2019年2月16日 講義

 

 

第7講 ベーシックインカムと貧困

 

1.AI革命のもとで、「新しい社会保障」の
  考え方が登場

● 福祉国家への疑問

 ・イギリス「ベヴァリッジ報告」にみられる福祉国家の理念は、既に破綻し
  ているとの見解あり(山森亮『ベーシック・インカム入門』30ページ以下)

 ・福祉国家は「完全雇用、社会保険、公的扶助」の3本柱からなっている

 ・すなわちまず完全雇用を確保し、働けなくなったら社会保険で救い、それ
  で足りなければ公的扶助で救うというもの

 ・しかし日本では、完全雇用は達成されておらず、公的扶助の生活保護の補
  足率は20%前後にすぎない

● AI革命はさらに社会保障を破綻に追い込む

 ・日本では2016年からAIブームとなり、AIはこの年の流行語大賞の候
  補に

 ・AI革命により2030年頃に「汎用人工知能」(特化型ではなく普遍的な、
  例えば鉄腕アトムのような人工知能)が登場予定

 ・汎用人工知能により、人間の労働は汎用人工知能を搭載したロボットなど
  の機械に代替され、経済構造が根本的に変革する

 ・「2045年には、内実のある仕事をし、それで食べていけるだけの収入を得
  られる人が1割程度しかいない可能性がある」(井上智洋『人工知能と経
  済の未来』167ページ)

 ・そうなれば、完全雇用は遠い存在となり、社会保険で救われる人も僅かで
  あり、大多数は公的扶助の対象に

 ・今でも機能不全におちいっている社会保障は完全に破綻する

 ・「新しい社会保障」としてベーシックインカムを考えるべき時代が到来す
  る

 

2.ベーシックインカムとは何か

● ベーシックインカム(BI、「基本所得」)

 ・すべての人に、「資力調査」なしに、個人単位で貧富の差を問わず、無条
  件に支給される生活に必要な所得

 ・例えば、夫婦と子ども2人の家族の場合、夫の収入とは別に、国から1人
  分7万円、計28万円(7万円x4)が支給される

 ・「基礎年金や雇用保険、生活保護の大部分は廃止されベーシックインカム
  に置き換わる」(山森 同10ページ)

 ・財源を何で賄うかについては「一律25%の所得税派」(井上、『AI時代
  の新・ベーシックインカム論』同61ページ)、「貨幣発行益」によるもの
  (同84ページ)、「消費税1本派」(山森 225ページ)「環境税(地価税
  とエネルギー税)派」(同227ページ)などの多様な意見がある

● BIの運動

 ・2008.6 アイルランド・ダブリンで「ベーシックインカム世界会議」(山
  森 237ページ以下)—1986年に「ベーシックインカム欧州ネットワーク」
  として出発

 ・主催は「ベーシックインカム世界ネットワーク(BIEN)」であり、N
  GO関係者を中心に300人(ヨーロッパ、北米諸国、メキシコ、ブラジル、
  アルゼンチン、南アフリカ、日本)

 ・ドイツの国会議員で左翼党副党首のカーチャ・キッピングがローザ・ルク
  センブルグを引き合いに、ベーシックインカムを正当化

 ・カナダの保守党所属国会議員ヒュー・シーガルは、カナダでは左右を超え
  てベーシックインカム導入への気運が高まっていることを紹介し、ベーシ
  ックインカムを正当化

 ・BIENは、ベーシックインカムの内容については左右の対立が或るもの
  の、20年の活動をつうじてベーシックインカム概念を精密化し、「ベーシ
  ック・インカムはすべての人に、個人単位で、稼働能力調査や資力調査を
  行わず無条件で給付される」(同243ページ)と定義した

 ・ベーシックインカムの運動の中心は、南アフリカ、ブラジルなどの〈南〉
  と、各国の〈緑の党〉と、反G8運動の〈ユーロメーデー・ネットワーク〉

● BIの現状

 ・ベーシックインカムの世界会議は開かれており、ベーシックインカムそのものは肯定的にとらえられているが、「福祉国家」に取って代わるほどの議論にはなっておらず、左右の対立を生むほど内容も特定されていない
・ その意味では、ベーシックインカムは、今直ちに結論を出すのではなく、検討に値する議論だということになるだろう

