2019年5月18日 講義

 

 

第10講 時代を哲学する①

 

1.時代を哲学する

● 本講座は「時代を哲学する」と題している

 ・現代日本はどういう時代なのか

 ・志位委員長は、年頭の挨拶で、今年を「日本を変えるたたかい」の年とし
  て位置づけている

 ・果たして日本を「変えることはできるのか」、あるいは日本は「変わるの
  か」が問われている

● 時代はまさに日本が変わるのかどうかにある

 ・第7講で「一点共闘」から「市民と野党の共闘」に、「市民と野党の共闘」
  から「統一戦線」へとたたかいが前進し、参院選が統一戦線の第一歩とな
  ることをみてきた

 ・統一戦線の動向も含めて、いま日本は大きく変わろうとしている

 ・本講の最後の3講は、「日本は変わるのか」をテーマに、「時代を哲学す
  る」ことにしたい

 

2.日本は変わるのか

● 沖縄県民投票

 ・2018.9「オール沖縄」のデニー知事圧勝

 ・辺野古埋め立ての県民投票は、反対が72%(43万4273票)と、全市町村
  で多数の圧倒的多数

 ・沖縄3区補選で屋良朝博氏が圧勝して、米軍新基地ノーにトドメの審判

 ・憲法前文は、「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるもの」であると
  して、国民主権原理を明記

 ・アベ内閣は、にもかかわらず工事続行を表明

 ・こんな憲法無視の安倍政治は許しがたい

 ・問題は、国民が団結して安倍政治を打ち倒すしかない

● 多数者革命

 ・「日本共産党は、『国民が主人公』を一貫した信条として活動してきた政
  党として、国民の多数の支持を得て民主連合政府をつくるために奮闘する」
  (綱領)

 ・いわゆる多数者革命の考え方を示したもの

 ・多数者革命は、「国民が主人公」の立場であり、日本を変えるのは国民自
  身であることを明確にしたもの

 ・どうすれば、国民の多数がアベ内閣打倒で手を結ぶのか、そのなかで日本
  共産党はどんな役割を果たすのかが問題

 ・「日本は変わる」のかの問題を、哲学的に考えてみたい

 

3.民主的共和制

● エンゲルスの「エルフルト綱領批判」(1891.6)

 ・「もし、なにか確かなことがあるとすれば、それは、わが党と労働者階級
  とが支配権をにぎることができるのは、民主的共和制の形態のもとにおい
  てだけ」(全集㉒ 241ページ)

 ・「この民主的共和制は、すでに偉大なフランス革命が示したように、プロ
  レタリアートの執権のための特有な形態ですらある」(同)

 ・このエンゲルスの言葉は、1891.6に執筆されたものであり、「偉大なフラ
  ンス革命」とは1871年の「パリ・コミューン」も含めて述べられたもの

 ・エンゲルスは1895年に死亡しているので、マルクス、エンゲルスの生涯の
  革命運動を総括する文章ということができる

● 民主的共和制とプロレタリアートの執権(プロ執権)

 ・民主的共和制とは、普通選挙権にもとづく議会が最高の権力をもつ議会制
  共和国のこと

 ・日本国憲法では、「国会は国権の最高機関」とされ、天皇は「国政に関す
  る権能を有しない」とされているので、日本は民主的共和制の国家

 ・エンゲルスのいう「支配権をにぎる」とは、選挙で議会の多数を得て政権
  の座につくことを意味している

 ・日本共産党は、エンゲルスの言葉に学んで、民主的共和制の日本国憲法の
  もとで「議会の多数を得ての革命」という多数者革命の路線を確立した

 ・エンゲルスは、「パリ・コミューン」をとらえて、「あれがプロレタリア
  ートの執権だったのだ」(全集⑰ 596ページ)と述べた

 ・「パリ・コミューン」は、民主的共和制のもとで、労働者階級の権力が普
  通選挙により実現したことをとらえ、「プロ執権」と呼んだもの

 ・エンゲルスが民主的共和制を「プロ執権」のための「特有の形態」とよん
  でいるのは、世界最初の労働者階級の政府が普通選挙によって選出され、
  「人民による人民の政府」(全集⑰ 323ページ)を樹立したパリ・コミュ
  ーンの経験を述べたもの

