2016年9月17日 講義

 

 

第2講 弁証法の核心は対立・矛盾にある

 

1.対象の運動、変化、発展をとらえるには、
  対象のもつ対立・矛盾をとらえなければならない

● すべてのものは、内部に対立をもつことで自己運動する

 ・形式論理学のように、対象を「固定した、不動のもの」ととらえると、A
  =Aとして自己運動は起こりえない

 ・弁証法は、対象のうちに対立する2つの極が存在すると考えることで、対
  象の自己運動をとらえる

 ・対立とは、2つの極が「或るものとその固有の他者」という、切っても切
  れない関係にあるとしてとらえること

 ・弁証法は、すべてのもののうちに対立をとらえることで、対象の自己運動
  をとらえる

● 対立するものは矛盾である

 ・対立する2つの極は、相互に媒介し合うことで、対立物の統一とよばれて
  いる

 ・対立する2つの側面が相互に自立しているとき運動は生じないが、相互に
  浸透しあったり相互に排斥しあったりすると運動が生じる

 ・相互に排斥し合う運動は矛盾とよばれ、その矛盾を解決することでその事
  物は発展する

 ・したがって、対立するものは矛盾に移行するのであり、対立は矛盾である

● マルクスは、「資本主義とは利潤第一主義の社会」という形式論理学的な結
 論から、さらに弁証法により搾取の秘密の解明に

 ・解明すべき問題は、「われわれの貨幣所有者(資本家―高村)は、商品を
  その価値どおりに買い、その価値どおりに売り、しかもなお過程の終わり
  には、彼が投げ入れたよりも多くの価値を引き出さなければならない」
  (『資本論』② 284ページ)

 ・その秘密は、資本家が生産に先立って購入する労働力のもつ対立・矛盾に
  あった

 

2.『資本論』は労働力の対立・矛盾をつうじて
  搾取の運動を解明する

● マルクスの功績

 ・エンゲルスは唯物史観と剰余価値学説の発見によって社会主義は科学にな
  ったといっている

 ・「剰余価値学説」とは、搾取の運動を解明した学説

 ・マルクスは、労働力の対立・矛盾をつうじて、はじめて搾取の運動を解明

● 労働力の形式論理学

 ・まず「労働力とは何か」という形式論理学から始める

 ・「労働力とは何であるか」は、労働力を労働と労働者とから区別すること
  で回答がえられる

 ・それは、労働者を「一定時間働かせる(労働させる)」ために雇い入れる
  のであって、労働者を丸ごと買い占めるのではない

 ・資本家が労働者を時間ぎめで雇い入れるのは、労働者が働く力(労働力)
  をもっているからであり、その労働力を使って富を生産させるため

 ・労働そのものは、富の源泉ではあるが、富そのものではないから、商品に
  はなりえない

 ・資本家は、労働者から労働者のもっている働く力(労働力)を、商品とし
  て購入する

● 労働力の弁証法

 ・マルクスは、労働力という商品の購入という形式論理学から、搾取の秘密
  という弁証法的結論を導き出す

 ・すべての商品は、交換価値と使用価値をもつ

 ・商品の交換価値は、その商品の生産にどれだけの労働を必要とするのかと
  いう、「社会的に必要な労働時間」によって決まる

 ・「労働力」という商品も、交換価値と使用価値をもつ

 ・労働力の交換価値は、人間が日々労働力を再生産するのに必要な生活諸手
  段を生産するのに必要な労働時間、言いかえると生活諸手段の価値によっ
  て決まる(価値は固定)

 ・これに対し労働力の使用価値は、労働力を使うことで新しい価値を生産す
  るところにある(価値は変化する)

 ・資本家は、その交換価値にしたがって購入した労働力を、その使用価値に
  したがって使い、労働力の交換価値の2倍の価値(剰余価値)を生産する

 ・すなわち資本家は、労働力の交換価値と使用価値の対立・矛盾によって剰
  余価値を取得する

 ・資本家は等価交換で労働力を購入し、不払い労働を取得する不等価交換で
  終わる

 ・マルクスは、「労働の売買がその枠内で行われる流通または商品交換の部
  面は、実際、天賦人権の真の楽園であった。ここで支配しているのは、自
  由、平等、所有およびベンサムだけである」(同② 300ページ)と皮肉っ
  ている

