● 聴 講(①1:02:43、②43:29、③19:30)

 

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第13講 現代哲学①
     マルクス主義と反マルクス主義との対決

 

今回から現代哲学に入る。
冒頭に講師は、現代哲学で解明すべき課題を二つ提起。
一つは、マルクス主義への対抗意識のなかで形成されてきた現代哲学の挑戦を受けてもなお、マルクス主義は「動かぬ一点」を堅持している点を解明すること。
二つめは、ソ連・東欧の崩壊や今日の中南米に広がる「21世紀の社会主義」を展望する動きのなかで、「科学的社会主義の哲学をいかに発展させるか?」の課題に対する問題提起を行うことだ。

①レーニンの功績
1917年のロシア革命の指導者であるレーニンは、マルクス主義を「科学的社会主義」に発展させた功労者。特に哲学の分野では、「唯物論と経験批判論」(1909)の中でマルクス主義哲学の認識論を発展させた。「絶対的真理と相対的真理の区別と統一」の問題、「物質の根源性」を認める唯物論のいう「物質」の意味は、自然科学的物質ではなく「人間の意識から独立して存在し、そして人間の意識によって模写される客観的実在」であることを解明。さらに「哲学の階級性、党派性」を明らかにし唯物論と観念論の中間派を装うマッハ主義(経験批判論)を、観念論だと鋭く告発しその哲学の階級性を告発した。講師は、レーニンの「哲学における階級性、党派性の告発は現代哲学全体を批判する基準となるものだ」と強調する。

さらにレーニンは、ヘーゲル論理学を研究した「哲学ノート」において、弁証法の定式化の試みを行った。彼は、エンゲルスとは異なり弁証法の核心を「対立物の統一」と規定し、その展開として「対立物の統一」には調和的統一と排斥的統一の二つの側面があることを解明。ヘーゲル論理学の研究を通じてヘーゲル哲学を唯物論的と捉えたことも、レーニンの功績の一つといえる。

②科学的社会主義とはなにか
レーニンは、科学的社会主義の学説を初めて体系化。科学的社会主義はドイツ古典哲学、イギリス古典経済学、フランスの階級闘争論と社会主義論を源泉として、哲学、経済学、階級闘争論が学説の構成部分をなしていると規定した。これが今日においても科学的社会主義のテキストの構成を根拠付けしている。
しかし、講師はこうした規定では「狭すぎる」とする。この規定では最も大切な人間論が明確にされておらず、人間的価値としての「自由と民主主義」が学説の本質的構成部分から除外されており、社会主義が人間解放の真のヒューマニズムの社会であることが明確にされていないのではないかと問題提起し、科学的社会主義の学説は「すべての価値ある知識を源泉とした全一的世界観」と規定されるべきものと主張する。

③新カント主義の二つの支柱
新カント主義は19Cから20C初頭にかけドイツで広まったブルジョア哲学であり、「カントにかえれ」を合言葉に、客観的世界を主観的意識の産物としかみない観念論哲学だった。新カント主義は、「価値論」と「社会科学の法則否定論」を柱としてマルクス主義批判を展開。ランゲは「唯物論は自然界では正しいが、精神界では正しくない」と主張し、精神世界における価値は客観的世界とは無関係であるとし、哲学史上はじめて「事実と価値」の対立を明確化した。
さらにヴィンデルバントとリッケルトはカント哲学を価値哲学と捉え、「事実と価値」の対立において哲学では価値のみに意義があると捉えた。反復する自然には法則が存在するが、一回限りの運動である社会には法則は存在しないと主張し、社会科学の法則否定論を展開した。

④新カント主義の到達点
ウェーバーは、社会科学が「科学」であるためには「事実の真理」の認識のみにとどまるべきであって、価値判断を混入させてはならないとする「没価値論」を展開。社会科学は「為すべきこと」(理想)を問題としてはならないとし、マルクス主義は「為すべきこと」を教えることで「事実と価値」を混同するエセ科学だと批判した。
こうしてウェーバーは経験科学の「没価値論」と「社会科学の法則否定論」によって新カント主義の到達点を提示。その本質はマルクス主義を攻撃するところにあった。ウェーバーの見解は今日においても非常に大きな影響力を持ち、「階級支配のイデオロギー」として作用している。ウェーバーの最大の問題は、「事実と価値」を峻別することにより人間から「当為の真理」「価値の真理」を奪い去り、社会変革へ人間の意識が向かわないようにすることにより人間が「人間らしく生きる」ことを否定した点である。

現代においても「科学」を装いながら本質的に観念論を流布する見解が蔓延している。私達はそうしたエセ科学、エセ哲学を批判することに留まらず、そうした見解の階級性、党派性を不断に告発していかねばならない。