2013/05/25 講義

 

第14講 現代哲学②
     反マルクス主義としての現代観念論

 

1.非合理主義哲学(観念論②)

● 非合理主義哲学

 ・近代科学が戦争、貧困、原・水爆などを生みだしたとして、科学を否定し、
  科学を生みだした人間の理性を疑う

 ・近代哲学は、唯物論、観念論を問わず、合理主義、科学主義の立場

 ・非合理主義は資本主義の弊害を近代科学の責任に転嫁する、時代に逆行する
  哲学

 ・非合理主義哲学に、①生の哲学 ②現象学 ③実存主義の3つあり


① 生の哲学

● ニーチェ(1844~1900)

 ・生の哲学の代表。実存主義、ファシズムの先駆者

 ・生きることは非合理、科学は役に立たないとしてニヒリズムに―最後は精神
  病院で死亡

 ・非合理の「生」の本質が資本主義の人間疎外にあることをみない

● 主人道徳

 ・キリスト教的道徳は、貧しい者、力のない者、卑しい者を善とする「奴隷道
  徳」として批判

 ・一切の生は無価値として、ニヒリズムの立場から善悪を超える主人道徳を主
  張

 ・強いものを優良、弱いものを劣悪とする道徳

 ・生の本源は、力強い人間(超人)を生みだす「権力への意志」にあるとし
  て、支配と服従、強者と弱者の非合理の資本主義をそのまま肯定し、社会主
  義の否定に―ナチスに利用される


② 現象学

● フッサール(1859〜1938)

 ・主観的観念論の一形態

 ・客観世界そのものではなく、経験をとおして得られた意識体験としての「現
  象」のみが学問の対象になる

 ・「現象学的還元」―経験のうちにとらえられた諸感覚を意識の働き(ノエシ
  ス)で統一し、意味あい(ノエマ)を与えられた対象こそが真実の存在

 ・自然や社会の根源性を主張する唯物論と対決し、自然や社会のナマの事実を
  探究する諸科学への「判断停止(エポケー)」を要求

 ・反科学主義の立場から客観的真理を否定

 ・人間の内面世界に閉じこもる現状美化の「解釈の立場」

● メルロ・ポンティ(1908〜1961)

 ・フッサールの「現象学」をさらに「生活世界」の問題に限定し、日常生活の
  多様な生活体験の意味解明に

 ・フッサール以上に真理探究から遠ざかる


③ 実存主義

● 実存主義とは、人間はどんなに不合理な存在であっても代替性のない「現にあ
 る存在(実存)」として肯定すべきとする非合理の個人主義哲学

● キルケゴール(1813〜1855)

 ・実存主義の創始者

 ・近代社会の産物・自由と民主主義という人間的価値は人間を平均化するもの
  として批判し、「単独者」として主体的真実を求める「実存」の生き方を主
  張

 ・客観的真理を否定し、もっぱら人間の内面に真理を求めようとすることで、
  自由と民主主義という近代哲学の価値ある遺産まで否定

● ハイデガー(1889〜1976)

 ・具体的人間を「現存在」、あるべき人間を「実存」とよぶ

 ・世間一般の「現存在」としての人間から脱却し、本来的な自己としての「実
  存」に向かって自らを「投企」すべき、とする

 ・人間の生き方の当為を問題としたことの意義は認められるが、人間の内面の
  みに解答を求めたところから、結局ナチスに入党

● ヤスパース(1883〜1969)

 ・精神病理学の研究をつうじて、合理的知識でとらえられない人間の非合理な
  ものを明らかにするところに最高の知がある、とする

 ・非合理で代替不能な人間は「限界状況」で自己の「実存」の真の意味を明ら
  かにする

● 実存主義の人間論の問題点

 ・人間論を論じるのであれば、人間の本質とその疎外にこそ、「生」の不合理
  があることを明らかにすべき

 ・実存主義は「生」の不合理をもっぱら人間の内面に求め、内面のみの生き方
  の当為を求める観念論として実践的には反動的役割

● サルトル(1905〜80)

 ・ハイデガー、ヤスパースの個人主義を批判し、労働と生産関係を基礎とした
  具体的人間を論じる実存主義を主張

 ・現代のマルクス主義には人間学が欠けるから、実存主義で補足さるべきとす
  る

 ・「ソ連型社会主義」の人間抑圧を批判したものとして正しい批判を含む

 ・しかし、本来のマルクス主義は、人間解放の真のヒューマニズムであり、実
  存主義の導入ではなく、本来のマルクス主義への回帰が求められている

 ・著しい個人中心主義の実存主義と社会を構造的、階級的にとらえるマルクス
  主義とは両立しえない

 


2.実証主義(観念論③)

● 実証主義

 ・経験された事実や感覚のみが「実証的」だとして、それを超えるものの探究
  は形而上学とする一種の不可知論

 ・創始者のコント(1798〜1857)は「プロプテル・ホック」の探究を否定
  し、なしうることは諸現象間の継起的関係、つまり「ポスト・ホック」の関
  係の探究のみだとする―結局は資本主義美化論に

