2018年8月18日 講義

 

 

第1講 『君たちはどう生きるか』を読む

 

1.『君たちはどう生きるか』の時代

●『君たちはどう生きるか』をつうじて「現代という時代をどう生きるか」
 を一緒に学んでいこう

● 吉野源三郎原作、羽賀翔一漫画化

 ・吉野の原作は、1937年日中戦争、つまり第二次世界大戦に突入するときの
  作品

 ・羽賀漫画本は、2017年7月 アベ首相の戦争・改憲政策のさなかに出版、
  1年で250万部の大ベストセラーに

 ・原作も漫画も政治不安の激動の情勢のなかから、多くの人びとが「どう生
  きるか」を模索している時代の産物

● 県労学協は科学的社会主義の基礎理論を普及する組織

 ・科学的社会主義の立場から「激動の現代をどう生きるか」の生き方論を広
  く提起すべき時代

 

2.真理の探究

● おじさんの言葉

 ・ニュートンは、りんごが木から落ちるのを見て、頭のなかで木をどんどん
  高くしてもりんごは落ちてくる、ではなぜ月は落ちてこないのか、と考え
  る

 ・そこから、地球上の重力と天体間の引力とが同じものだと証明し、万有引
  力を発見した

 ・「わかりきったことをどこまでもどこまでも追いかけて考えてゆくと、も
  のごとの大事な『根っこ』の部分にぶつかる」(漫画114ページ、以下同)

● 科学的社会主義は真理を探究する

 ・「ものごとの大事な『根っこ』」とは、真理にほかならない

 ・真理とは、客観的事物の「真の姿」を認識することにある

 ・科学的社会主義は、弁証法をつかって「現にある姿」の真理を認識し、そ
  れをつうじて「未来のあるべき姿」の真理を認識し、実践して、対象を変
  革する

 

3.弁証法的論理学のものの見方

● おじさんのノート(「ものの見方」)

 ・おじさんは、本田潤一が「人間分子の関係、網目の法則」(130ページ)
  を発見したのをとらえ、天動説から地動説に転換したコペルニクス並の発
  見だとして「コペル君」と呼ぶ

 ・人間は、「とかく自分を中心として、ものごとを考えたり、判断する性質」
  (51ページ)をもっているが、こうした考えでは「大きな真理」(52ペー
  ジ)はとらえられない、という

● 弁証法的論理学のものの見方

 ・自分中心のものの見方というのは、一面的な、偏ったものの見方であり、
  形式論理学のものの見方

 ・これに対し、世界のすべてのものは1つの連関のうちにあるという見方は、
  全面的なものの見方であり、弁証法的論理学のものの見方

 ・おじさんは、コペル君の「人間分子の関係、網目の法則」の発見のなかに
  自分中心の見方を抜け出し、全面的なものの見方があるとして評価したも
  の

 ・弁証法的論理学は、連関するものの相互作用が運動をもたらすとして運動、
  変化、発展をとらえる

● 弁証法的なものの見方を使って、真理を探究することにより、人間の生き
 方論を科学的に解明してゆくことが求められている

 

4.「よく生きる」とは何か

● ソクラテスの問題提起

 ・「大切にしなければならないのは、ただ生きるということではなくて、よ
  く生きるということなのだ」(プラトン全集①133ページ)

 ・人間の生き方論として「よく生きる」とは何なのかが問われており、おじ
  さんはコペル君に「君はある大きなものを日々生み出している」(160ペ
  ージ)として、以下の4点で、よく生きる生き方論の問題提起をしている

● おじさんのノート①(「人間であるからには」)

 ・「油揚げ事件」でいじめられた浦川君は、自分をいじめた山口君に暴力が
  ふるわれるのを見て、「頼むから許してやっておくれ」(84ページ)と言
  って止めようとする

 ・コペル君は、それを見て浦川君は立派だと思った

 ・立派な人間になるには、「いつでも自分が本当に感じたことや、真実心を
  動かされたことから出発して、その意味を考えてゆくこと」(100ページ)
  が必要

 ・「いろんな経験を積みながら、いつでも自分の本心の声を聞こうと努めな
  さい」(104ページ)→事実から出発する(唯物論)→自分のなかで経験
  した事実を、「自分の本心の声」と重ね合わせて(自己の二重化、自己内
  での矛盾の定立)、生き方を探ることを求めている                     →「自分の本心の声」とは何か

● おじさんのノート②(「人間の結びつき」)

 ・コペル君のいう「人間分子の関係、網目の法則」とは、経済学にいう「生
 産関係」(137ページ)

 ・人間は働いて物を生産しなければ生きていけないのであり、協力、分業し
  て生産し、生産物をお互いに交換することによって、世界中が1つの網と
  なる生産関係をつくる」

