2019年3月16日 講義

 

 

第8講 水が売られる

 

1.新自由主義は繰り返す

● 新自由主義の教訓

 ・新自由主義の最初の実験場となったのが、「アメリカの裏庭」といわれた
  中南米

 ・1980年代にメキシコやブラジルなど債務危機に陥った国の経済を建て直す
  として、世界銀行とIMF(国際通貨基金)は、融資条件として新自由主
  義を押しつけた

 ・世界銀行とIMFは、水、土地、教育、福祉などの公共事業を民営化し、
  多国籍企業に国土を切り売りする暴走政治を生みだし、国民にツケを押し
  つける

 ・1983年に「IMF暴動」と呼ばれる争乱が相次いで、1987年までの5年
  間に中南米の8ヵ国でIMFの指導に反対する左翼政権が誕生

● ボリビアの「水戦争」「コカ戦争」「ガス戦争」

 ・伊藤千尋著『反米大陸』(集英社新書)は、新自由主義が中南米を「反米
  大陸」にしたと主張する

 ・この流れを象徴するのがボリビアであり、1990年代に新自由主義は「水戦
  争」「コカ戦争」「ガス戦争」を引き起こす

 ・IMFは、「債務返済のための条件として、水道事業の民営化を要求」(同
  30ページ)

 ・「ボリビア政府は、アメリカ系の会社に水道事業を売り渡し、水道料金は
  一気に値上がりする」(同)

 ・「採算の取れない貧困地区の水道管工事は一切行われず、月収の4分の1
  にもなる水道料金を払えない住民が井戸を掘ると、『水源が同じだから勝
  手にとるな』と、ベクテル社が井戸使用料を請求してくる。……最終手段
  で彼らがバケツに雨水を溜めると、今度は1杯ごとに数セント(数円)を
  徴収するという徹底ぶり」(堤未果『日本が売られる』幻冬舎新書 17ペ
  ージ)

 ・2000年には数万人規模のデモが生じ、政府は高い犠牲を支払って再び水道
  を国営に戻した

 ・これが「水戦争」と呼ばれる

 ・コカは、高地に住む先住民の高山病をいやす薬

 ・アメリカは米軍を派遣してコカ畑を焼き払い、枯れ葉剤を空中散布

 ・怒った国民は抗議行動に立ちあがり、農民組合代表であり、社会主義者の
  モラレスが「コカ戦争」のリーダーとなる

 ・2003年政府は、天然ガスを安い価格でアメリカに輸出しようとした

 ・国民は、なけなしの資源が奪われると抗議して、「ガス戦争」を展開

 ・ついにボリビア全土の蜂起で大統領はアメリカに亡命し、モラレスが2005
  年大統領となり、現在に至る

 ・モラレスは「新自由主義の経済体制を終わらせる」(同33ページ)と宣言

 ・伊藤氏は「グローバリズムのなか、アメリカはかつて中南米で行ってきた
  ことを、今や世界に広げようとしている。だから、過去の中南米の歴史を
  見れば、アメリカがこれから世界で何をしようとしているのかが見えるの
  だ」(同5ページ)という

● 新自由主義は、日本でいま繰り返されようとしている

 

2.新自由主義に水が売られる

● 2018.12.6 改定水道法成立

 ・自民、公明、維新などの賛成で可決、成立

 ・水道事業の広域化や民間参入を促進するもの

 ・市町村が経営してきた水道事業の運営権を、期限付きで民間企業に売却す
  る「コンセッション方式」の導入をより容易にするもの

 ・コンセッション方式とは、自治体などの公的主体が水道の公的施設を所有
  したまま、料金収受も含めた運営権を企業に売却し、民間事業者がもうけ
  ていく仕組み

 ・アベ政権は、コンセッション方式の導入を促進するため、「働きかけリス
  ト」までつくって各地の首長らに売り込んできた

 ・いま新自由主義に「命の水」が売られようとしている

● 堤未果『日本が売られる』(2018.10)

 ・堤氏の『日本が売られる』は、現代の新自由主義も「エネルギー、温暖化
  ガス排出権、国家の破産、食料、水」(『日本が売られる』5ページ)な
  どを投機(マネー・ゲーム)の対象とし、多国籍企業はその対象を手に入
  れようとしていることを告発している

 ・その最初のテーマが「水が売られる」

 ・ 1995.8 世界銀行副総裁だったイスマイル・セラゲルディンは「20世紀
  は石油を奪い合う戦争だった。21世紀は水をめぐる戦争になるだろう」
  (同16ページ)と述べ、その言葉は現実となる

 ・南米で導入された水道民営化は、まずイギリスに、ついで、その波は北米
  から欧州諸国、アジア、アフリカへと拡大

 ・水は21世紀の超優良投資商品になろうとしている

 ・1996年、水道民営化推進の「世界水会議」がフランスに設立され、仏のヴ
  ェオリア社、スエズ社、英のテムズ・ウォーター社の3大水企業が世界銀
  行やIMFなどと水ビジネス市場の拡大を話合う

