2017年3月18日 講義

 

 

第1講 『ソクラテスの弁明・クリトン』

 

1.はじめに

●「個人の尊厳」を軸に、全15回で科学的社会主義の哲学入門講座を

 ・なぜ野党共闘を支えるキーワードとして「個人の尊厳」がでてきたのか

 ・そこには科学的社会主義の哲学の根本にかかわる問題が潜んでいるのでは
  ないか

 ・それを受講生のみなさんと一緒に考えていきたい

 ・全15回を「人間って素晴らしい」「真理の哲学」「社会は変わる」という
  各5講ずつの講座で進めていきたい

● 2017年1月1日岩波書店の広告

 ・1927年から現在まで、岩波文庫の中で一番売れている本は、『ソクラテス
  の弁明・クリトン』

 ・第2位が夏目漱石の『坊っちゃん』、第3位がジャン・ジャック・ルソー
  の『エミール』

 ・岩波文庫は「今や知識と美とを特権階級の独占より奪い返すことはつねに
  進取的なる民衆の切実なる要求」として誕生

● ソクラテス(BC469〜399)

 ・プラトン、アリストテレスと共に、古代ギリシアを代表する哲学者

 ・ソクラテスの弟子のプラトンが、ソクラテスの言動を文章にして残してい
  る

 ・そのうちの代表的なものが『ソクラテスの弁明』と『クリトン』

 ・ソクラテスはその哲学で青年を腐敗させ、国家の認める神を認めないとし
  て告訴され、死刑の判決

 ・友人のクリトンが救出しようとしたのに対し、ソクラテスは「たましいを、
  できるだけすぐれたよいものになるよう」(「ソクラテスの弁明」プラト
  ン全集①84ページ)にしただけであり、「たとえ何度殺されねばならない
   ようなことになっても、これ以外のことはしないだろう」(同 85ページ)
  として、毒杯を飲んで死亡

 ・ソクラテスの歴史に残る2つの功績 ── 1つは、人間としていかに生き
  るべきかを問い続け、もう1つは、弁証法への道を開いた

 

2.ソクラテスの人間論

● ソクラテスは、自然哲学から人間哲学への転換を示した

 ・古代ギリシアの哲学は、自然の根源的なものは何かを探求する自然哲学に
  始まる

 ・ミレトス派(タレス、アナクシマンドロス、アナクシメネス)、ピュタゴ
  ラス派、エレア派、ヘラクレイトス、多元論者など

 ・それに対し、ソクラテスは初めて人間としていかに生きるべきかを問題に
  し、それが哲学の重要な課題であることを明らかに

 ・利潤第一主義の資本主義のもとで、生産力を発展させる自然科学は尊重さ
  れても、人間疎外のために人間論は意識的に排除されている

 ・他方で旧ソ連も「人間抑圧型の社会」とよばれ、人間としていかに生きる
  べきかという人間論が正面に座らず、結局崩壊することになった

 ・それだけに人間論を哲学の課題にすえたソクラテス哲学の意義は今日にお
  いてもなお大きい

● ソクラテスの人間論

 ・金銭や評判や地位のことを気にするのではなく、「たましい(いのちその
  もの)を、できるだけすぐれたよいものにするように、心を用いる」
  (「ソクラテスの弁明」プラトン全集① 84ページ)

 ・「大切にしなければならないのは、ただ生きるというだけではなくて、よ
  く生きるということなのだ」(「クリトン」同 132ページ)

 ・つまり、ソクラテスは「よく生きるとは何なのか」の問いを発することに
  よって、生き方の「真にあるべき姿」を問題にし、プラトン、アリストテ
  レスのイデア論への道を開いた

 ・例えば、「正義とは何か」の問いは、正義のイデア(真にあるべき姿)を
  問題にすることになる

 ・ソクラテス、プラトン、アリストテレスの3人は、そのイデア論の継承・
  発展者 として、哲学史上に名を残すことになる

 

3.ソクラテスの弁証法

● ソクラテスの「アイロニー(産婆術)」

 ・ソクラテスは、街頭で誰彼の区別なく論争することを好んだ

 ・彼は「問題になっている事柄をもっとよく教えてほしいようなふりをし、
  そしてその事柄についていろいろな質問をあびせることによって、相手を
  かれが最初正しいと思っていたものと反対のものへ導いた」(『小論理学
  』㊤ 248ページ)

 ・つまり、自己を無知者とし、相手を知者として扱って、かえって相手が無
  知者であることを暴露する問答法であり、それが「ソクラテス的アイロニ
  ー」と呼ばれている

 ・しかし、ソクラテスが追求したのは、この問答法によって否定を積み重ね
  ることによって、「よく生きる」とは何なのか、という真理を探究してい
  ったもの

● 弁証法は真理探究の手段

 ・ソクラテスは、対話のなかで互いに相手の主張を否定することを積み重ね
  る問答法が、真理探究の手段であることに気づいていた

 ・エンゲルスは、弁証法の3法則の1つに「否定の否定の法則」(全集⑳
  379ページ)をあげている

 ・ギリシア語の「ディアレクティケー(弁証法)」とは「対話」「問答」を
  意味している

 ・しかしソクラテスの弁証法は、まだ弁証法の完成された姿を示すには至っ
  ていない

 ・ソクラテスの弟子プラトン、その弟子のアリストテレスをつうじて、弁証
  法はイデア(真にあるべき姿)を求めるものとなり、変革の哲学への道を
  歩むことになる

 ・弁証法という変革の哲学を完成させたのは、19世紀ドイツのへーゲル

 ・世界の「真にあるべき姿」を問い続ける弁証法は、なくては成らない哲学

 

4.ソクラテス哲学の先駆性

● ソクラテスの哲学は、哲学の進むべき道筋を先駆的に示している

 ・ソクラテスの人間論と弁証法はまだ端緒にすぎないが、その後の哲学のす
  すむべき道筋の大きな方向を示している

 ・だからこそ、『ソクラテスの弁明・クリトン』は岩波文庫のベストセラー
  として 読みつがれている

 ・すなわち、人間としていかに生きるべきかの問題は、すべての人々にとっ
  て第一義的課題となっており、その解明は他の経験諸科学のうえにたつ哲
  学の最大の課題となっている

 ・また人間が他の動物と異なるところは、人間が世界を変革しうるところに
  あり、その変革の哲学=弁証法の解明は、人間にのみ求められる哲学的課
  題

● 2600年の哲学史の到達点としての科学的社会主義

 ・日本共産党は「科学的社会主義を理論的な基礎」(規約)としている

 ・それは、科学的社会主義の学説が弁証法的唯物論と史的唯物論という、哲
  学史上の最高の哲学をもっているからである

 ・その哲学は、大きく人間論、弁証法(真理論)、社会変革の哲学から成っ
  ている

 ・ソクラテスに学びながら、全15回でこの3部門の哲学を学んでいきたいと
  思う