2013/06/22 講義

 

第15講 科学的社会主義の発展のために

 

1.科学的社会主義の哲学は「最後の哲学」

① 最も発展した哲学

● 哲学は真理探究の学問

 ・マルクス主義の哲学は、弁証法的唯物論と史的唯物論によって、真理を探究
  するうえでの「最も発展した哲学」に

● 最も発展した哲学

 ・唯物論の立場から、世界の根源性および認識の源泉性を存在(物質)に求め
  る

 ・世界の根本的必然性は「対立」にあることを前提として、対立物の統一の弁
  証法によって世界の法則性、必然性を認識する

 ・いっさいの不可知論をしりぞけ、実践を媒介として、無限に客観的、絶対的
  真理に前進しうることを明らかに

 ・最大の成果は、史的唯物論によって観念論の「最後の隠れ場所」であった歴
  史、社会観から観念論を追い出したこと

● 弁証法的唯物論と史的唯物論を駆使する以外に客観的真理に接近する方法はな
 い


② 最も豊富な哲学

● 自然、人間、社会という世界のすべてについて真理を探究しうる「全一的な世
 界観」

 ・エンゲルスの「自然の弁証法」の先見性

 ・人間の本質論、疎外論、人間解放論―「天賦の人権論」を打ち破り、人間の
  本質から生まれた人間的価値としての自由と民主主義を解明。人間解放こそ
  生き方の真理

 ・史的唯物論で、社会の発展法則を解明したのみならず、人類、社会、国家の
  起原を明らかに―国家の起原にかんする観念論的「社会契約論」を打ち破る

 ・史的唯物論と剰余価値学説により、資本主義の運動法則を解明し、社会主義
  への発展の必然性を明らかに

 ・史的唯物論をつうじて、最も豊富なカテゴリー論を展開

● 弁証法的唯物論と史的唯物論を使えば、世界のどんな問題についても真理を探
 究しうる


③ 最も深い哲学

● 2600年の哲学の歴史のすべての価値ある遺産を継承・発展させた最も深い哲
 学

 ・古代哲学から、生き方の当為、理想と現実の統一、弁証法を学び、発展

 ・中世哲学から、真理探究の哲学は唯物論でなければならないこと、支配階級
  のイデオロギーであってはならないことを学び、発展

 ・近代哲学から、唯物論とは世界の根源性の問題であると同時に認識の源泉性
  の問題であること、「思考と存在との同一性」には2つの側面があること、
  生き方の当為の問題を学び、発展

 ・現代哲学のうち、レーニンはマルクス主義を科学的社会主義に発展、その他
  の哲学はマルクス主義を批判し、乗り越えようとして果たさず

● 革命の立場にたつことで、最も深い哲学に


④ 科学的社会主義の哲学は「それまでに人類が生みだしたすべての
  価値ある知識の発展的継承者」

● 日本共産党の科学的社会主義の規定はマルクス主義以降の現代哲学をふまえて
 もなお基本的に正しい

● 残された問題は「歴史とともに不断に進行する不断の進歩と発展」を証明する
 こと

 


2.科学的社会主義の哲学の発展のために

・ソ連・東欧の崩壊および中南米の「21世紀の社会主義」の展望から何を学ぶべ
 きか

① 社会主義論

● 社会主義の原点は人間を最高の存在にする真のヒューマニズムの社会

 ・生産手段の社会化、プロレタリアート執権、社会主義的計画経済の3つの基
  準も真のヒューマニズムを実現する手段

 ・ソ連・東欧の誤りは、社会主義の原点を見失い、3つの基準を目的としてと
  らえることで「官僚主義・専制主義」に

● 真のヒューマニズム

 ・1つは、人間の類本質、とりわけ自由と民主主義の全面開花

 ・2つは、科学的社会主義の自由論の確立(否定的自由→形式的自由→必然的
  自由→概念的自由への発展)

