸入される

 ・アヴェロエスのアリストテレス哲学の註釈は高い評価を受け、アリストテレ
  ス哲学をヨーロッパに普及させると同時に、スコラ哲学の完成に大きな力を
  発揮

 ・13Cのヨーロッパでは「哲学者」といえばアリストテレス、「註釈家」と
  いえばアヴェロエスを指すほどに

● 信に対する知の優先を唱え、13Cのスコラ哲学の最大の論争の契機をつくる

 ・哲学と神学とが矛盾する場合は、哲学を優先させるべきとの立場で、信と
  知、神学と哲学の統一を批判

 ・一種の「二重真理説」

 ・彼の見解は、ヨーロッパに引きつがれ「ラテン・アヴェロエス主義」とよば
  れ、正統スコラ哲学への一大批判勢力となった

 


3.最盛期のスコラ哲学

① トマス・アクィナス(1225〜1274)

● トマスの「神学大全」

 ・ヨーロッパに再輸入されたアリストテレス哲学を取り入れて、スコラ哲学を
  体系化して完成

 ・すべての実体を形相と質料の統一としてとらえ、両者の比率の違いにより、
  神―天使―人間―動物―植物―無機物という、目的論的なヒエラルヒー的自
  然観を樹立

 ・これにより封建的位階制社会を合理化するイデオロギーに

● 信と知、神学と哲学の矛盾を認めつつ、信仰優位説をとるという折衷説にたつ

 ・信と知の基本的一致を主張しながらも、三位一体や最後の審判などの神学上
  の問題は哲学によって理性的に証明することはできないとして、信と知の矛
  盾を肯定する

 ・しかし理性を越える神学は、ただ信仰によってのみその真理を把握しうると
  いう調停的解決を示す

 ・これにより、信と知の矛盾を肯定しつつ、信の優位性を主張することでスコ
  ラ哲学の完成者となる

 ・例―アリストテレスの「自然学」は「無からは何も生じない」とするのに対
  し、カトリックの教義は神による「無からの創造」を主張。後者を三位一体
  論に関わる信の問題として肯定

 ・しかしスコラ哲学の矛盾の調停的解決は根本的解決にはならないところか
  ら、信と知、神学と哲学の統一をめぐる論争は、トマス以降に引きつがれる

● 普遍論争に関しても折衷的

 ・普遍は個物のうちに存在しているとしながら、それは普遍としての神の意志
  のあらわれとする折衷説をとる

● トマスの功績により、彼の属したパリ大学神学部は以後正統スコラ哲学の本
 拠地に


② シゲルス・デ・ブラバンティア(シジェール・ド・ブラバン)
  (1235~1282)

● トマス派の正統スコラ哲学に対して、自然学に関し、神学に対する哲学の優
 位性を主張

 ・アヴェロエスの哲学の神学に対する優位性を継承したところから、「ラテ
  ン・アヴェロエス派」とよばれる

 ・シゲルスの問題提起により、信と知、神学と哲学の統一をめぐる13C最大
  の論争に

 ・無からは何も生じない。世界は永遠であって神によって創造されたのではな
  い。魂は不滅ではない。世界はそれ自身のうちに法則性、必然性をもち、神
  の摂理は認められない―唯物論的自然観

 ・エンゲルスの「神が世界を創造したのか、それとも世界は永遠の昔から存在
  しているのか、というところまでいきついた」(全集㉑279ページ)との指
  摘は、トマス派と「ラテン・アヴェロエス派」との対立を念頭においたもの

● 二重真理説

 ・聖書の真理性や教会の権威は認めるというスコラ哲学の立場にたちながら
  も、こと自然に関するかぎり、唯物論的な自己の主張をつらぬく

 ・カトリック教会から破門されるも自説を曲げず

 ・ルネッサンスの先駆者となったダンテは、「神曲」のなかで歴代ローマ教皇
  の大半を堕落しているとして地獄界の住人としながらも、他方で天国界の住
  人としてトマスと並んでシゲルスの名をあげ、彼の「魂の光」は「永遠の
  光」だと称賛している


③ ドゥンス・スコトゥス(1266〜1308)

● オックスフォード学派

 ・数学的方法と実験を結合する唯物論的自然科学の研究で、パリ大学神学部に
  対抗

 ・ドゥンス・スコトゥスをはじめウィリアム・オッカム、近代哲学の始祖、フ
  ランシス・ベーコンもその一人

● スコトゥスは信と知、神学と哲学との厳密な区分を主張

 ・神の意志は絶対の自由であって、人間の理性以上のもの

 ・したがって信仰は理性的に基礎づけられない

 ・神学はただ信仰の対象となるのみであって、合理的な神学は存在しない

 ・マルクス「彼は神学そのものに唯物論を説教させた」(全集② 133ペー
  ジ)

 ・他方哲学は理性によって証明されるものだけを対象にしなければならない

● 人間の意志の自由を主張

 ・神の意志は絶対的に自由として自然界の非決定論を主張

 ・同様に人間も自由な意志をもつことで、自己の行為に責任を負うとして、近
  代法の民事・刑事の法的責任論を根拠づける

 ・スコトゥスの自由意志論は、アウグスティヌスの決定論(必然論)に対立

 ・人間の意志をめぐる「自由か必然か」の論争はカントを経て、ヘーゲルにま
  で持ちこされる

● 普遍論争に関しては唯名論の立場

 ・真の実在は個物のみ―個物のなかに普遍的形相と個別的形相が存在する

 ・マルクスは、スコトゥスの唯名論を指摘したうえで、「唯名論はイギリスの
  唯物論者のあいだでは一つの主要な要素となっており、また一般に唯物論の
  最初の表現」(同)としている