 ・しかし「そのつながりは、まだまだ本当に人間らしい関係になっていると
  はいえない」(144ページ)→自分中心のものの見方を抜け出し、人間社
  会の基本となる「生産関係」に目を向ける→どうして生産関係は「人間ら
  しい関係」ではないというのか「人間らしい関係」とは何か

● おじさんのノート③(「人間であるからには」)

 ・浦川君がイジメにあうのには、浦川君の家の貧しさの背景がある

 ・「今の世の中で大多数を占めている人々は貧乏な人々」(168ページ)で
  あり、「大多数の人々が人間らしい暮らしができないでいるということが、
  僕たちの時代で、何よりも大きな問題」(168~169ページ)

 ・しかも「あの人々こそ、この世の中全体を、がっしりとその肩にかついで
  いる人たちなんだ」(175ページ)

 ・「人間であるからには、すべての人が人間らしく生きてゆかなくては嘘だ」
  (172ページ)→働く人たちが人間らしく生きていけない貧困は、現代社
  会の最大の問題→「人間であるからには」との問いには、人間の本質とは
  何かの問いがある

● おじさんのノート④(「偉大な人間」「人間の悩みと過ち」)

 ・ナポレオンは英雄であり、偉大である

 ・しかし彼が偉大なのは「自由、平等、友愛」をかかげたフランス革命を守
  るために「人類の進歩に役立った」(222ページ)ときのみであり、クー
  デターで権力を握ってからは「進歩にとって有害なもの」(221ページ)
  に

 ・人間は、自らを変革して偉大になりうる存在

 ・「人間は、自分自身をあわれなものだと認めることによってその偉大さが
  あらわれるほど、それほど偉大である」(パスカル)(292ページ))

 ・人間の偉大さは、人間だけが感じる悲しみや苦しみによって「人間が人間
  として正常な状態にいない」(295ページ)ことを知らせてくれるところ
  にある

 ・対立をとらえる精神の弁証法

 ・コペル君は「大きな苦しみを感じる」(18ページ)ことで、「正しい生き
  方を強く求めている」(同)→人間は悲しみや苦しみをつうじて「正しい
  生き方」を求め、「人類の進歩」に貢献する偉大な存在→人間の「正しい
  生き方」は社会進歩と重なっている         

● 科学的社会主義の生き方論

 ・おじさんは、コペル君が個人としての生き方を問題にしながら、自分中心
  の見方を抜け出し、広い世界を見渡して貧困という問題に気がつき、それ
  を解決しないかぎり、「本当に人間らしい関係」(145ページ)は生まれ
  ない、という

 ・科学的社会主義の生き方論は、「自分の人間らしい生き方を社会進歩と重
  ね合わせる」というもの

 ・「人間らしい生き方」とは、自己のうちにある人間の本質を実現する生き
  方(人間の本質と現象の対立)

 ・人間は、99%の人類史を作る搾取も階級もない原始共同体をつうじて、
  「人間の本質」を形成してきた

 ・それは「個人としては自由な意識をもつこと(自由)」であり、「社会的
  存在としては、共同社会性を実現すること(対等、平等、友愛)」である

 ・フランス革命の「自由、平等、友愛」のスローガンは、この人間の2つの
  本質を示したもの

 ・この自己のうちの人間の本質を生かす生き方が人間の「良心」をなしてお
  り、良心が「自分の本心の声」(104ページ)

 ・人間は、自己の経験し、学んだ事実を、人間の本質である自分の良心に照
  らしてチェックし、自己のうちに矛盾を定立することにより、自分の生き
  方を確立してゆく偉大な存在

 ・人間は、良心に照らして、まず自分らしく自由に生きることを求め(一面
  的な見方)、次いで「対等、平等、友愛」という共同社会性を身につけ
  (全面的な見方)、人間らしい生き方」を築いてゆこうとする

 ・「対等、平等、友愛」は、社会的に「人間らしい関係」をつくる

 ・しかし現実の社会の真理は階級社会であり、格差と貧困が支配し、「人間
  らしい生き方」ができない社会

 ・そこで人間は「現象」としての格差と貧困を解決しないかぎり、人間の
 「本質」としての良心を生かす「人間らしい生き方」はできないとして、社
  会を変革し、社会進歩を実現しようとする

 ・社会進歩とは、社会のうちに存在する矛盾を見いだし、その矛盾を解決す
  ることによる社会の発展である

 ・人間は人間らしく生きるために、弁証法をつうじて社会の矛盾を見つけだ
  し、それを解決する道筋を見いだす変革の立場にたっている

 ・この変革の立場によって矛盾を解決し、「本当に人間らしい関係」の人間
  解放という社会進歩を実現しようとする

 ・こうして「人間は自分の人間らしい生き方を社会進歩と重ね合わせる」よ
  うな生き方を求める

 ・科学的社会主義の生き方への共感を求めることは、たんなる世直しと社会
  進歩を求める生き方だけではなく、人間らしい生き方を根柢にしているこ
  とに注意しなければならない