2016年11月19日 講義

 

 

第4講 矛盾は展開する

 

1.矛盾と運動

● 運動そのものが1つの矛盾

 ・「われわれが事物を静止した、生命のないものとして、個個別々に、相並
  び相前後するものとして考察するあいだは、たしかに、それらの事物にお
  いてどんな矛盾にもぶつからない」(全集⑳ 125ページ)

 ・「しかし、われわれが事物をその運動、変化、生命、交互作用において考
  察するやいなや、……われわれはたちまち矛盾におちいる」(同)

 ・「こういう矛盾をたえず定立しながら同時に解決してゆくことが、すなわ
  ち運動なのである」(同)

● 矛盾の定立と解決

 ・変革の立場とは、「矛盾を定立しながら同時に解決してゆくこと」

 ・言いかえると、現実のうちに矛盾を見いだし、その矛盾を解決する方向に
  たたかいを進めていくこと

 ・それが階級闘争の課題である

 ・階級的観点にたって現実を見すえ、労働者・国民の利益につながる方向に
  矛盾の解決を見いだすことを階級闘争の課題に掲げる

 ・階級闘争は、階級的矛盾を解決する労働者・国民の運動であり、このたた
  かいによって矛盾は展開し、解決に向かって前進する

 

2.『資本論』の階級闘争

●『資本論』の「諸階級」

 ・『資本論』の最終章第3部(第52章)は、「諸階級」という表題になって
  いるが、わずか数ページで中断され、未完に終わっている

 ・エンゲルスは、第3部の序章で「資本主義社会の3大階級」(『資本論』
  ⑧ 15ページ)と「彼らの実存とともに必然的に生じてくる階級闘争とが、
  資本主義時代の実際に現存する結果として叙述されるはずであった」(同)
  と述べている

 ・マルクスからエンゲルスへの『資本論』第3部の概要を説明した手紙にも、
  「結びとして、いっさいのごたごたの運動と分解とがそこに帰着するとこ
  ろの階級闘争」(全集㉜ 64ページ)とされている

 ・したがって「諸階級」では、資本家階級と労働者階級との矛盾の展開とし
  ての階級闘争を記す予定だったとみることができる

●『空想から科学へ』(1880年)

 ・エンゲルスは、マルクスの果たせなかった階級闘争の課題を、『資本論』
  第1部以後に出版された『空想から科学へ』(1880)で明らかにした

 ・マルクスもそれを「科学的社会主義の入門書」(全集⑲ 183ページ)とし
  て紹介している

 ・エンゲルスはそのなかで、「これまでのすべての歴史は、原始状態を別に
  すれば、階級闘争の歴史であった」(同205ページ)として、史的唯物論
  を紹介

 ・資本主義の発展にともなって「社会的生産と資本主義的取得」(同210ペ
  ージ)の矛盾が激しくなって階級闘争が前進し、社会主義・共産主義に移
  行することを解明

 ・最後を「こういう世界解放の事業を遂行することが、近代プロレタリアー
  トの歴史的使命」(同225ページ)であるとし、その使命を意識させるこ
  とが「科学的社会主義の任務」(同)だとしている

 ・したがって階級闘争による矛盾の展開は、当面の矛盾の展開としてマルク
  ス、エンゲルスによって歴史の根幹をなすものとしてとらえられている

 

3.『資本論』における社会主義・共産主義という
  矛盾の展開

● 他方で、マルクスは『資本論』において資本主義の矛盾の展開として社会主
 義・共産主義を論じている

 ・「資本主義的生産の真の制限は、資本そのものである」(『資本論』⑨
  426ページ)

 ・資本主義的生産様式は、「1つの歴史的な生産様式でしかない」(同442
  ページ)

 ・資本主義的生産様式の矛盾が展開して、資本そのものを廃止する社会主義
  ・共産主義に移行する
  社会主義・共産主義は、資本の矛盾を解決したもの

●『資本論』における矛盾の展開は、マルクスが1858年に著した「経済学批判
 序言」(全集⑬)の史的唯物論に由来している

 ・すなわち史的唯物論では社会の経済的構造が社会の土台をなし、そのうえ
  に政治、法律、道徳、社会的意識諸形態などが上部構造としてそびえたつ
  としてとらえる

 ・土台における生産力は、それにふさわしい生産関係を生みだす

 ・しかし生産力が「発展のある段階(「経済学批判・序言」全集⑬ 6ページ)
  に達すると生産力と生産関係は矛盾するようになる

 ・そのときにこれまでの生産関係は、生産力発展の「桎梏に一変する」(同)

 ・「そのときに社会変革の時期がはじまる」(同)

 ・史的唯物論では、「大づかみにいって、アジア的、古代的、封建的および
  近代ブルジョア的生産様式が経済的社会構成体のあいつぐ諸時期として表
  示されうる」(同7ページ)

 ・『資本論』も、15世紀にはじまった資本主義的生産様式が、いつの時代か
  にその矛盾により社会主義・共産主義の生産様式に移行することを展望し
  ている

 ・『資本論』も史的唯物論も、どちらも矛盾の展開を根本的矛盾の展開とし
  て数世紀の規模においてとらえている

 

4.マルクスにおける2つの矛盾の展開

● 当面の矛盾の展開と根本的矛盾の展開

 ・マルクスは、矛盾の展開を、当面の矛盾の展開と根本的矛盾の展開という
  2つの方向から考えている

 ・前者が階級闘争であり、後者が社会主義・共産主義である

 ・2つの矛盾の展開は相互に関連しながらも区別してとらえなければならない

● 2つの矛盾の統一

 ・2つの矛盾は区別しつつも両者をどう統一してとらえるのかが問題となっ
  てくる

 ・この2つの矛盾を区別することなく、遅れた資本主義の国から一挙に社会
  主義をめざそうとしたのが、スターリンの社会主義革命

 ・そこでは生産手段の社会化という政策が国民的要求になっていないにもか
  かわらず、政府において農業の集団化が強行され「人間抑圧型の社会」の
  第一歩が築かれることになる

 ・当面の矛盾の解決の観点を見失って、いきなり資本主義の矛盾の解決とい
  う根本的矛盾の解決に足を踏み出そうとした誤りのあらわれ

 ・また2つの矛盾をみることなく、当面の矛盾の解決を考えるのが、いわゆ
  る改良主義であり、草の根の運動としては存在しても、社会変革という革
  命的変革になっていかない

 ・アメリカには社会主義思想そのものを敵視する社会観があり、草の根の改
  良運動は無数にあっても、資本主義の矛盾のあらわれとしてとらえないか
  ら社会変革につながらない

 ・民主的社会主義者を自称したバーニー・サンダースの99%運動は、これ
  までの運動に新しい一石を投じるものとなりつつある

 ・ソ連、アメリカの経験からも、当面の矛盾の展開と根本的矛盾の展開は統
  一されて社会変革の運動にならねばならない