2017年月日 講義

 

 

第7講 「真理がわれらを自由にする」

 

1.「真理がわれらを自由にする」

● 真理とは客観的事実に一致する認識

 ・人間の意識は、客観的事物を意識のうえに反映する

 ・しかし人間の意識は、客観的事物を鏡のように写し取るにとどまらず、そ
  れを乗り越えて自由に動き回る

 ・それは、人間の意識が世界を変革しようとするからである

 ・つまり人間は、客観的事物の現在の真理である「真の姿」の認識に満足し
  ないで、客観的事物の「真にあるべき姿」という未来の真理を認識して、
  客観的事物を変革しようとする

 ・そこから「真理がわれらを自由にする」との命題が生まれた

●「真理がわれらを自由にする」

 ・「国立国会図書館法」の理念

 ・国会図書館に備蓄されている万巻の書をつうじて私たちが必然性をのりこ
  えて未来の真理をつかんだとき、私たち人間は客観世界を変革して、真の
  意味の自由を手にしうるという意味

 ・ここには、自由と必然、自由と真理との関係が見事に表現されている

 

2.自由と必然

● 人間の意志は、自由なのか、必然なのか

 ・18世紀初頭の哲学論争

 ・人間の意志は、客観的法則(必然性)に拘束されない意志の自由をもつの
  か、それとも客観的法則に盲目的に拘束され、必然に支配されているのか
  をめぐる論争

 ・へーゲルは、「自由とは必然性の洞察である」(全集⑳ 118ページ)と述
  べて、これまでの論争に決着をつける

 ・つまり、自由か必然かの議論は、どちらも一面的であると指摘し、自由と
  必然の統一のうちに真理があるとした

 ・つまり、自由を必然性との関係でとらえるべきだと主張した

● 自由と必然

 ・人間は客観的法則、つまり必然性を無視して自由に意志決定ができるわけ
  ではなく、自由は必然性を認識する度合いに応じて、4段階に分かれる

 ・第1段階は、必然性を完全に無視してうちに引きこもり、自由に意志決定
  する(否定的自由)

 ・必然性から逃げて、必然性に全面的に支配されている不自由な意志

 ・第2段階は、必然性を認めながらも、それを知ろうとせず、意志決定する
  自由

 ・形式的には自由かもしれないが、客観世界の必然性を観ようとしない点で
  まだ本当の自由ではない(形式的自由)

 ・資本主義の「搾取の自由」という必然性を無視して、生存の自由を求める

 ・第3段階は、客観世界の必然性を認識し、必然性にそって意志決定する自
  由である(必然的自由)

 ・搾取の自由を認め、大企業への民主的規制をつうじて、生存の自由を求め
  る

 ・しかし、その自由な意志も必然性をそのまま承認しているにすぎないから、
  必然性に拘束されていて、まだ本当の自由ではない

 ・「自由は必然性を前提し、それを揚棄されたものとして自己のうちに含ん
  でいる」(『小論理学』158節補遺)ことが必要である

 ・第4段階は、必然性を認識し、それを乗り越える(揚棄する)ところに、
  本当の自由な意志がある(概念的自由)

 ・搾取を生みだす資本主義的生産手段を否定して、生産手段を社会化するこ
  とにより、生存の自由を求める

 ・こうして人間は概念的自由という自由な意志によって、客観世界を合法則
  的に変革することができる

 ・「真理がわれらを自由にする」の「自由」とは、概念的自由を意味してい
  る

● 真理 Ⅰ と真理 Ⅱ の統一

 ・自由を必然との関係でとらえることは、基本的人権としての自由とどう統
  一的に理解するのかの問題が生じる

 ・秋間実氏は、科学的社会主義の見地から自由を論じるならば、「自由 Ⅰ(
  必然性との関係における自由)と自由 Ⅱ(基本的人権としての自由)とを
  統一的に―あるいは、すくなくとも連関させて―つかむことを可能にする
  哲学的自由論を打ちたてることが課題になっている」(『科学と思想』
  1975.1)と指摘

 ・4段階の自由論によって、基本的人権の自由は第2段階の自由にすぎない
  ことが解明され、そこから自由は必然的自由、概念的自由に発展すべきこ
  とが明らかにされ、科学的社会主義の自由論として完成する

 

3.自由と真理

● 人間の自由な意志は、真理を求める

 ・「真理がわれらを自由にする」の命題は、真理と自由の関係を論じている

 ・人間の意志は、真理と誤謬の間をさまよう(相対的真理)

 ・しかし人間の意志は、その自由な意志によって誤謬を克服し、真理に向か
  って前進する(絶対的真理への前進)

 ・それが「知を愛する」人間の脳がコンピューターと異なるところ

 ・つまり、人間の自由な意志は真理を求める

● 自由な意志は、変革のために真理を求める

 ・自由な意志は、理性という最高の意志に到達する

 ・理性とは、世界のすべてを変革する意志

 ・対象を変革するには、理念が必要であり、その理念となるのが必然性をの
  りこえた概念的自由という真理

 ・自由な意志は、まず対象のもつ法則性、必然性を認識する必然的自由に達
  する

 ・現代の量子論は、自然界の法則性を明らかにし、史的唯物論は、人間社会
  の発展法則を解明する

 ・次いで自由な意志は、必然的自由のうちに誤謬を見いだし、それを乗り越
  えて、対象を変革する概念的自由を認識する

 ・概念的自由とは、対象の「真にあるべき姿」である

 ・こうして自由な意志は、概念的自由を実践することで、対象を合法則的に
  変革することができる

 ・人間は対象を概念的自由という真理にもとづき、合法則的に変革して自由
  となることが、「真理がわれらを自由にする」の意味

 ・それが相対的真理から絶対的真理への前進を生みだす

 ・この絶対的真理への前進が「真理がわれらを自由にする」ということ

● 科学的社会主義の自由論

 ・科学的社会主義の自由論とは、概念的自由(真にあるべき姿の認識)とい
  う真理を認識することから生まれる自由な変革の意志

 

4.「真理は、必然性をのりこえ、概念的自由に
   よりわれらを自由な変革の主体にする」

● エンゲルスの命題

 ・エンゲルスは、『空想から科学へ』で資本主義から社会主義・共産主義へ
  の移行を「必然の国から自由の国への人類の飛躍」とよんだ

 ・「真理がわれらを自由にする」と同様の意味

 ・この2つの命題を統一して、より正確に人間の変革の意志を表現すべき

● 真理は、必然を乗り越え、概念的自由によりわれらを自由な変革の主体に
 する

 ・エンゲルスの命題は、正確には「必然的な自由から、概念的自由への人類
  の飛躍」

 ・「真理がわれらを自由にする」の「真理」は概念的自由という真理

 ・エンゲルスの命題は、4段階の自由のうち「概念的自由」が真の自由であ
  ることを明確にしていない

 ・この命題は、人間が変革の主体であることを明らかにしていない

 ・2つの命題の統一は、「真理は、必然的自由をのりこえ、概念的自由を認
  識することによって、われらを自由な変革の主体のする」というべき

 ・人間を変革の主体にするものが、弁証法

 

※次回は「弁証法は真理をとらえる」。