2012/10/27 講義

 

第7講 近代哲学①
    近代は資本主義の時代
    (神から自然、人間、社会へ)

 

1.近代とは資本主義の台頭・建設の時代

● 近代とは15C後半から19C後半まで

 ・ルネッサンスと宗教改革に始まり、科学的社会主義の登場する19C後半ま
  で

 ・ブルジョアジーの台頭による資本主義の建設・発展の時代

● 封建制社会は、農村を中心に、都市も

 ・自給自足の農村と商品交換の都市

 ・15C末から16Cにかけてアメリカ新大陸の発見、東インド航路の発見に
  よる大航海時代で、商業と都市の発展

 ・都市の中流市民としてのブルジョアジーの台頭

● ブルジョアジーは、商品取引の自由と生産力発展のための自然科学の発展を
 求めて封建制に挑戦―それがルネッサンスと宗教改革

 ・ブルジョアジーの封建制に対する3大決戦

 ① 16Cの宗教改革と農民戦争

 ・ルターは宗教改革の火ぶたを切るが、絶対君主制と妥協

 ・カルヴァン主義はブルジョアジーの利益に沿うもの

 ・カルヴァン主義はオランダ共和国、イングランドとスコットランドに共和主
  義の政党を生みだす(ピューリタン)

 ② 17Cのイギリス革命

 ・クロムウェルのピューリタン革命で王制から共和制に

 ・名誉革命でブルジョアジーと封建貴族との妥協成立―ブルジョアジーも支配
  階級の一員に

 ③ 18Cのフランス革命

 ・封建貴族に対するブルジョアジーの蜂起

 ・ジャコバン独裁をクーデターで倒し、ブルジョアジーの完全な勝利→3大決
  戦のなかでプロレタリアートの先駆的動きも。しかしブルジョアジーの勝利
  のために利用されたのみ

● ブルジョアジーは産業革命により本格的資本主義を建設

 ・18Cから19Cにかけての産業革命―「道具から機械へ」

 ・マニュファクチュアから機械制大工業へ―商業資本主義から産業資本主義へ
  と本格的資本主義の建設

 ・本格的資本主義の建設は、労・資の階級闘争の顕在化を生みだす

 ・プロレタリアートの台頭
  ―1831 リヨンでの蜂起。1838〜1842のチャーティスト運動

 ・そのなかから社会主義思想が登場―啓蒙思想の発展として

● 空想的社会主義から、科学的社会主義へ

 ・社会主義思想は理論上の形式からいえば、フランス革命の「自由、平等、友
  愛」を一層発展させたものとして出発

 ・19C前半「1つの妖怪がヨーロッパをさまよっている―共産主義の妖怪
  が」(『共産党宣言』全集④ 475ページ)

 ・3人の偉大な空想的社会主義者を経て科学的社会主義が登場

 ・マルクスの剰余価値学説と史的唯物論により「社会主義は科学になった」
  (『空想から科学へ』全⑲ 206ページ)

 ・科学的社会主義は近代の到達点を示す学説に

 


2.近代が提起した哲学の諸課題

● 真理探究としての哲学への復帰

 ・神から自然、人間、社会への復帰

 ・中世の支配のイデオロギーとしての哲学から真理探究の哲学への復帰

 ・封建制社会において被支配階級であったブルジョアジーは、真理を探究する
  ことに階級的利益を見いだした

● 神学から解放された哲学は、自然、人間、社会のすべてを対象に真理を探究
 し、哲学的諸課題を提起


① 自然にかんする哲学

● ルネッサンスは自然科学の発展からはじまる

 ・コペルニクス、ケプラー、ガリレイなどを経てニュートンで終わる

 ・自然科学の発展をつうじて唯物論が観念論に勝利した偉大な時代

● 自然科学の発展は、哲学上2つの大きな足跡をもたらす

 ・1つは、用いられた数学的方法をつらぬく理性を重視する傾向(合理論)

 ・もう1つは、ガリレイの落下の実験により、中世の目的論的自然観から機械
  論的自然観への転換

 ・この時期の自然観は、ニュートンの永遠の天体とリンネの不変の生物種にみ
  られる「自然の絶対の不変性」(全集⑳ 344ページ)

