2017年7月15日 講義

 

 

第5講 人間は最高の存在

 

1.哲学の根本問題

● 近世の幕開け・ルネッサンス

 ・人間性の復興を求める運動

 ・一人ひとりの人間の主体的自由を尊重する

 ・人間性復興の運動のなかで、人間と自然との関係が哲学上の課題に

● 近世の哲学の最高の問題は、思考と存在の関係

 ・エンゲルス「すべての哲学の、とくに近世の哲学の、大きな根本問題は、
  思考と存在とはどういう関係にあるかという問題である」(「フォイエル
  バッハ論」全集㉑ 278ページ)

 ・世界のうちで、人間の精神(思考)と自然(存在)のどちらが根源なのか
  の問題と、人間の認識の源泉は精神なのか、それとも自然なのか、の2つ
  の問題

 ・世界の根源性と認識の根源性をめぐって、唯物論と観念論の哲学的な対立
  が生じる

 ・エンゲルスは、観念論者とは「自然に対する精神の根源性を主張し、した
  がってけっきょくなにかの種類の世界創造を認めた人々」(同279ページ
  )として、世界の根源性と認識の源泉性を2つの観点から、観念論を論じ
  ている

● 唯物論と観念論

 ・今日では自然科学の発展により、世界の根源性が物質(存在)にあること
  を否定する人は少ない

 ・しかし認識の源泉性については、人間精神の変革・創造性に引きずられて、
  いまだに観念論の立場にたつものが少なくない

 ・しかし人間の創造的意識も、物質を感性でとらえ、知性、悟性の認識を経
  て、理性という変革・創造の意識に到達するという、物質に由来するもの

 ・したがって、世界の根源性の問題でも、認識の源泉性の問題でも唯物論が
  正しい

● 人間にとってもっとも根源的な物質は、人間自身

 ・物質世界は、自然、人間社会、人間からなっているが、人間にとってもっ
  とも根源的物質は人間そのもの

 ・人間は、自然、社会、人間の変革・創造を実現する

 ・マルクス「人間にとっての根本は、人間そのもの」(全集① 422ページ)
  であり、人 間を「人間にとっての最高の存在」(同)にすること

 ・人間そのものを最高の存在にしようとする人間論は、唯物論哲学の最高の
  変革の課題

 ・人間論の探求は、「大切にしなければならないのは、ただ生きるというだ
  けではなくて、よく生きるということなのだ」(プラトン全集① 84ペー
  ジ)という、ソクラテスの提起した問題に答えること

 

2.人間を最高の存在に

● マルクスの問題提起

 ・人間を「人間としての最高の存在」(全集① 422ページ)にするには、「
  人間をいやしめられ、隷属させられ、見すてられ、軽蔑された存在にして
  おくようないっさいの諸関係を、くつがえせという……至上命令をもって
  終わる」(同)

 ・人間を最高の存在にするには、人間らしく生きる権利を疎外する「いっさ
  いの諸関係」をくつがえし、人間の本質、つまり個人の尊厳を疎外から回
  復する

● 個人の尊厳

 ・人間が人間らしく生きるためには、個人の尊厳を実現させること

 ・個人の尊厳は、人間の本質の総称であり、そこにはいくつかの尊厳が含ま
  れる

 ・第1は、生の尊厳 ── 人間の一人ひとりはかけがえのない存在であり、
  その生命は何物よりも重い

 ・憲法13条も個人の尊厳としてまず「生命」を

 ・第2は、自由の尊厳―ルソーの『社会契約論』の冒頭に「人間は自由なも
  のとして生まれた」

 ・憲法13条も個人の尊厳として「生命」に次いで「自由」を

 ・マルクスも「自由な意識的な活動は、人間の類性格である」(全集㊵ 436
  ページ)

 ・「階級と階級対立のうえに立つ旧ブルジョア社会に代わって、各人の自由
  な発展が万人の自由な発展の条件であるような一つの協同社会が現われる
  」(「共産党宣言」全集④ 496ページ)

● 幸福追求権と共同社会性

 ・アメリカの独立宣言、日本国憲法は、個人の尊厳として生命、自由のほか
  に幸福追求権を認めている

 ・幸福追求権とは、心の平穏を保って自己の行動に満足を見いだすこと

 ・自己の行動という特殊的意志に満足を覚えることは、人間らしく生きる権
  利を越えるもの

 ・他方マルクスは「人間の本質は、人間が真に共同的な本質であることによ
  る」(全集㊵ 309ページ)として、共同社会性を人間の本質として指摘

 ・しかし個人の尊厳はあくまで個人の権利であるから、共同社会性は含まれ
  ないというべき

 

3.個人の尊厳は階級闘争の焦点

● アベ一強政治の本質

 ・アベ一強政治とは、小選挙区の公認を軸とするアベ独裁政治

 ・アベ首相は最高の権力者を自任し、秋の臨時国会に9条改憲をもちだす立
  憲主義の破壊をもくろむ

 ・日本を戦争する国にして、国民の生の尊厳、自由の尊厳を奪おうとするも
  の

 ・つまりアベ一強政治とは、個人の尊厳を否定する政治に他ならない

● 個人の尊厳は階級闘争の焦点

 ・市民と野党の共闘は、立憲主義を回復して、個人の尊厳を求めている

 ・階級闘争の焦点は、9条改憲による戦争する国にするのかいなかにあり、
  言いかえると個人の尊厳を守るのか否かにある

 ・個人の尊厳を守る統一戦線の結成こそ、現在の最高の課題

 

4.人間論から社会変革論に

● 個人の尊厳を語り合う

 ・まず個人の尊厳を語り合うことは、人間とは何なのかを語り合い、私たち
  が同じ人間であることを確認し合うこと

 ・その語り合いは同時に、アベ内閣により人間の本質が疎外されていること
  に気づかざるをえない

 ・こうして語り合いは、最高の存在である人間の疎外を生みだしているのが、
  アベ内閣であることに気付かせる

 ・いわば、人間論から出発しながら、議論はアベ内閣をつうじて人間社会変
  革論に発展する

● 人間論から人間社会変革論に

 ・社会変革の運動には、圧倒的多数の国民の結集が必要

 ・思想・信条を異にする国民の大多数を結集しうるのが、思想・信条を越え
  る人間論

 ・今こそ人間論から出発し、人間社会の変革論につながる国民的討論と統一
  戦線の結成が求められている