2016年8月20日 講義
第1講 弁証法と形式論理学
1.『資本論』の弁証法
● 弁証法は2600年の哲学史上、最高の哲学
・科学的社会主義が弁証法を「理論的な基礎」(規約)としているのは、そ
れが真理を認識するうえで哲学史上の最高の哲学だから
・それまでの哲学における真理認識の方法論が形式論理学だけだったのに対
し、弁証法は形式論理学を内に含む真理認識の方法論となっている
・弁証法は、世界のすべてのものを対立物の統一としてとらえることで、変
革の哲学となった
・『資本論』は、弁証法が最高の哲学であることを証明
●『資本論』の第1巻(マルクス)は1867年、
第2巻(エンゲルス)は1885年、第3巻(同)は1894年
・今から100年以上昔の著作であるにもかかわらず、現代の資本主義の特徴
もとらえている
・それだけ資本主義の本質をしっかりとらえている
・マルクスは、自分がへーゲルの弟子であると認め、『資本論』で用いた方
法が弁証法であることを指摘
・また弁証法は、認識の対象を対立物の統一としてとらえることにより、
「本質上批判的であり、革命的である」(あと書き〔第2版への〕)と述
べている
・『資本論』は、弁証法を使って初めて資本主義的な搾取の秘密を解明する
ことで、資本主義が歴史的に社会主義に移行せざるをえない必然性を明ら
かにした
・それを全5回の講義で説明していきたい
2.認識の発展
● 認識は対象の特定に始まる
・認識は、まず対象が「何であるか」を特定することに始まる
・対象が「何であるか」を特定する方法が形式論理学
・すなわち形式論理学は、対象を「固定した、不動のもの」(全集⑳ 21ペ
ージ)としてとらえる思惟形式
・形式論理学は、すべてのものは運動、変化、発展しているにもかかわらず、
それを不動のものとしてとらえることによって、それが「何であるか」を
明らかにしようとする
・その意味で形式論理学は狭い範囲ではあっても真理認識の方法であり、
「いわゆる常識の考え方」(同)であって「きわめて広い領域で正当性」
(同)をもっているが、「遅かれ早かれかならず限界」(同)につきあた
る
・なぜなら、すべてのものは運動、変化、発展しているからである
● 認識は対象を運動、変化、発展においてとらえる
・対象を、「不動のもの」から「運動するもの」としてとらえようとすると
き、形式論理学は限界につきあたる
・その限界をのりこえようとするとき、弁証法という認識方法が必要となっ
てくる
・したがって弁証法は形式論理学を否定するものではなく、形式論理学の
「不動のもの」という一面性をのりこえるもの
・すべてのものは運動、変化、発展しているから、人間の認識は、形式論理
学から弁証法へ、さらに弁証法から形式論理学へと発展することにより、
全面的な真理の認識へと接近する
● 形式論理学と弁証法
・弁証法は、形式論理学に対立するものではあっても否定するものではない
・結局、哲学史のなかで残る真理認識の方法は「形式論理学と弁証法である。
そのほかのものはみな、自然と歴史とにかんする実証科学に解消してしま
う」(同25ページ)
・しかも人間の認識において形式論理学と弁証法はともに必要なものであり、
しかも形式論理学から弁証法へ、弁証法から形式論理学へと移行し、揚棄
されるという関係にある
3.『資本論』は商品の特定から始まる
● 資本主義とは「何であるか」
・資本主義社会の富はどのようにして生産されるのか、が問題とされる
・「労働はあらゆる富の源泉である」(エンゲルス「猿が人間化するにあた
っての労働の役割」全集⑳ 482ページ)
・労働から生まれた富は、資本主義社会のもとでは、市場において、商品と
して交換される
・したがって、「資本主義とは何であるか」の問いに答えるには、商品の特
定から始めなくてはならない
● 資本主義を商品の特定から始めるのは、形式論理学である
・資本主義とは何かという形式論理学の課題に答えるには、分析に分析を積
み重ね、そのなかの最も本質的な要素を特定し、とり出すことが必要とな
る
・マルクスは、資本主義を「研究」(『資本論』① 27ページ)するには、
「素材を詳細にわがものとし、素材のさまざまな発展諸形態を分析し、そ
れらの発展諸形態の内的紐帯をさぐり出さなければならない」(同)
・その「内的紐帯」が商品としてとらえられた
4.商品の運動をとらえるのが弁証法
● 商品を見ているだけでは、商品の運動は出てこない
・形式論理学から導き出されたのは、「資本主義社会の富は商品として示さ
れる」というだけのもの
・商品を見ているだけでは、商品交換という運動も、搾取の秘密も生まれて
こない
・商品の運動を把握するには、形式論理学から弁証法に移行しなければなら
ない
● 商品を質と量の統一としてとらえる
・マルクスは、商品には質と量という対立物の統一があることを見いだす
・商品の質とは、商品が人間にとって役に立つ(有用性)ものという、「使
用価値」をもっていること
・商品の量とは、商品は富の源泉である労働の産物として、市場で一定割合
で交換されるという「交換価値」をもっていること
・労働者の生産労働は、1つの労働でありながら、使用価値と交換価値をも
つ1つの商品をつくり出す(具体的な有用労働と抽象的な人間的労働とい
う労働の二重性)
・ある質をもつ商品(卵)は他の質をもつ商品(米)と、等しい交換価値
(卵20個と米1升)で交換され、商品交換が可能となる
・商品を使用価値と交換価値の統一としてとらえることで、商品交換という
商品の運動が生まれる
● 使用価値と交換価値の対立と統一という弁証法のうちに、マルクスは「資本
主義とは利潤第一主義である」という形式論理学を導き出す
・商品の使用価値と交換価値の対立は、商品交換をつうじて分裂し、市場に
おける商品(使用価値)と貨幣(交換価値)の対立に転換する
・商品の流通と資本(貨幣)の流通を比較する
・商品の流通は「W―G―W」であるのに対し、資本の流通は「G―W―G'」
であることを見いだす(W=商品、G=貨幣)
・商品の循環の目的は使用価値、資本の循環の目的は剰余価値
・資本とは、流通のなかで自己増殖する貨幣
・したがって資本の循環を「推進する動機」(『資本論』② 255ページ)と
「規定的目的」(同)は、交換価値そのもの
・マルクスは、商品を使用価値と交換価値の統一という弁証法をつうじて、
「資本主義とは、利潤第一主義の生産様式」という形式論理学の結論を導
き出す
5.形式論理学と弁証法
●『資本論』は、形式論理学と弁証法の交互作用の産物
・マルクスは、商品の特定から始めて、使用価値と交換価値の対立と統一を
論じ、その弁証法をつうじて資本主義の本質は利潤第一主義にあることを
つきとめた
・『資本論』では、形式論理学と弁証法の交互作用、つまり形式論理学から
弁証法に、弁証法から形式論理学にという交互作用が随所に用いられている
● 形式論理学と弁証法
・この2つの真理認識の方法は、真理を認識するうえでどちらも必要
・まず対象が「何であるか」を認識し、ついで対象の運動、変化、発展をと
らえ、より深い「何であるか」を把握するという認識方法をくり返すこと
で真理に接近していく
|