● スコトゥスは最盛期のスコラ哲学と衰退期のスコラ哲学を結ぶ人物

 


4.衰退期のスコラ哲学

① ウィリアム・オッカム(1290/1300〜1349)

● イギリス唯物論の先駆者

 ・オッカムはオックスフォード学派としてスコトゥスの唯名論を一層おしすす
  める

 ・真に実在するのは個物のみ、普遍とは多くの事物をあらわす記号、名辞にす
  ぎないとする唯名論

 ・ ベーコン、ホッブスなどのイギリス唯物論の先駆者

● 信と知、神学と哲学の完全な分離を主張

 ・直観と経験のうえに基礎づけられる自然科学を重視し、直観と経験に基礎づ
  けられない神学は、学問として成り立ちえないとする

 ・哲学は教会の教義に拘束されることなく自由に探究すべき

 ・哲学の神学からの独立を主張することにより、近代の自然科学、近代哲学に
  道をひらくことに(「オッカム主義」)

● 教会と国家の分離を主張

 ・信と知の分離の考えを教会と国家の関係にも適用し、教会と国家の分離を主
  張

 ・ダンテの「神曲」にある「ローマが世界を立派に統治していたころは、……
  〔皇帝と法王〕はそれぞれ現世の道と神の道を照らしていた」(世界文学全
  集② 185ページ 河出書房)という記述の影響を受けたのかも


② ジャン・ビュリダン(1300〜1358)

● 物体の運動について近代力学の先駆者

 ・「オッカム主義」者の1人

 ・投げられた物体の持続的運動を、物体に与えられた運動力としてとらえるこ
  とで近代力学の先駆者の1人に

●「ビュリダンのロバ」

 ・意志の自由を否定

 ・「もし意志の自由があるとすれば、同じ量のまぐさの中間におかれたロバ
  は、どっちへいっていいか決心がつかず、けっきょく餓死するはず」(全集
  ⑧ 185ページ)

 ・詭弁の代表

 ・マルクスは、「ビュリダンのロバ」が気に入ったのか、選択に迷う不決断の
  例として、全集のうちで4カ所も引用

 


5.スコラ哲学から近代哲学へ

● スコラ哲学は哲学の堕落

 ・古代哲学から中世哲学への移行は、自然、人間から神へ

 ・哲学が真理探究の学問から、真理に背を向け、支配のイデオロギーに転落

 ・真理探究の哲学は、1つは唯物論の立場にたち、2つは真理の基準を「思考
  と存在との同一性」におくこと

 ・しかし、「神学の侍女」としてのスコラ哲学は、一方で神を根源とする客観
  的観念論にたち、他方で教会の教義を真理とする観念論的真理観により、2
  つの根本問題で真理に背を向ける

 ・そこから、信と知、神学と哲学の一致を前提とするスコラ哲学は真理探究の
  本来の哲学の発展のもとで破綻せざるをえない宿命をもつ

 ・現にスコラ哲学の歴史は、アンセルムス対アベラルドゥス、トマス対シゲル
  ス、スコトゥス、オッカムの論争をつうじて非真理と真理の対立となり、近
  代哲学への必然的移行となる

 ・それは、神から自然や人間への移行と同時に、再び真理探究の学問として再
  生することを意味する

● スコラ哲学の教訓

1)哲学の歴史は真理認識の弁証法的発展の歴史

  ・哲学の歴史は「弁証法的発展をなして次々とあらわれる理念の諸段階」
  (『小論理学』㊤ 265ページ)

 ・スコラ哲学という逆流の哲学のなかにも真理探究の脈々たる流れ

 ・真理と非真理との闘争をつうじて「真理は必ず勝利する」

2)土台が上部構造を規定する

 ・封建領主と農奴という基本的階級対立をもつ封建的生産様式そのものが、封
  建的位階制社会を支えるスコラ哲学を生みだした

3)支配的な思想は支配階級の思想

 ・「支配的階級の諸思想は、どの時代でも、支配的思想である」(新訳『ドイ
  ツ・イデオロギー』59ページ)

 ・支配階級の思想は、少数者が多数者支配を合理化するための虚偽の思想

 ・被支配階級の側に真理探究の哲学が生まれてくる

 ・古代ギリシアの奴隷制社会が真理探究の哲学を生みだしたのは「真の奴隷制
  の基礎のうえにたった古代の、現実的=民主主義的な共同体」(全集②
  127ページ)であるポリスが存在していたため

4)哲学も社会的イデオロギーの1つとして、党派性、階級性をもつ

 ・哲学も上部構造であるイデオロギーの一種として窮極的には土台によって規
  定されることになる

 ・その意味で哲学も階級性、党派性をもつ

 ・「中間派」もいずれかにくみすることに

 ・「科学の目」ですべての哲学の党派性、階級性を見抜かなくてはならない

 


6.キリスト教の功績

● ヘーゲルは、キリスト教が1千年以上にわたって世界を支配しえたのは、人
 間の自由な精神の無限性をとらえたからだとする

 ・人間の本質を自由な精神にもとめ、自由な精神は無限に発展して真理をとら
  えうるものとする

 ・その意味で、キリスト教はすべての人間を無限の価値をもつものとし、奴隷
  制を否定
 ・自由な精神は「決定の無限の力」(ヘーゲル全集⑩ 『歴史哲学』㊦ 159
  ページ)で偶然性に依拠する「神託とか鳥占いなどの迷信」(同)を排除

 ・ある意味で人間の本質を自由な意識にあるととらえ、それを開花させたもの
  がキリスト教だとするもの

●「近代的自我の確立」という普遍的真理に道をひらく