 ・民営化されると、水道料金は高騰し、サービスは低下、財政も不透明化す
  る

 ・一度民営化した水道事業を再び公営に戻すと、莫大な違約金を支払わされ
  る

● 国民の新自由主義への反撃

 ・世界の水道民営化に関する調査機関であるPSIRU(公共サービス国際
  研究所)のデータによると、「2000年から2015年の間に、世界37ヵ国235
  都市が、一度民営化した水道事業を、再び公営に戻している」(同21ペー
  ジ)

 ・2009年、水道民営化のパリで、25年間続いた水道事業の民営委託に終止
  符が打たれる

 ・パリ市長は、「水道再公営化」を公的に掲げ当選、運営を民主化し、財政
  内容も全て市民に公開

 ・その後世界各地の自治体がパリに続き、「今もその数は増え続けている」
  (同254ページ)

 ・パリでは、水道の再公営化により、「自治体代表と同等の議決権を与えら
  れた市民社会の代表が理事会メンバーになり、決定に参加すること」(同
  256ページ)に

 ・フランスでは新自由主義に反対し、「他にもたくさんの市民参加型システ
  ムが誕生し始め」(同257ページ)た

 

3.新自由主義に水を売り渡すな

● アベ政権の水売り戦略

 ・日本では、これまで「水と安全はタダ同然」だったが、いま大きな転換を
  迎えようとしている

 ・2013.4 ワシントンの「戦略国際問題研究所」の席で、麻生副総理は、日
  本の水道事業を全て「民営化します」(同27ページ)と論外の発言をし、
  新自由主義に手をさしのべる

 ・日本政府は早速フランスの水企業に対し、水売りのために日欧EPA(経
  済連携協定)で交渉を開始し、2018.7 正式に署名

 ・日欧EPAのために、2018.5「企業に公共水道の運営権を持たせるPFI
  法を促進する法律が可決」(同30ページ)

 ・この法律により、水道料金は「厚労省の許可がなくても、届けさえ出せば
  企業が変更できるように」(同)なり、ウォール街の投資家は大満足

 ・また「上下水道や公共施設の運営権を民間に売る際は、地方議会の承認不
  要」(同31ページ)に

 ・さらに「災害時に水道管が壊れた場合の修復も、国民への水の安定供給も、
  どちらも運営する企業でなく、自治体が責任を負うことに」(同)

 ・この法律可決の1ヶ月後、「大阪市は市内全域の水道メーター検針・計量
  審査と水道料金徴収業務を、仏ヴェオリア社の日本法人に委託」(同)

 ・「宮城県も2020年から、県内の上下水道運営権を民間企業に渡す方針」
  (同)

 ・「静岡県浜松市は、2017年に国内初の下水道長期運営権を仏ヴェオリア社
  に売却し、20年の契約」(同32ページ)を結ぶ

 ・仕事の点検は運営権者の「セルフモニタリング」が原則、情報公開の範囲
  は運営権者自身が決める、という無責任さ

 ・運営権を企業に売る自治体が増え始めたら、運営業者は「次のステップ」
  として複数の自治体の水道を1つにまとめ、水道料金を「公正妥当な料金」
  から「健全な経営のための公正な料金」に書きかえようとしている(同)

 ・こうした背景のもとに、新自由主義に本格的に水を売り渡す「改定水道法」
  成立

● 水を売り渡すな

 ・しかし「水が売られる」事態はまだ始まったばかりであり、「次のステッ
  プ」に進ませてはならない

 ・「命の水を売り渡すな」の市民運動を攻勢的に展開する必要がある浜松市
  では、下水道にコンセッション方式を導入した市長が、市民の反対運動の
  前に水道事業への導入の「当面延期」を表明

 ・2018.6から反対運動を展開している「浜松市の水道民営化を考える市民ネ
  ットワーク」は、民営化計画中止を求める1万2000人分の署名を提出し、
  さらに2019.1.13に「命の水を守る全国のつどい」を開催し、600人集まる
  (しんぶん赤旗 1月14日号)

 ・アジア太平洋資料センター内田聖子共同代表は、「水道民営化は40年前か
  ら進み、水メジャーは先進国に標的を変えてきた。日本は何周も遅れて民
  営化を進めている」と批判(同1月15日号)

 ・自治労連傘下の浜松市職員組合と浜松市職員上下水道労働組合も「公的サ
  ービスの産業化を許さない」として春闘をたたかっている(同2月21日号)

 ・2019.2.10 浜松市では「水道民営化は誰のため?」の講演会とデモ(同)

 ・まず、改定水道法の本質が多国籍水企業に「水を売り渡す」ものであるこ
  とを徹底的に暴露すること

 ・そのうえに「命の水を守る全国のつどい」を契機として、「命の水を売り
  渡すな」の全国統一行動を急いで展開する必要がある

 ・市民と野党の共闘の共同政策の1つに、命の水を守る課題を付け加えてい
  かなければならない

 ・新自由主義に日本の水を売り渡すことは、日本を売り渡す第一歩となる

 ・日欧FPAは「水」の次には日本の「核のゴミビジネス」(同34ページ)
  にねらいを定め、日本の土が売られようとしている

 ・大門実紀史日本共産党参議院議員著『カジノミクス』好評販売中

 ・安倍政権の経済政策は、すべてアメリカの「カジノ資本主義」に奉仕し続
  ける「とばくの世界」だと批判(次講に)