 ・資本家は、労働力を等価交換で自由に手に入れることをとらえて、資本主
  義を「自由主義経済」とよぶ

● 資本主義では搾取の秘密は隠されている

 ・労働者は自ら学習しないと、搾取の秘密がみえてこないのであり、資本家
  の「自由主義経済」の旗印にごまかされる

 ・それは、奴隷制、封建制の搾取が目にみえる流通過程にあるのに対し、資
  本主義的搾取は生産過程にあって目にみえないからである

 

3.資本家階級と労働者階級の階級的対立

● 資本の本質は利潤第一主義のもとで搾取を強化することにある

 ・資本は機械制大工業により、機械によって労働者の搾取を強めていく

 ・資本の本質は、剰余価値の生産(搾取)そのものにある

 ・「"大洪水よ、わが亡きあとに来たれ!"これが全ての資本家および資本家
  国民のスローガンである」(同② 464ページ)

● マルクスは、資本の蓄積が資本家階級と労働者階級の階級的対立を生みだす
 ことを明らかに

 ・資本は、利潤第一主義の本質にもとづいて資本を蓄積し、拡大再生産の道
  を歩む

 ・それとともに、雇用する労働者をふやし、中間階級から労働者階級を生み
  だし、労働者階級を増大させる

 ・他方で資本の蓄積は、資本の有機的構成(機械の割合)を高め、労働者を
  次々と職場から放逐する

 ・つまり労働者階級は一方で全体として増大しながら、他方で産業予備軍が
  ふえていく

 ・産業予備軍の存在は、労働力を価値以下でしか販売できない状況をつくり
  出す

 ・資本は搾取を重ねてますます肥大化しながら、他方で労働者は価値以下で
  しか労働力を販売できなくなり、女性も子どもも労働せざるをえなくなる

 ・資本主義的蓄積の一般的法則は、「資本の蓄積に照応する貧困の蓄積を条
  件づける。したがって、一方の極における富の蓄積は、同時に、その対極
  における、すなわち自分自身の生産物を資本として生産する階級(労働者
  階級―高村)の側における、貧困、労働苦、奴隷状態、無知、野蛮化、お
  よび道徳的堕落の蓄積である」(『資本論』④ 1108ページ)

 ・資本主義社会は、資本家階級と労働者階級との階級的対立のうちにあると
  いう、階級的観点を堅持することが重要

 ・マルクスは、資本主義的搾取の秘密は貧富の格差を拡大し、多国籍企業に
  よって全世界的に資本家階級と労働者階級という絶対的な階級的対立を生
  みだすことを解明
  現代のカジノ資本主義は、アメリカ中心の1%の金融富裕層と全世界の
  99%の一般市民との対決を生みだしている

 ・そこから生まれる結論が「万国のプロレタリア団結せよ!」(「国際労働
  者協会創立宣言」全集⑯ 11ページ)というもの

 ・全世界の労働者階級が団結して1%の富裕層にたち向かってこそ、労働者
  階級の解放を実現しうるのであり、発達した資本主義である日本の労働運
  動にその役割がのしかかっている

 

4.階級闘争の弁証法

● 階級闘争の歴史

 ・「これまでにすべての歴史は、原始状態を別にすれば、階級闘争の歴史で
  あった」(「空想から科学へ」全集⑲ 205ページ)

 ・「原始状態」とは、人類の歴史の99%以上を占める原始共同体という無
  階級社会

 ・階級社会が存続するかぎり、階級闘争はなくならない

 ・マルクス、エンゲルスは、資本主義社会の階級闘争をつうじて、社会主義
  ・共産主義という階級のない社会を展望した

● 科学的社会主義の任務

 ・近代プロレタリアートの歴史的使命は、世界解放の事業を遂行すること

 ・この歴史的使命を帯びた被抑圧階級に階級的観点を植えつけ、「彼ら自身
  の行動の諸条件と本性とを意識させること」(同225ページ)が、科学的
  社会主義の任務

 ・科学的社会主義の任務を明確にするという形式論理学で、『資本論』は終
  わる