2015年12月12日 講義

 

 

第2講 「事実は真実の敵なり」

 

1.すべての事物は対立・矛盾をもっている

● 真理とは、すべての事物が対立・矛盾をもっていることを認めること

 ・「運動のない物質が考えられないのは、物質のない運動が考えられないの
  と同じ」(エンゲルス全集⑳ 61ページ)

 ・すべての事物は対立・矛盾をもっていることによって運動している

 ・真理とは、すべての事物が対立・矛盾をもっていることを認めること

●「事実は真実の敵なり」

 ・真理とは、すべての事物を一面的にとらえるのではなく、全面的にとらえ
  ること

 ・全面的にとらえるとは、すべての事物を「対立物の統一」としてとらえる
  こと

 ・すべての事物を一面的にとらえることは、「真実の敵なり」

 ・「誤謬は、……感覚的経験が保証する以上により広い、より一般的な存在
  を度はずれに認めるところにある。誤謬の本質は、逸脱ということである」
  (ディーツゲン)

 ・対立・矛盾の一方のみを「度はずれ」に誇張することは一面的であり、誤
  謬の原因

 

2.すべての事物は対立物の統一である

● 弁証法を学ぶことは、対立物の統一のいくつかの基本形式を学ぶこと

 ・弁証法を体系的に論じたへーゲルの「論理学」には、いくつかの対立物の
  統一の例が示されている

 ・そのうちのいくつかを身につけておくことで、弁証法の応用能力は格段に
  高まる

 ・そのいくつかの例を紹介しておきたい

● 偶然と必然の統一

 ・「柳の下の」「を守りて兎を待つ」

 ・偶然と必然を取り違えることのたとえ

 ・すべての事物は偶然と必然の統一としてのみ存在している

 ・すべてを偶然としてとらえる誤謬──自然や社会の必然性、法則性を否定
  するもの

 ・すべてを必然としてとらえる誤謬──「エンドウのさやに5つのエンドウ
  豆がはいっていて4つでも6つでもない」(全集⑳ 526ページ)という偶
  然までも必然とする「決定論」の誤謬

 ・すべての事物は偶然と必然の統一としてあるから、偶然を排して必然を生
  かす人間の実践の意義がある

 ・すべての事物が必然なら人間の実践の果たすべき役割はなく、すべての事
  物が偶然なら人間の実践は空回りするのみ

 ・真理の認識とは、偶然と必然の統一のうちにある自然や社会のうちに、存
  在する必然性を見いだすこと

● 本質と現象の統一

 ・「下手の長談義」「重箱の隅をつつく」

 ・現象のみを追いかけ、本質をみないことのたとえ

 ・すべての事物は、本質と現象の統一としてのみ存在する

 ・本質は、その事物の「真の姿」であり「不変なもの」であるのに対し、現
  象は、その事物の多様な変化を示すもの

 ・本質と現象の相互媒介の関係が、その事物の「運動=発展法則」を生みだ
  す

 ・すなわち、変わらぬ本質がさまざまな現象形態をもって現れるところに、そ
  の事物の運動=発展法則がある

● 同一と区別の統一

 ・「蛙の子は蛙」と「トンビが鷹を生む」

 ・前者は同一(A=A)を示し、後者は区別(A=A'orB)を示す

 ・すべての事物は、同一と区別の統一としてのみ存在する

 ・すなわち、すべての事物は、静止しているように見えながら、不断に変化
  し発展している

 ・すべての事物は、直接性と媒介性の統一、自立と連関の統一として、同一
  と区別の統一のうちにある

● 量と質の統一

 ・「塵も積もれば山となる」「三人寄れば文殊の知恵」

 ・量を蓄積すると、質の転化をもたらす

 ・すべての事物は、量と質の統一としてのみ存在し、「モノには限度がある」
  ことに

 ・量と質とは全く異なるものだが、量の変化が限度を越えると質の変化とな
  ってあらわれる

 ・量から質への移行は、対立物の相互移行の一例

● 理想と現実の統一

 ・「百貫の鷹も放さねば知れぬ」

 ・物や人の値打ちは、実際に使ってみないと分からないことのたとえ

 ・すべての理想は、外見だけで判断するのは難しく、実際を通じてでないと
  本当のことは分からない

 ・現実の矛盾を解決するもののみが、真の理想となる

 ・事実の真理を知ることをつうじて、当為の真理を知ることになる──マッ
  クス・ウェーバーの誤り

 ・事実と価値の統一は、現実と理想の統一をもたらす

 

3.弁証法を2つの観点から取り組む

● 私たちが主体的に生きるには、
 ①世界(自然)をどう変えるのか、②人間同士がどう生きるのか、
 の2つの観点が重要

 ・この2つの観点において、弁証法がいかに「最も鋭利な武器」となるかを
  見ていくことにする

● 人間は直立2足歩行の本質をもつ動物

 ・この本質から手を動かしモノをつくるという現象が生じる(本質と現象)

 ・モノをつくるとは、対象となる事物(自然)を変革の立場にたって考察す
  ること

 ・変革の立場にたって事物を考察するとき、事物は対立・矛盾をもってあら
  われる

 ・事物の対立・矛盾を解決するものとして、事物の変革がみえてくる

 ・人間は変革の立場にたつことで、世界をどう変えるのかがみえてくる=真
  の理想

● 人間は社会的存在の本質をもつ動物

 ・人間とチンパンジーとはDNAで1%の違いもない

 ・それなのに生活様態に大きな違いの生じているのは、社会(生活と生産の
  場)をもっているか否かの違いによるもの

 ・この本質から、「1人はみんなのために、みんなは1人のために」という
  一と多の統一の問題が生じる

 ・「最高の共同性は最高の自由である」(へーゲル)

 ・人間は自由と民主主義を身につけることで社会的存在となりうる