2019年7月20日 講義

 

 

第12講 時代を哲学する③

 

1.いかにして人民の多数を獲得するか

● マルクス、エンゲルスは普通選挙にもとづく多数者革命を提唱した

 ・「マルクスと私とは、40年も前から、われわれにとって民主的共和制は、
  労働者階級と資本家階級との闘争が、まず一般化し、ついでプロレタリア
  ートの決定的な勝利によって、その終末に到達することのできる唯一の政
  治形態であるということを、あきあきするほど繰りかえしてきているので
  ある」(1892年、全集㉒ 287ページ)

 ・普通選挙制のもとでの「労働者階級と資本家階級との闘争」は、労働者階
  級が資本家の人民を分断して支配するやり方を打ち破り、抑圧人民と団結
  し、統一して勝利することを意味する

 ・しかし、マルクス、エンゲルスの時代には、まだ普通選挙で人民が多数派
  となって勝利する方策(統一戦線)は具体的に示されていない

● レーニンの少数者革命論と多数者革命論

 ・レーニンは、マルクス、エンゲルスの多数者革命論を知らず、1919.12
  「戦時共産主義」の一時期、「社会主義革命においては、革命勢力が事前
  に多数者を獲得することは不可能である。それは、革命によって国家権力
  をにぎり、革命的な諸改革を実現したのちにはじめて可能となる」(不破
  『レーニンと資本論』⑥ 6ページ)と考えていた

 ・これは、エンゲルスの多数者革命を否定する重大な後退

 ・レーニンはこの少数者革命の立場からレーニン流プロ執権をかかげてコミ
  ンテルン(1919)を創立する

 ・しかしレーニンは、コミンテルン第3回大会(1921)では方針を転換し、
  「資本主義的に発展した国々でプロレタリアートが組織されていればいる
  ほど、われわれがそれだけ根本的に革命を準備することを歴史は要求して
  おり、そしてわれわれはそれだけ根本的に労働者階級の多数者を獲得しな
  ければならない」(レーニン全集㉜ 513ページ)として、事前に多数者を
  獲得する多数者革命の立場に

 ・コミンテルン第4回大会(1922)に、レーニンは病を押して多数者革命の
  ための「統一戦線」を強調する

● 統一戦線による多数派の獲得

 ・人民が普通選挙で勝利し、人民主権の政府を実現するには、科学的社会主
  義の政党が主導性を発揮して、人民を団結させ、統一させて多数派になら
  なければならない

 ・最初に統一戦線をつくりあげたのは、コミンテルン第7回大会(1935)に
  おける「反ファシズム統一戦線」の呼びかけ

 ・重要なことは、統一戦線とは、科学的社会主義の政党の主導性により、人
  民諸階級を当面の一致する課題で統一し、団結させること

 ・この呼びかけに応え、1936年フランス、スペインで「神を信じるものも信
  じないものも」手をむすび、普通選挙によって「反ファッショ人民戦線政
  府」という人民主権の政府を樹立し、全世界に共感を広げた

 ・しかしスターリンは、1939年「独ソ不可侵条約」を結んで、ナチスドイツ
  と手を組み「反ファッショ」の統一戦線に背を向け、1941年ドイツが対ソ
  侵略戦争を発動するまでそれが続く

 ・ヒトラー・ドイツのソ連侵略を契機に、米、英、ソ、中国などを中心に「
  反ファッショ連合国」が結成され、第二次世界大戦の勝利に大きく貢献

 ・ポーランド、ハンガリー、ルーマニア、ユーゴスラビアなどの東欧では、
  第二次大戦後ファシズムから解放されると、反ファッショ統一戦線の力で
  普通選挙に勝利し、「人民民主主義共和国」を結成

 ・いずれもソ連とは異なり、統一戦線を土台に、普通選挙制により、人民主
  権の人民民主主義国家を建設しようという、多数者革命の道を歩みはじめ
  た

 ・これに対しスターリンは、1949年統一戦線の力により人民民主主義共和国
  への道を歩もうとしていたユーゴスラビアのチトー大統領を「帝国主義の
  手先」ときめつけ、以後東欧の各党が「人民民主主義共和国」の名で自主
  的、民族的な道を語ることは重大な犯罪とされることになった

 ・その結果東欧では、統一戦線による多数者革命の道はふさがれ、1956年ハ
  ンガリー事件、1968年チェコ5ヵ国軍隊進入事件、1979年アフガニスタン
  侵略、80年代のポーランド問題をつうじて、ソ連型の一党支配体制を押し
  つけられる

 ・それでも第二次世界大戦前後をつうじて、統一戦線政策は広く全世界人民
  のものとなる

● 科学的社会主義の政党は、多数者革命のために統一戦線をめざす

 ・へーゲルは、「哲学の最高の窮極目的」(『小論理学』㊤ 69ページ)は、
  現実のなかから理想を引き出し、その理想で現実を変革するという「理想
  と現実の統一」にあるとした

 ・その理想は、弁証法をつうじて現実の矛盾を解決する「真にあるべき姿」
  としてとらえられ、それは真理であるがゆえに現実に転化する必然性をも
  つと主張した

 ・へーゲルの変革の立場は、科学的社会主義の政党に継承されている

 ・日本共産党は、「歴史に対する前衛党の責任とは何か」を問題とし、「社
  会進歩の促進のために真理をかかげてたたかうこと」(「20回党大会報告
  」)と規定

 ・つまり社会発展をめざす変革の立場にたつとき、未来の真理としての「真
  にあるべき姿」をかかげてたたかうことにより、「真理は必ず勝利する」
  ことにより、最後は人民主権の政府を実現することを示したもの