 

3.BIの論理構造

● BIは現実に立脚しないいくつかの仮定の論理のうえに成り立っている

 ・2030年頃「汎用人工知能」が誕生する

 ・それによって生産力は飛躍的に発展する

 ・汎用AIは大量の労働者の雇用を奪う

 ・労働者の大量解雇は、社会保険で救済される人を減らし、大多数は公的扶
  助の対象に

 ・社会保障は完全に破綻する

 ・BIが新しい「社会保障」として登場し、貧困を解決する

 ・財源はいろいろ考えられているが、社会保障に求められる「所得再配分」
  の考えはない

 ・貧困を生みだした資本主義の運動法則は無視されているのが共通している

● BIは、現実の矛盾を解決する観点をもたない

 ・BIは、現実の矛盾とは別に予想されるあるべき社会想定している

 ・しかし社会主義の課題は、「できるだけ完全な社会制度を仕上げること」
  (全集⑲ 205ページ)ではない(それは空想的社会主義の考え)

 ・社会主義の課題は、資本主義の2つの「階級とその対立抗争とを必然的に
  発展させた歴史的な経済的経過を研究し、この経過によってつくりだされ
  た経済状態のうちにこの衝突を解決する手段を発見することであった」
  (同)

 ・つまり、現実の矛盾を一つひとつ解決する階級闘争の発展のうちにのみ、
  貧困解決の未来がある

 ・こうして「社会主義は科学になった」(同206ページ)

● BIのいくつかの仮定を資本主義のもとでそのまま肯定することはできない

 ・資本主義の運動法則との関連で、BIの仮定をみておく必要がある

 ・レイ・カーツワイルの「2045年に人工知能が人類を追い抜く」という「シ
  ンギュラリティ」も、人間の知能が現在もなお研究途上にあることからす
  ると疑問

 ・人工知能によって生産力が飛躍的に拡大するかどうかも、資本主義そのも
  のが全体として「ゼロ成長」に向かっていることからして疑問

 ・資本主義がAIによって新しい雇用をつくりださないまま大量の解雇を生
  みだすことは、生産と消費の矛盾を拡大し、資本主義自滅論につながるが、
  階級闘争を抜きの自滅論がありうるのか

 ・BI論には、現在日本の階級闘争の発展した先にAI時代の階級闘争があ
  ることを見ようとしない

 ・社会保障は、資本主義の生みだした「富と貧困の対立」を緩和する「所得
  再配分」として生まれたものであるが、BIには、「所得再配分」の観点
  がなく、貧困を解決するものではないから、新しい社会保障にはなりえな
  い

 ・BIが新しい社会保障となるためには、「所得再配分」の観点から、「大
  企業優遇税制の見直し、法人税、所得税を元に戻す応能負担の原則」でな
  ければならない

 ・しかし、AI、BIにより、今後資本主義の矛盾が激化することは間違い
  ない

 

4.貧困をめぐる階級闘争の前進

● BI時代を展望した階級闘争

 ・AIからBIの時代に入り、資本主義の矛盾はますます激化する

 ・それは現代よりもいっそう深刻化した「格差と貧困」をめぐるたたかいと
  なり、資本主義の存亡が問われることになる

 ・労働者階級も、賃上げや労働時間の短縮という当面の要求を前面に出しな
  がら、生産手段の社会化という資本主義を乗り越える要求と結びつける必
  要がある

 ・貧困解決のためには、階級闘争の現在と未来をみなければならない

● 一点共闘の前進

 ・日本共産党は、アベ政権の暴走が国民との矛盾を深めつつあるとして、政
  治革新の統一戦線結成のために、まずは一点共闘を重視してきた

 ・特に2011.3の福島原発事故を機に、「原発ゼロ」の一点共闘が大きく前進
  (日本共産党も参加)