● 17、18Cの機械論的自然観から19Cの弁証法的自然観への転換

 ・自然観を転換させることになった自然科学の3大発見

 ・細胞の発見、エネルギーの変換・保存の法則、ダーウィンの進化論
  ―連関と発展の弁証法

 ・近代の唯物論は「本質的に弁証法的」(全集⑲ 204ページ)
  ―しかしそれは自然観についてのみ

 ・観念論の「最後の隠れ場所」(全集⑳ 26ページ)が歴史観
  ―人間社会の歴史に発展法則があるのかが問われる

● 科学的社会主義の哲学は、観念論を「最後の隠れ場所」である歴史観から追
 い出し、世界全体を唯物論的にとらえる


② 人間にかんする哲学

1)ヒューマニズムと人間論

● ルネッサンスは、神から人間に、人間性の回復の運動

 ・人間性の回復は「近代的自我」の確立にはじまる

 ・近代的自我の確立は反人間的社会制度への抵抗、批判の思想としてのヒュー
  マニズムの思想を生みだす

 ・エラスムス『愚神礼賛』、トマス・モア『ユートピア』、カンパネラ『太陽
  の国』は、いずれもヒューマニズムの立場から、封建制あるいは資本主義の
  社会を批判

● 封建制の絶対君主制のもとで、ヒューマニズムは専制国家を批判するより合
 理的な啓蒙思想に発展

 ・イギリス・ピューリタン革命から生まれたホッブスの社会契約論は、ロック
  のもとで人民主権論に―アメリカの独立宣言、フランス革命に影響

 ・イギリス啓蒙思想は、フランス啓蒙思想に継承発展

● フランス啓蒙思想は人間論の探究に

 ・フランス啓蒙思想家・ルソーは、『人間不平等起原論』と『社会契約論』に
  おいて、人間の本質を自由・平等ととらえ、階級社会における人間疎外論と
  社会契約による人間解放論をとなえる

 ・エンゲルス「ルソーのこの書物には、すでにマルクスの『資本論』がたどっ
  ているものと瓜二つの思想の歩みがある」(全集⑳ 146ページ)

 ・ヘーゲルは、『法の哲学』で人間の本質を自由な意志ととらえ、市民社会
  (資本主義社会)における人間疎外と人民主権国家における人間解放を論じ
  た

● これらの人間論をふまえ、真のヒューマニズムとしての科学的社会主義誕生

 ・マルクス―人間の本質を自由な意志と共同社会性に求める

 ・共産主義とは「私有制度に感染した人道主義的原理の、特異な一形態」
  (全集① 381ページ)―私有制度から解放された真のヒューマニズム

 ・社会主義・共産主義を人間疎外からの人間解放としてとらえる

 ・「共産主義は成就されたナチュラリズムとしてのヒューマニズムに等し
  (い)」(全集㊵ 457ページ)

 ・生き方の真理は真のヒューマニズムにあることを明らかに

2)認識論

● 認識論とは思考と存在との相互媒介の関係を問題に

 ・「デカルトの二元論」が認識論の出発点に

 ・認識論をめぐって唯物論か観念論かという哲学の根本問題が提起される

● 認識の3つの種類

 ・感性、悟性、理性

 ・感性とは、存在(客観的実在)を五感によって受けとる受動的認識

 ・悟性、理性とは、対象を思惟することによってえられる能動的、主体的認識

 ・感性と悟性・理性のいずれを重視するかによって、認識論は大きく唯物論と
  観念論に分かれる

● イギリス唯物論

 ・経験から生じる感性こそすべての認識の基礎となるものであって、感性にお
  いてとらえられないものは認識の基礎になしえないとする立場(「イギリス
  経験論」)

 ・ベーコン、ホッブス、ロック、バークリー、ヒューム

 ・ホッブス、ロックは「イギリス啓蒙思想」ともよばれる

 ・経験論は入口における唯物論だが、理性から生まれる普遍性、必然性の認識
  までが経験のなかにふくまれるのかをめぐって、それを肯定する唯物論的経
  験論(ホッブス、ロック)と、否定する観念論的経験論(バークリー、
  ヒューム)に分かれる

 ・イギリスの唯物論的経験論(啓蒙思想)は、18Cのフランス唯物論(フラ
  ンス啓蒙思想)に発展的に継承される

●「大陸の合理論」(観念論)

 ・感性、感覚は信頼できないとし、悟性、理性によってのみ真理を認識しうる
  とする立場

 ・デカルト(フランス)、スピノザ(オランダ)、ライプニッツ(ドイツ)、
  ヴォルフ(ドイツ)

