2017年6月17日 講義

 

 

第4講 理性は変革の意識

 

1.人間の意識

● 人間は言語をコミュニケーションの手段とする

 ・言語は普遍性、抽象性によって客観世界を人間の意識に作り替える

 ・人間は感性、知性、悟性、理性という意識をもち、理性によって客観世界
  を作り変える

 ・脳はすべての脊椎動物がもっている情報処理器官

 ・すべての脊椎動物は、視覚や聴覚によって感性をもち、入力された情報を
  記憶する知性をもっている

 ・しかし人間は感性、知性を言語機能を通すことによって、悟性、理性とい
  う言語による人間らしい心をもつに至る

 ・ヘレン・ケラーは井戸水が「ウォーター」という言語と結びついているこ
  とを知ったとき、感性、知性という動物の心から悟性、理性という人間の
  心に成長した

● 悟性、理性

 ・人間は感性、知性の情報を言語機能に送り込み、悟性、理性に発展させた
  とき、抽象的な言語世界に入っていく

 ・他の動物には言語機能がないので、感性、知性を越えでることはできない

 ・言語世界としての情報の蓄積は「このもの」という個別情報を「そのもの
  」という普遍的かつ抽象的概念として把握すること

 ・概念と概念の組み合わせで、次第に複雑な、抽象化された言語世界が形成
  され、悟性、理性という人間独自の意識が生まれてくる

 ・悟性とは「そのものは何々である」という、対象を他から切りはなし、固
  定化してとらえる意識

 ・これに対し、理性とは対象を運動、変化、発展するものととらえ、対象を
  変革する意識

 ・理性は、人間意識の最高の段階を示す、もっとも人間らしい意識

 

2.理性は世界を合法則的に変革する

● 人間は世界を変革する

 ・人間は人間、社会や自然の運動法則を促進することによって、世界を合法
  則的に変革する

 ・人間の変革の意識が、世界の運動法則に反する場合は、その変革は失敗す
  る

● マルクスの『資本論』

 ・「序言(初版への)」で「近代社会の経済的運動法則を暴露することがこ
  の著作の最終目的」(『資本論』①12ページ)とする

 ・次いで人間の変革の意志にかんし、「その社会は、自然的な発展段階を跳
  び越えることも、それらを法令で取りのぞくこともできない。しかし、そ
  の社会は、生みの苦しみを短くし、やわらげることができる」(同)

 ・つまり人間の変革の意志は、社会の運動法則にそって、「生みの苦しみを
  短くし、やわらげる」ことができるのみであり、これが合法則的な発展

 ・人間は世界の合法則的発展のために、言語という抽象的手段を使って、 形
  式論理学と弁証法的論理学(弁証法)という真理認識の方法を生みだす

 

3.変革の哲学・弁証法

● 形式論理学と弁証法

 ・形式論理学と弁証法は、客観世界の鏡のように人間の意識に反映するので
  はなく、言語によって抽象化した真理を認識する論理学

 ・形式論理学は、現象の奥に隠されている本質を認識する

 ・したがって自然科学の探究に適している

 ・しかし人間社会は、階級対立の社会に分裂しているため、対立物の統一と
  いう弁証法が問題になってくる

 ・人間社会では本質を認識する形式論理学よりも対立・矛盾を認識する弁証
  法が重要な意味をもつ

● 9条改憲の弁証法

 ・「9条の1、2項に3項を付け加え、自衛隊の記述を書き加える」とのア
  ベ改憲発言

 ・これまで自民党は、2項の戦力不保持をかいくぐり、自衛隊は「自衛のた
  めの必要最小限度の実力組織」として戦力を否定したために海外派遣や集
  団的自衛権はできないとの自己規制におちいる