 ・2013.3から原発ゼロを求める毎週金曜日の首相官邸前行動が次第に盛り上
  がり、他の野党も参加するように

 ・原発ゼロの運動は、「アベ内閣打倒」の一点で、TPP,消費税、沖縄の
  一点共闘と結びつく

 ・2015.5 アベ政権、戦争法=安保法制を国会提出

 ・戦争法反対で、これまでの一点共闘は「戦争法反対・アベ内閣打倒」で1
  つに結びつき、市民の運動のなかから「野党は共闘」の声が広がる

 ・2015.9 戦争法=安保法制強行成立

 ・日本共産党は、即日「安保法制廃止と立憲主義の回復を求める国民連合政
  府」を提唱し、これまでの一点共闘を国政革新の統一戦線に発展させよう
  とする

 ・これを受けて、これまで統一した組織をもたなかった市民連合は、2015.
  12「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」としてこれまで
  の全ての一点共闘を束ねる組織的一体化を実現

 ・市民連合の結成により、「市民と野党の共闘」という統一戦線の土台がつ
  くられる

 ・2016.7 参院選で、32の小選挙区の全てで野党統一候補が実現し、11の選
  挙区で勝利

● 統一戦線崩しと再編

 ・アベ政権の統一戦線崩し始まる

 ・2017.9 アベ首相突如衆議院解散宣言、即日小池都知事希望の党結成、前
  原民進党代表は直ちに希望の党への合流を決定、両議員総会で満場一致で
  承認

 ・日本共産党と市民連合は、希望の党を安保法制支持、9条改憲をかかげる
  「自民党の補完勢力」と決めつけ、野党共闘をあきらめないことを表明

 ・民進党内に動揺が生じ、2017.10 立憲民主党結成

 ・日本共産党、立民党結成を歓迎し、「共闘の原点と大義に立ち返って行動
  するという方々とは、この間の行きがかりをのりこえて、協力、連携を追
  求する」と主張し、67の選挙区で候補者を下ろす

 ・その結果、野党共闘は、復活再編され、共産、立憲民主、社民の3野党は
  市民連合と7項目の政策合意で選挙をたたかい、立民党野党第1党に

 ・総選挙前は、共産、民進、社民、自由の4野党共闘が、総選挙後には、共
  産、立憲民主、国民民主(2018.5 民進と希望)、社民、自由の5野党1
  会派の共闘に

 ・2018.9 5野党1会派の共闘支援で、玉城デニー知事誕生。「沖縄に学べ」
  が共通語に

 ・2019.1.29 5野党1会派の党首会談で、安倍政権打倒をめざし、参院選
  で候補者一本化に合意

 ・いよいよ国政革新の統一戦線が結成されようとしている

 ・2019.7の参院選がその第一歩となる

● 統一戦線の発展の鍵は「対話」

 ・一点共闘から統一戦線へと発展してきた鍵は「対話」にある

 ・対話は①一致点を拡大し、②リスペクトを高める

 ・日本共産党は、対話をつうじて一点共闘の「原発ゼロ」から出発しながら、
  「アベ内閣打倒」「戦争法反対」を経て、「安保法制廃止と立憲主義の回
  復を求める国民連合政府」から「安保法制廃止、原発ゼロ、9条改憲反対、
  辺野古新基地反対、消費税10%反対」まで共通政策を広げてきた

 ・対話は、不一致点を克服し、真理である一致点を拡大する

 ・日本共産党は、対話によって「共闘の原点の大義に立ち返って行動」する
  人々を仲間としてリスペクトし、不一致点を克服し、共通政策を拡大させ
  てきた

 ・沖縄の県民投票、市民の求める対話によって二択を三択にすることで、全
  会派一致の合意に真理が拡大

 ・当初は①市民連合に各野党がつながる状況から、②対話をつうじて「野党
  共闘」が実現し、③4野党の共闘から、④5野党・1会派の共闘という前
  進をとげている

 ・共闘を前進させる最大の力は、対話を主張し続ける日本共産党の躍進

● 対話の続くかぎり、統一戦線は発展する

 ・統一戦線が発展すれば、貧困という資本主義の根本矛盾に接近することに
  なる

 ・日本共産党の躍進が続けば、統一戦線の共通政策は当面の政策課題から資
  本主義の矛盾に移行し、資本主義を乗り越える力に発展する

  ・それがAI、BIへの最大の政策となる