 ・マッハ主義のマッハ(1838〜1916)は、物質の実在と法則性を語ること
  は「形而上学」だとしりぞけ、物体を感覚の複合にすぎないとする

 ・彼らは本質と現象の弁証法的関係を否定し、現象のみをとりあげ、本質を論
  じない反科学主義

 ・唯物論に対決し、絶対的・客観的真理を否定

 ・以下に現代の実証主義としての新実証主義(分析哲学)とプラグマティズム
  をとりあげる


① 新実証主義

● 哲学の任務を統一的世界観の確立にではなく、日常的知識、命題の意味、構造
 の分析におくことで現象の世界をさまよう

● 言語分析としての記号論理学と結びつく

 ・記号論理学は、形式論理学の枠組みを一歩も出ず

 ・現象の意味あいを追いかけるのみであって、真理探究の哲学の大道から逸脱
  するもの

 ・その意味で、世界全体の真理を探究する科学的社会主義に敵対するもの


② プラグマティズム

● 生活のうえで有用であるか否かを真理の判断基準とする実用哲学

 ・源流は、ベンサムの功利主義―マルクスは、資本主義の本性を究めることな
  く「有用性」を真理の基準とすることで搾取を認めるばかげた理論と批判

 ・「有用性」の名のもとに無批判的な現状肯定論

● 俗流哲学として歴史のくず箱に入る運命

 


3.構造主義(観念論④)

● 社会的、歴史的現象の違いを時間的経過のなかで発展的にとらえるのではな
 く、構造の違いとしてとらえる

 ・ソシュール、レヴィストロース、アルチュセール(1918〜1990)

● アルチュセールの構造主義

 ・マルクス主義は、1845年以前には人間疎外論とヒューマニズムの構造を
  もっていたが、それ以後は階級的観点にたった生産関係の構造をもつとする

 ・マルクスがフォイエルバッハにかんする「第6テーゼ」で人間は「社会的諸
  関係の総和」としたことをもって転機とする

 ・人間の思想の発展は連続性と非連続性の統一としてとらえるべき

 ・マルクスは人間解放に生涯をかけ、初期の「私的所有のポジティヴな廃棄」
  (全集㊵ 457ページ)のヒューマニズムから、経済学研究をつうじて、生産
  手段の社会化による搾取と階級からの解放による真のヒューマニズムに達し
  たもの

 ・構造主義は、原始共同体から資本主義までの人間社会を発展的にではなく、
  構造のちがいとしてとらえるもの

 ・第6テーゼも、「人間的本質」が「社会的諸関係の総和」として現象する
  (本質は現象する)ことを明らかにしたもの

 ・結局、対立物の統一として存在するものを2つに区別したまま固定し、「も
  また」によって結合する観念論哲学

 


4.ネオ・マルクス主義(観念論⑤)

● ヨーロッパで革命運動が発展しないのは、史的唯物論の誤りを示すものとし
 て、科学的社会主義の国家論、階級闘争論を攻撃

 ・アルチュセール、プーランザス、ジェソップなど

●「国家は階級的力関係の凝縮」

 ・民主共和制の国会を念頭においたもの

 ・エンゲルスは、民主共和制も資本主義国家であり、「富はその権力を間接
  に、しかしそれだけいっそう確実に行使する」(全集㉑ 171ページ)とする

 ・1つは労働貴族の育成で、2つは「公的強力」の聖域化で、3つには「官吏
  の買収」(同)で

 ・ネオ・マルクス主義は、国家の一現象を国家の本質ととり違えたもの

●「経済還元主義」「階級還元主義」

 ・エンゲルスは史的唯物論を「経済的要因が唯一の規定的なもの」(全集㊲
  380ページ)とすることは、「抽象的な、ばかげた空文句にかえる」(同)
  とする

 ・マルクス「人数は、団結によって結合され、知識によってみちびかれる場合
  にだけ、ものをいう」(全集⑯ 10ページ)

 ・レーニン―労働運動の右翼的潮流とのたたかいなしに階級闘争を発展させる
  ことはできないことを強調

 ・史的唯物論の批判はしても、それに代替しうるより科学的な社会観は提起し
  えない

 


5.ソ連・東欧の崩壊

● ソ連・東欧の崩壊は社会主義の崩壊でも、科学的社会主義の破綻でもない

 ・日本共産党綱領「対外的には、他民族への侵略と抑圧という覇権主義の道、
  国内的には、国民の自由と民主主義を奪い、勤労人民を抑圧する官僚主義・
  専制主義の道」を進んだ結果、「社会の実態としては、社会主義とは無縁の
  人間抑圧型の社会として、その解体を迎えた」

 ・マルクス主義の社会主義論は骨格を示したのみ

● ソ連・東欧の崩壊の問題を含め、20Cの社会主義の実験を総括し、より発展
 した社会主義論を提起すべき責任を負っている

 


6.現代哲学の意義と限界

● 現代哲学は、マルクス主義の存在を前提として出発

 ・レーニンはマルクス主義を科学的社会主義に

 ・それ以外の現代哲学は、すべて観念論の立場からマルクス主義を攻撃

 ・「最近の哲学は……党派的である。たたかいあっている学派は、……事の
  本質上、唯物論と観念論である」(レーニン全集⑭ 433ページ)

 ・現代観念論のあれこれは、無限の真理を探究する立場を放棄し、「解釈の立
  場」にとどまっており、人民に無縁の哲学

 ・現代観念論の非真理性は、一時期もてはやされてもすぐに歴史の後景に追い
  やられていることに示されている

 ・現代哲学の挑戦は、科学的社会主義にとってかわる世界観を提起しないこと
  により、かえって科学的社会主義が「最後の哲学」であることを証明

● 残された課題は20Cの社会主義の実験の総括のうえに科学的社会主義の「進
 歩と発展」を実現すること