 ・3つは、プロレタリアート執権論の真の意味は労働者階級の政党の主導性の
  もとにおける「人民の、人民による、人民のための政治」


② 思考と存在との同一性

● 科学的社会主義の哲学は革命の哲学

 ・「思考と存在との同一性」の問題を反映論的認識としての「事実の真理」の
  問題のみ強調し、能動的側面としての「当為の真理」および実践的真理を軽
  視

 ・人間の特質が自然や社会の変革能力を有することを正面からとらえない

 ・「事実の真理」と同時に「当為の真理」を認識することにより、変革の立場
  に

 ・「事実の真理」から「当為の真理」への発展を矛盾の揚棄としてとらえるこ
  とで「当為の真理」も「思考と存在との同一性」の問題としてとらえる

 ・存在(物質)はいっさいの認識の出発点になるという意味で根源的だが、
  「思考と存在とは相互に媒介しあう同一性」のうちに


③ 唯物論と観念論

● 思考と存在との関係は、これまで主として世界の根源性の問題として論じられ
 てきた

 ・しかし、フランス唯物論とドイツ観念論との対立は、世界の根源性と認識の
  源泉性の問題では必ずしも一貫しないことを鮮明に

 ・唯物論か観念論かの対立には、世界の根源性の問題と同時に認識の源泉性の
  問題があり、両者は区別されねばならない

 ・エンゲルスも、明確にではないが、この2つの問題の区別を示唆している

● 科学的社会主義は、このいずれの問題でも唯物論にたつことによって唯一の真
 理認識の思惟形式に

 ・レーニンが「唯物論と経験批判論」で展開した唯物論か観念論かを見分ける
  「3つの質問」は、もっぱら世界の根源性のみを問題とするものとして不十
  分


④ 弁証法の定式化

● 弁証法の定式化は未完の作業

● 弁証法と形式論理学

 ・弁証法と形式論理学とは、全面的真理か一面的真理かの問題

 ・弁証法は連関と運動の法則ではなく、自立と連関の統一、静止と運動の統一
  を論じる

 ・形而上学とは、形式論理学がその限界を越えて適用することで生じる誤った
  認識

● 弁証法の基本法則は対立物の統一

 ・なぜ対立物の統一が真理認識の唯一の思惟形式なのかが論じられなければな
  らない

 ・必然性を認識することは、「他者をそれに固有の他者に対立するものとみる
  こと」(『小論理学』㊦ 32ページ)

 ・事物の静止は、対立物の自立的統一

 ・事物の運動は、対立物の媒介的統一

 ・媒介的統一に、対立物の相互浸透と対立物の相互排斥がある―前者は相互に
  移行する運動、後者は矛盾を揚棄する発展の運動

 ・「一般に、世界を動かすものはの矛盾である」(同33ページ)

● エンゲルスの「3つの法則」

 ・質と量の弁証法、対立物の相互浸透、否定の否定の「3つの法則」

 ・しかし、基本となる「対立物の統一」が明確にされていない

 ・対立物の相互浸透と対立物の相互排斥は一対のもの

 ・質と量の相互移行は、対立物の相互浸透の一例にすぎない

 ・矛盾の揚棄としての発展と、否定の否定は区別すべき


⑤ 科学的社会主義の人間論

● マルクスは、マルクス主義を経済、法、道徳、政治等、土台と上部構造のすべ
 てを網羅するものとして展開することを予定していた

 ・レーニンの「3つの構成部分」では足りない―特に人間論

● 人間論は、人間解放を唱える科学的社会主義の本質的構成部分

 ・人間の本質論には、マルクスのいう「自由な意志」と「共同社会性」に加
  え、価値意識を含めるべき

 ・「自由な意志」から自由という価値、「共同社会性」から民主主義という価
  値―自由と民主主義は、人間にとって本質的、普遍的価値

 ・自由を4段階の発展する自由としてとらえることで、ブルジョア的自由(形
  式的自由)の限界性を明らかに

 ・人間論を論じることで生き方の真理が人間解放にあることが明確になる

● 科学的社会主義の政治論

 ・マルクスの「政治プラン」(全集③ 596ページ)―「国家と市民社会」
  「民主主義的代議制国家」「選挙権」「人民主権」「諸々の政党」などを
 予定

 ・人民主権国家としての社会主義に至る過程は多数者革命

 ・プロレタリアート執権論は、科学的社会主義の政党の主導性のもとにおける
  人民主権の権力

 


3.おわりに

● 科学的社会主義の哲学は「人類が生みだしたすべての価値ある知識の発展的継
 承者」

 ・古代、中世、近代の哲学の成果を引きつぎ、現代哲学の反共攻撃をふまえて
  もなお「最後の哲学」

●「不断の進歩と発展」に

 ・本講での問題提起を機に、議論の発展を

 ・提起した問題点は、哲学史の講義を準備する過程で掴みえたもの

 ・「哲学史の研究こそ即ち哲学そのものの研究」(ヘーゲル)

 ・「不断の進歩と発展」のために哲学史の研究は不可欠

● 哲学史を学ぶ意義は、時代の精神をとらえ、それに現実性を与えること