 ・合理論は非合理的なものを排除し、論理的に考える正しい側面をもつが、他
  方で存在よりも思考を根源的と考える観念論に

● 経験論と合理論の統一

 ・経験論も合理論も認識論としてはともに一面的

 ・感性を伴わない理性・悟性は観念論に陥ることになり、理性・悟性を伴わな
  い感性は人間の認識の無限の発展を否定することに

 ・ カントは、経験論と合理論を観念論的に統一しようとした

 ・これを批判し、唯物論的に統一しようとしたのがヘーゲル

● マルクス、エンゲルスはヘーゲルを継承しながらも、実践を媒介に感性と悟
 性、理性を統一することで、認識は無限に客観的真理に向かって前進すること
 を明らかに

3)解釈の哲学と変革の哲学

● 人間は自然や社会を変革する

 ・近代に至るまでの哲学は解釈の立場にたつ哲学

 ・「世界はいかにあるか」の哲学のみで、「世界はいかにあるべきか」の哲学
  なし

● 19Cの弁証法的自然観は弁証法的認識論を生みだす

 ・弁証法は「事物とその概念上の模写」(全集⑳ 22ページ)を発展的にと
  らえるもの

 ・ドイツ古典哲学を完結したヘーゲルは弁証法の変革の立場にたって、理想と
  現実の統一という革命的哲学を確立

 ・ヘーゲルは革命の哲学をつうじて真理には「事実(いかにあるか)の真理」
  と「当為(いかにあるべきか)の真理」があることを解明
  ―「概念」「理念」のカテゴリーを生みだす

● ヘーゲル哲学をつうじて、階級闘争により資本主義から社会主義への発展の
 必然性を明らかにした革命の哲学としての科学的社会主義の学説が誕生


③ 社会にかんする哲学

● 唯物論は必然的に社会批判と社会発展の哲学を生みだす

 ・16Cのヒューマニストも社会の矛盾を厳しく批判

 ・社会にかんする哲学を本格的に開始したのはイギリス啓蒙思想

 ・18Cのフランス唯物論は、絶対主義的君主制批判と理性にしたがった社会
  改革の啓蒙思想に

 ・モンテスキュー、ヴォルテール、ディドロ、ダランベール、ルソー

 ・「もし人間がその環境によってつくられるものであるとすれば、ひとはその
  環境を人間的なものにつくっていかなければならない」(全集② 136ペー
  ジ)―唯物論は社会発展の哲学に必然的につながる

 ・ルソーの『社会契約論』は国家の真にあるべき姿を提示し、フランス革命の
  バイブルに

● 唯物論は社会主義、共産主義に向かう

 ・18Cのフランス唯物論は「直接に社会主義と共産主義とにそそいでいる」
  (同)

 ・フーリエ、バブーフの社会主義・共産主義はフランス唯物論にはじまる

 ・ 未熟な社会主義・共産主義の思想はユートピアにならざるをえなかった

● 唯物論から生まれた科学的社会主義の学説

 ・マルクスの剰余価値学説と史的唯物論は、社会を科学的に分析することを可
  能とし、社会の発展法則を明らかに

 ・資本主義の基本矛盾の分析をつうじて、階級闘争によりその矛盾を揚棄する
  社会主義を展望


④ 科学的社会主義の哲学は自然、人間、社会のすべてについて
  近代哲学の到達点を示すもの

● 唯物論の見地をつらぬくことで、自然、人間、社会の科学の発展と共同歩調
 をとる

 ・唯物論の立場とは「現実の世界―自然と歴史―を、先入見となっている観念
  論的幻想なしにそれに近づくどの人間にも現れるままの姿で、把握しよう」
  (全集㉑ 297ページ)とする科学の立場

 ・唯物論の立場にたてば、世界のすべての事物が運動、変化、発展するという
  弁証法の立場にたたざるをえない(弁証法的唯物論)

 ・弁証法的唯物論によってすべての事物の真の姿・真にあるべき姿をとらえ、
  無限に真理に接近することが可能に

● 弁証法的唯物論と史的唯物論によって、人類史上はじめて社会と人間を科学
 的にとらえることが可能となった

 ・社会を科学的にとらえるのに史的唯物論以外にどんな方法も存在しないこと
  が検証されている(特に現代哲学をつうじて)

 ・社会と人間を科学的にとらえることで、人間の本質論、階級社会における人
  間疎外論、人間解放論の社会主義・共産主義という真のヒューマニズムの理
  論となる

 ・科学的社会主義の人間論は、人間を動物から区別する革命の立場を明確にす
  る

 


3.近代哲学の黎明期

① フランシス・ベーコン(1561〜1626)

● イギリス唯物論(イギリス経験論)の祖

 ・オックスフォード学派の唯名論からベーコンのイギリス唯物論が生まれる

 ・ベーコンは経験から生まれる感性は誤ることなく、すべての認識の源泉とし
  てとらえることで「イギリス経験論」の祖ともよばれる

 ・科学は経験科学―経験によってえられた感性を、観察、実験という合理的方
  法をつうじて真理に

 ・「イギリス唯物論と近代の実験化学全体の先祖はベーコン」(全集② 133
  ページ)

 ・ベーコンの「知は力なり」は有名

 ・『ノヴヌ・オルガヌム(新オルガノン)』―イドラの排除と帰納法

● 感性にもとづく真理認識のためには、観念論的な先入的偏見(イドラ)を排
 除して、唯物論の立場にたたねばならない

 1) 種族のイドラ(幻影)―人類一般に共通のイドラ(例えば自然のなかに目
  的因があるとする見解)