 ・そのため戦争法で集団的自衛権を認めながらも、「日本の存立が危機に陥
  るような特別の場合」に限定

 ・あらたに3項を付け加えることで、「自衛のための必要最小限度の実力組
  織」の制約を取り払い、歯止めなき海外武力行使に

 ・この改憲発言も、普通の国として軍隊をもちたいとの「一面の真理」をと
  らえたもの

 ・しかし日本はポツダム宣言を受諾し、無謀な侵略戦争の反省のうえに9条
  を定めたという、もう1つの「一面の真理」をもっている

 ・こうして階級社会では、支配階級の「一面の真理」と被支配階級の「一面
  の真理」とが激突する対立・矛盾の弁証法が展開されている

 ・階級社会の運動法則は、支配階級と被支配階級の対立・矛盾が運動の原因
  となっている

 ・弁証法は、対立・矛盾を階級社会のみならず、事物一般の運動の論理とす
  ることで、真理認識の方法となった

● 弁証法とは変革の哲学

 ・弁証法は、事物の運動法則を言語に翻訳して、客観的に存在する関係を「
  対立物の統一」としてとらえることで、理性による合法則的発展を明らか
  にする変革の哲学

 ・弁証法の真髄は、運動法則を対立・矛盾としてとらえること

 ・対立とは「或るものとその固有の他者との間の切っても切れない必然的な
  関係」

 ・対立する両者の必然的な関係が、相互排斥=闘争の関係になったとき、対
  立は矛盾に移行する

 ・矛盾は解決されねばならない(矛盾の揚棄)

 ・矛盾の揚棄を理念として掲げ、それを実践することによって、事物の合法
  則的発展を実現する

 ・「対立物の統一」とか「矛盾」とかは、客観的事物そのもののなかにその
  ままの形で存在するわけではない

 ・それはいずれも言論による運動の抽象化

 ・人間は、客観的事物の運動のなかに、言論の生みだした弁証法を使って、
  対立・矛盾を見いだし、世界を合法則的に変革する

 

4.人間の変革

● もっとも重要なのは、人間の変革

 ・人間は、自然、人間社会、人間の3つの客観世界のすべてを変革しようと
  する

 ・そのなかで1番大切なのは、人間を幸せにする人間の変革 ── 理性をも
  つ人間が存在してはじめて自然や人間社会は意義をもつ

 ・マルクスは若いときに、人間の本質論、人間疎外論、人間解放論という3
  部構成の人間変革論を展開し、人間疎外からの人間解放を求めて人間社会
  変革論の『資本論』を執筆

 ・「人間解放のためには『人間的自己疎外としての私的所有のポジティブな
  廃棄』としての経済学の研究」

 ・経済学批判をなしうるのは、「ただ、資本主義的生産様式の変革と諸階級
  の最終的廃止とをその歴史的使命とする階級―プロレタリアート ── だ
  けである」(『資本論』① 21ページ)として、『資本論』の最終的目的
  を人間解放に

● 20世紀の最大の教訓は旧ソ連の誕生と崩壊

 ・世界最初に社会主義建設を始めた旧ソ連では、まず変革の対象としたのが、
  人間社会の変革

 ・スターリンは、1928年から第1次5カ年計画で重工業化

 ・1929年、大多数を占める農民の声を無視して上から農業集団化

 ・反対する農民をシベリア送り

 ・そのため、人間の変革が無視され「社会主義とは無縁な人間抑圧型の社会
  として、その解体を迎えた」(綱領)

 ・理性による変革の対象を人間社会とするのか、それとも人間とするのかの
  問題は、「人間抑圧型の社会」か、それとも「人間解放の社会」か、とい
  う大きな結論の違いを生む

● 野党共闘を支える個人の尊厳

 ・野党共闘の発展のために個人の尊厳が掲げられている

 ・そこには、すべての個人が人間の本質にてらして人間らしく生きることを
  野党共闘の基本にすえ、その土台のうえに政治的課題での共闘を積み上げ
  ようという統一戦線の発想がある

 ・つまり、人間の変革を基本にすえ、その土台のうえに人間社会の変革を実
  現しようとするもの

 ・これまでの統一戦線は、まず人間社会の変革のために、政治的諸課題の一
  致点での一致点にもとづく統一戦線の結成だったものが、今回は個人の尊
  厳にもとづく人間変革の統一戦線に大きく転換し、しかもそのうえに人間
  社会の変革をも同時に追求していくという発展した統一戦線を展望してい
  る

 ・この新しい統一戦線がこれからどう発展していくのか見守りたい