2016年1月9日 講義

 

 

第3講 「一葉落ちて天下の秋を知る」

 

1.すべての事物の運動法則・発展法則を
  知ることで未来を予測しうる(変革の立場)

●「一葉落ちて天下の秋を知る」

 ・ほんのちょっとした現象によって、あとに起こる大勢を予知することのた
  とえ

 ・その事物の現象をつうじて、その事物の本質の動きを予測すること

 ・つまり、その事物の現象と本質の関係をとらえることで、その事物の未来
  を予測しうることになる

● 変革の立場にたつとは、世界の事物を現象と本質の対立・矛盾としてとらえ
 ること

 ・「事実は真実の敵なり」とは、現象としての事実が、本質が転倒したり歪
  曲してあらわれる非本質的現象となっている場合を意味している

 ・現象と本質とが調和的統一のうちにあるのか、それとも対立・矛盾のうち
  にあるのかを見定めることがまず重要になってくる
  「本質は現象しなければならない」(へーゲル)

 ・現象をつうじて本質をとらえ、本質をとらえることで現象を知ることで、
  その事物の運動・発展法則を知ることができる

 

2.社会主義の本質と現象(実例①)
   ──変革の立場

● 東欧・ソ連の崩壊により「社会主義は崩壊した」「社会主義とは自由と民主
 主義を抑圧する体制」の大合唱

 ・社会主義の本質を自由と民主主義との関連でどうとらえるべきなのかが問
  題とされた

 ・社会主義の本質を「過ぎ去った有」(へーゲル)の見地から探求

 ・本質は不変なものとして、その事物が歴史的に登場してきたときからもっ
  ているのであり、したがって「過ぎ去った有」(過去の登場したときから
  もっていた有=存在)となる

● 1848『共産党宣言』の冒頭に「1つの妖怪がヨーロッパをさまよっている
 ──共産主義の妖怪が」とある

 ・なぜこの時期に社会主義・共産主義の運動が全ヨーロッパに広がったのか
  といえば、フランス革命の影響

 ・エンゲルス「今日のヨーロッパの社会運動全体は革命(フランス革命)の
  第2幕」(全集② 639ページ)

 ・フランス革命の「自由・平等・友愛」の理念は、革命が挫折したのちも、
  社会主義思想として存続

 ・ルソーの人民主権論を継承したバブーフの「平等のための陰謀」は、「ほ
  んとうの自由およびほんとうの平等、すなわち共産主義」(全集① 524
  ページ)を掲げたもの

 ・バブーフ共産主義は、フランスの7月革命(1830)、2月革命(1848)
  をつうじて、パリ・コミューン(1871)の社会主義思想に

 ・日本でも同様に、ルソーの思想を継承した自由民権運動の発展として、日
  本共産党が誕生

 ・幸徳秋水・堺利彦の『平民新聞』(第1号)は「自由・友愛・平等」の社
  会主義を唱え、堺は日本共産党の初代委員長となる

● 社会主義の「過ぎ去った有」としての本質は、自由と民主主義にある

 ・それを否定するソ連や東欧の社会主義は、社会主義の本質を否定する現象
  にすぎない

 ・科学的社会主義の社会主義論とは、フランス革命の「自由・平等・友愛」
  をさらに発展させたもの

 ・ソ連・東欧の社会主義は、社会主義論の中心を生産手段の社会化におき、
  社会主義がフランス革命の「第2幕」であることを忘れたもの

 

3.人間の本質と現象(実例②)
   ──社会的存在の立場

● 人間は性善説と性悪説の統一

 ・人間の本質は性善説(孟子)か性悪説(荀子)かをめぐって対立し、「人
  は天使にも悪魔にもなりうる」といわれている

 ・真理は、人間の本質を性善説と性悪説の統一としてとらえることにある

 ・それを人間の類本質とその疎外(現象)の統一としてとらえたのがマルク
  ス

● 人間の本質と現象

 ・すなわち、人間は約700万年に及ぶ原始共同体の生活をつうじて、人間の類
  本質を形成

 ・それは「自由な意識」と「共同社会性」と「自由と民主主義の価値意識」
  という3つの類本質をなしている

 ・この3つの類本質が、人間の性善説を生みだし、人間の「良心」を形成して
  いる

 ・人間がこの類本質に反して行為するとき、心の内に後悔、呵責の念、疚し
  さが生じる

 ・階級社会のもとで、人間の類本質は疎外され、性悪説となって現れる

 ・つまり階級社会のもとで人間の本質と現象とは対立・矛盾のうちにおかれ
  る

 ・人間の現象が本質に打ち勝つとき、人間は悪人となり、本質が現象に打ち
  勝つとき人間は善人になる

 ・人間は善人として類本質としての良心にもとづき、疎外からの解放という
  社会変革を求める

 ・それを「理性」とよぶ。理性とは人間の類本質にもとづく変革の意識であ
  り、最も人間らしい心である

 ・マルクス、エンゲルスは、資本主義の矛盾の解明にとどまらず、人間の本
  質と現象の対立・矛盾を直視し、人間解放の社会主義・共産主義を展望し
  た

 

4.解釈の立場と変革の立場
   ──社会的存在の立場

● マルクスの変革の立場

 ・「哲学者たちは、世界をさまざまに解釈しただけである。肝要なのは、世
  界を変えることである」(『フォイエルバッハにかんする第11テーゼ』)

 ・解釈の立場とは、「世界はどのようにあるか」を問題とし、変革の立場と
  は「世界はどのようにあるべきか」を問題とする

 ・マルクスは、人間と他の動物との違いを変革の立場に求め、人間が人間ら
  しく生きることは世界を変革することにあると考えた

● マルクスは世界をどのように変革しようとしたのか

 ・そこには2つの命題があった。1つは人間を最高の存在にすることであり、
  もう1つは人間の現実はいやしめられているということ

 ・「人間にとっての根本は、人間そのものである。……(人間は)人間にと
  っての最高の存在である」(「へーゲル法哲学批判」全集① 422ページ)

 ・「人間をいやしめられ、隷属させられ、見すてられ、軽蔑された存在にし
  ておくようないっさいの諸関係を、くつがえせ……という、至上命令をも
  っておわる」(同)

 ・すなわち世界を変革する目標(理念)は、人間をいやしめているいっさい
  の諸関係をくつがえし、人間を最高の存在にすること

 ・この変革の立場を生かすために、資本主義の分析と研究にとりかかり、資
  本主義の矛盾を解明し、その矛盾を解決する社会主義・共産主義を展望し
  た

● エンゲルスは、資本主義そのものを変革し、人間を最高の存在にするために
 生涯をかけた

 ・マルクス、エンゲルスの変革の立場はたんなる変革ではなく、資本主義的
  矛盾の解決による人間解放という変革の立場

 ・この立場を堅持するためには、解釈の立場を投げすて、変革の立場にたた
  ねばならない

 ・このマルクス、エンゲルスの史的唯物論の怖さに気づいたのが、マックス
  ・ウェーバー(1864〜1920)の「没価値論」

 ・ウェーバーの「没価値論」批判を我がものとしなければならないが、次回
  以降に

● マルクス、エンゲルスの変革の立場を継承・発展させているのが日本共産党

 ・「自共対決」時代の本格的始まり

 ・国民の「野党は協力せよ」の声にこたえた「戦争法廃止の国民連合政府」

 ・日本共産党の提案が、国民主導の国民統一戦線結成の動きに(2000万署名)

 ・国民連合政府の提案が解釈の立場か変革の立場かの分岐点になっている