 ・パリ・コミューンは、労働者階級によって樹立された「人民自身の政府」
  (同335ページ)、つまり人民主権の政府

 ・エンゲルスは1892年にも「マルクスと私とは、40年も前から、われわれに
  とって民主的共和制は、労働者階級と資本家階級との闘争が、まず一般化
  し、ついでプロレタリアートの決定的な勝利によって、その終末に到達す
  ることのできる唯一の政治形態であるということを、あきあきするほど繰
  り返してきいているのである」(全集㉒ 87ページ)と述べ、プロ執権が
  民主的共和制のもとで階級闘争に勝利する「特有の形態」であることを説
  明している

 ・民主的共和制のもとで実現される「プロ執権」とは何かが、問われている

 

4.普通選挙制のもとで多数者革命を実現しうる
  のか

● 普通選挙権

 ・普通選挙権は、納税額、性別などの制限にもとづく制限選挙に反対し、労
  働者のたたかいのなかではじめて勝ちとられた普遍的な選挙権

 ・イギリスのチャーチスト運動(1832)に始まり、日本では1925年に25歳
  以上の男子に普通選挙権(敗戦後女性の参政権も認められ、真の普通選挙
  権に)

 ・しかし民主的共和制のもとでも、資本家階級は「資本が賃労働を搾取する
  ための道具」(全集㉑ 171ページ)としての国家を貫く

 ・というのも、民主共和制のもとでも、「富はその権力を間接に、しかしそ
  れだけにいっそう確実に行使する。一方では、これは直接に官吏を買収す
  るというかたちでなされる。……他方では、これは政府と取引所の同盟と
  いうかたちでなされる」(同)から

 ・つまり普通選挙権のもとでも、資本家階級はその権力を行使して、多数を
  占める労働者階級と国民をいくつにも分断して支配を維持する

 ・「支配的階級の諸思想は、どの時代でも支配的諸思想である」(『〈新訳〉
  ドイツイデオロギー』59ページ)

 ・私たちは、パリ・コミューンの経験も踏まえながら、資本家階級の支配に
  抗して、普通選挙権のもとでも多数者革命を実現することができるのかを
  問題としなければならない

● 多数決は必ずしも真ならず

 ・ルソーは1762年の『社会契約論』のなかで、「イギリスの人民は自由だと
  思っているが、それは大きなまちがいだ。彼らが自由なのは、議員を選挙
  する間だけのことで、議員が選ばれるやいなや、イギリス人民は奴隷とな
  り、無に帰してしまう」(『社会契約論』133ページ)と述べている

 ・資本家階級の権力のもとでは、多数決は真理ではないことを示したもの

 ・普通選挙という多数決原理は、「国民が主人公」という民主主義の原則か
  らして必要な原理ではあっても、真理を実現するのに十分な原理ではない

 ・フランス革命を最初からブルジョアジーの権力獲得まで経験したへーゲル
  は、『法の哲学』のなかで「世論のなかでは、真理と限りない誤謬とがき
  わめて直接に結合」(317節)しており、「世論は尊重にも、軽蔑にも値す
  る」(318節)として、人民という言葉は「定形のない塊」(303節)にす
  ぎないと述べている

 ・へーゲルは、「世論のなかにはいっさいの虚偽と真実が含まれているが、
  そのなかの真実のものを見つけるのが偉人の仕事である」(318節)とし
  て、普通選挙権に見切りをつけ、時代の「偉人」を優秀な官僚群に見出し
  た

 ・こうしてへーゲルは世論のもつ矛盾を指摘しながらも、人民に無限の信頼
  をおくことができず、普通選挙制を否定した

● ルソーの人民主権論

 ・ルソーは『社会契約論』において、真にあるべき国家を、社会契約にもと
  づく人民主権国家としてとらえ、フランス革命を理論的にリードした

 ・「各構成員の身体と財産を、共同の力のすべてをあげて守り保護するよう
  なアソシエーションの一形式を見出すこと。…これこそ根本的な問題であ
  り、社会契約がそれに解決を与える」(『社会契約論』29ページ)

 ・人民主権国家(アソシエーション)とは、人民が一般意志をつくりだし、
  人民がその指導のもとにおかれるという「治者と被治者の同一」の国家

 ・つまり、人民主権国家とは「人民の、人民による、人民のための政治」を
  実現する国家

 ・マルクス、エンゲルスは、ルソーに学んで、人民主権の社会を「各人の自
  由な発展が万人の自由な発展の条件であるような1つのアソシエーション」
  (「共産党宣言」全集④ 496ページ)とよんで、その実現を求めた

 ・しかし、人民は欺かれることがあるから、「全体意志と一般意志のあいだ
  には、時にはかなり相違がある」(同47ページ)