 2)洞窟のイドラ―個人特有の性質、習慣

 3)市場のイドラ―言語の悪用(事実からの乖離)

 4)劇場のイドラ―小泉劇場、詭弁、伝説、権威への盲信

● イドラを排除し、個々の事実から出発しつつ、実験・観察によって一般的命
 題を引き出す「帰納法」を確立する功績を残す

 ・帰納法は、個別から普遍を推理するのに対し、演繹法は普遍から個別を推理

 ・帰納法は部分から全体を推理する蓋然的推理にすぎないのに対し、演繹法は
  結論を前提とするという欠陥をもつ

 ・帰納と演繹のどちらも一面的であり、真理認識には両者の統一が必要


② ガリレオ・ガリレイ(1564〜1642)

●「近代自然科学の祖」

 ・自ら望遠鏡を作成して天体を観測し、コペルニクスの地動説を擁護。宗教裁
  判にかけられて地動説の放棄を命じられ、「それでも地球は動いている」と
  つぶやく

 ・鉄球落下の実験により、アリストテレス以来の目的的自然観を打ち破り、機
  械論的自然観に道をひらく―「落下の法則」を解明

● ベーコンより一歩進めた自然探究の方法を明確に

 ・自然現象の原因の探求は、目的因や形相因の探究にではなく、法則性、必然
  性の探究に

 ・法則性、必然性の探究は、分析と総合の統一によって


③ デカルト(1596〜1650)

●「近代哲学の父」であると同時に、「大陸の合理論の祖」

 ・「デカルトは、再び仕事を完全に発端から始めて、哲学の地盤を新しく形成
  した巨人」(『哲学史』㊦の2 74ページ)

 ・教会の権威、スコラ哲学などの一切の前提を無視し、単純な方法で単純な命
  題から始めて、二元論に到達

 ・まずすべてのものを疑い、それでも疑い切れないものとして、「われ」が存
  在するということと、その「われ」が「疑っている(思っている)」という
  こと―「物体」と「精神」

●「われ思う、ゆえにわれあり」

 ・「われ思う、ゆえにわれあり」の3つの意味

 ・1つは、「近代的自我」の思想を明確に示す

 ・2つは、「われ」が「思う」ところのみを信じることができるとして、理性
  を唯一の審判者とする合理論を示す

 ・3つは、物体と精神を世界の2大根本存在とする「デカルトの二元論」

● デカルトの「合理論」的世界観が示す合理論の2つの側面

 ・世界の第一原因は、無限実体の神

 ・デカルトはそれを理性的方法で証明する―理性は観念論の根拠になる

 ・理性とは、個別的、具体的なものから抽象的、普遍的なものを推理する能力

 ・理性による抽象化、普遍化が物質と結びついているとき、それは法則性、必
  然性の発見という積極的なものをもたらす

 ・理性による抽象化、普遍化が物質から切りはなされるとき、それは観念論と
  なる―デカルトの神の存在論的証明はその例

 ・デカルトは、無限実体としての神から、第2原因として有限実体の「物体」
  と「精神」を引き出す

 ・その論理の展開はともかくとして、世界の根本を物体と精神の「二元論」で
  とらえたのは、理性の積極性を示すもの

 ・さらにデカルトは、実体は性質をもつ―本質的性質としての「属性」と第二
  次的性質としての「様態」

 ・物体の属性は「延長」、様態は位置、形状、運動

 ・精神の属性は「思惟」、様態は感情、意志、表象、判断

 ・属性と様態の組合せにより、個々の事物が生まれるとする「世界観」となる

 ・ここにきて再び観念論に→「デカルトの二元論」により「思考と存在とはど
  ういう関係にあるか」(全集㉑ 278ページ)という近代の哲学の根本問題
  が与えられる

●「大陸の合理論」

 ・デカルトの合理論はスピノザ、ライプニッツ、ヴォルフに引きつがれ、「大
  陸の合理論」に

 ・経験論の帰納的推理に対し、合理論の演繹的方法

 ・しかしデカルトは、物理学の内部では物質が唯一の実体とする唯物論の立場
  に(機械論的唯物論)

● デカルトの機械論的唯物論の一面性

 ・機械論的唯物論の一面性は、ラ・メトリの『人間機械論』などにあらわれる

 ・ヘーゲルは自然を大きく機械的関係、化学的関係、目的的関係に分ける

 ・エンゲルスはこの3つの区分を「その時代にとっては完全だった」(全集
  ⑳ 537ページ)と評価

 ・自然的、社会的生命体をとらえるには目的論の見地が不可欠

 ・デカルトの機械論的自然観は17、18Cの唯物論を支配する
  ―3大発見により19Cの弁証法的自然観に