 ・全体意志とは「特殊意志の総和」(同)であり、普通選挙権によって示さ
  れる人民の多数の意志

 ・ルソーは、人民に無限の信頼をおきながらも、一般意志を形成する立法者
  の発見は困難だと考えた

 ・「ルソーの真意は、あくまでも全体意志と一般意志を区別するという前提
  にたったうえで、全体意志は、一般意志に向かって無限に前進すべきもの
  であり、ついには全体意志が一般意志に一致するに至ったときにはじめて
  真の人民主権の政治ということができる」(高村『科学的社会主義の源泉
  としてのルソー』81ページ)と考えた

 ・一般意志は、人民の意志の真理であるから、真理のもつ力によって実現し、
  「真理は必ず勝利する」ことを示す

● 資本主義的生産過程は、労働者階級の反抗を増大する

 ・マルクスは、資本主義の矛盾そのものによって労働者階級の反抗は増大し、
  いつかは普通選挙で一般意志を実現し、勝利しうると主張した

 ・資本主義的生産の発展によって、「いっさいの利益を横奪し独占する大資
  本家の数が絶えず減少していくにつれて、貧困、抑圧、隷属、堕落、搾取
  の総量は増大するが、しかしまた、絶えず膨張するところの、資本主義的
  生産過程そのものの機構によって訓練され、結合され、組織される労働者
  階級の反抗もまた増大する」(『資本論』④ 1306ページ)

 ・つまり資本主義的生産関係は、一方で「絶えず減少していく」大資本家の
  側に巨大な富を蓄積し、他方の側に「絶えず膨張する」労働者階級の側に
  「貧困、抑圧」を蓄積していく

 ・資本主義社会において、労働者階級の側の貧困と抑圧の蓄積は、労働者階
  級の反抗を増大せざるを得ないという法則性が「鉄の必然性をもって作用」
  (『資本論』① 9ページ)する

 ・労働者階級の側の反抗の増大は、条件が整えば1つにまとまり、多数者革
  命を実現させることになる

 ・その条件となるのがプロレタリアートの執権である

 

5.矛盾を解決する「プロレタリアートの執権」

● 人民のもつ矛盾の解決としての「プロレタリアートの執権」

 ・普通選挙権は、全体意志と一般意志(真にあるべき意志)の区別を生みだ
  した

 ・ルソーもへーゲルも、全体意志と一般意志のちがいに気がつき、どうすれ
  ば全体意志から一般意志を実現するのかを考えたが、両者とも一般意志は
  人民のなかからではなく、特別な偉人や天才に解決を委ねようとする限界
  をもっていた

 ・一般意志は、人民のなかから生まれなければならないと同時に人民から生
  まれることができないという矛盾は解決されなければならない

 ・その解決を生みだしたのが、1871年の「パリ・コミューン」であり、コミ
  ューン(市自治委員会)が立法権、執行権を掌握し、歴史上最初の労働者
  階級の権力を樹立したところから、エンゲルスは「あれがプロレタリアー
  トの執権だったのだ」と述べたもの

 ・パリ・コミューンは普通選挙権によって議員と政府を選出し、人民主権と
  いう一般意志を実現しようとした

 ・「これは、労働者階級が社会的主動性を発揮する能力をもった唯一の階級
  であることが、……パリの中間階級の大多数によってさえ公然と承認され
  た最初の革命であった」(全集⑰ 320ページ)

 ・「社会的主動性」とは、労働者階級の主導性であり、労働者階級が社会の
  矛盾を解決する人民主権という一般意志を示して、他の中間階級の導き手
  となり、人民を1つにまとめること

 ・パリ・コミューンのもとで、普通選挙権は、「どの雇主でも自分の事業の
  ために労働者や支配人をさがすさいには個人的選択肢を役立てるのと同様
  に、コミューンに組織された人民に役立たなければならなかった」(同
  317ページ)

 ・こうしてパリコミューンは、「人民による人民の政府」(同335ページ)
  となり、人民主権の政府を実現するに至った

● プロ執権のもとで、多数者革命は実現する

 ・プロ執権のもとで、労働者階級の主導性により、民主共和制のもとで人民
  は1つにまとまり、普通選挙によって人民主権という多数者革命を現実の
  ものとする

 ・プロ執権とは、労働者階級の主導性と人民主権の国家とを結びつけ、多数
  者革命を実現する概念ではないのか、が今後検討すべき課題となる