 ・したがって科学的社会主義の政党は、「真にあるべき姿」を導き出すこと
  によって、人民主権を実現する統一戦線をめざす

 

2.日本共産党の多数者革命

● 多数者革命

 ・「日本共産党は『国民が主人公』を一貫とした信条として活動してきた政
  党として、国会の多数の支持を得て民主連合政府をつくるために奮闘する」
  (綱領)

 ・いわゆる普通選挙制にもとづく多数者革命の路線であり、民主連合政府は
  「国民が主人公」の人民主権国家であることが明らかにされている

 ・しかもこの多数者革命は、社会主義・共産主義にいたる過程でも「国民多
  数の合意の形成であり、国会の安定した過半数を基礎として、社会主義を
  めざす権力がつくられる」(同)として、社会主義的変革の段階まで貫か
  れる

● 日本共産党の「プロ執権」論

 ・日本共産党は、20世紀の社会主義の実験を教訓として、多数者革命を実現
  する「プロ執権」論を、「科学的社会主義の政党の主導性と人民主権との
  統一」の立場としてとらえてきた

 ・まず第1に、日本共産党は弁証法を武器として日本の「真にあるべき姿」
  という真理を探究し、理論的な主導性を発揮してきた

 ・真理は、最初は少数者の認識にすぎないが、やがて真理それ自身のもつ力
  によって多数者の認識となり、必然的に現実に転化する力をもつようにな
  る

 ・第2に、日本共産党は、「国民が主人公」の人民主権の政府をめざして、
  その「強力な組織力」を使って人民のなかに統一戦線を結成することをめ
  ざしている

 ・日本共産党は、党綱領を確定した1961年以来、統一戦線結成を掲げ続けて
  いるが、安保条約廃棄の課題で国民的合意が得られず、支配階級の分断作
  戦もあって、アメリカいいなり、財界中心を打破する統一戦線は結成され
  ず

 ・しかし、安倍内閣が2014.7 集団的自衛権行使を容認し、2015.5 戦争法=
  安保法制を国会に提出したことから、アベ政権の打倒をめざす市民運動が、
  立憲野党と共闘して大きく盛りあがる

 ・日本共産党は、その経験に学び民主連合政府の統一戦線から「さしあたっ
  て一致できる目標の範囲で統一戦線を結成し、統一戦線の政府をつくるた
  めに力をつくす」(綱領)方向に転換

 ・統一戦線結成のために貫かれているのが、「国民が主人公」の立場

● 日本共産党の多数者革命をめざす統一戦線

 ・日本共産党は、戦争法成立(2015.9.19)の日に「安保法制の廃止と立憲
  主義の回復を求める国民連合政府」を提唱し、国民連合政府実現のための
  統一戦線を提起

 ・これに応じて市民の側も2015.12「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求
  める市民連合」を結成し、これまでの事実上の市民の共闘から抜け出し、
  市民運動の組織的一体化を実現して、国民連合政府の統一戦線の結成に合
  意

 ・市民連合の呼びかけもあり、2016.2.5 野党党首会談で「安保法制廃止・集
  団的自衛権行使容認の閣議決定撤回」「アベ政権打倒」など4項目合意で、
  野党共闘を実現

 ・それ以来、市民と野党の共闘は、2016年参院選で、32の1人区のうち11
  で勝利、2017年の総選挙で希望の党による分断作戦を乗り越えて、日本共
  産党、立憲民主党、社民党が共闘し、立民党が野党第1党に。2019年参院
  選で5野党・会派が32のぬ人区のすべてで野党統一候補を実現し、消費税、
  憲法、原発、沖縄など13の国政の根本問題で共通の旗を示すことで、大き
  く前進した

 ・参院選の結果によっては、衆議院も含めて、アベ政権打倒、国政革新の統
  一戦線の結成が当面の課題となってくる

● 統一戦線発展の論理

 ・プロ執権は、「科学的社会主義の政党の主導性と人民主権との統一」とし
  て科学的社会主義の政党と人民主権をめざす人民との相互作用を求めてい
  る

 ・つまり、科学的社会主義の政党は、人民に「真にあるべき姿」を示して、
  主導性を発揮するのに対し、人民(市民連合)は、人民主権の担い手とし
  て、科学的社会主義の政党の主導性に対峙する

 ・科学的社会主義の政党と市民連合との対立物の相互浸透が、統一戦線発展
  の論理を生みだす

 ・政党から市民連合に、市民連合から政党にの交互作用をつうじて、統一戦
  線の共通目標も発展すると同時に、政党と市民連合との信頼関係も高まり、
  統一戦線の運動も強化される

 ・今回の参院選の共通政策も、市民連合が共通政策をつくって野党に提起し、
  野党各党がそれを受けて議論することで、かつてない13項目の基本政策が
  成立し、32の選挙区での候補者一本化が実現された

 ・今後統一戦線が結成され、野党統一候補が普通選挙で国会の多数を得たと
  しても、市民連合は議員が人民の役にたたないと判断したときは、リコー
  ルすることで人民主権を貫徹する(パリ・コミューンの教訓)

 ・対立物の相互浸透に統一戦線発展の真理がある

 

3.世界を変える

● 1%対99%の対決する時代

 ・新自由主義のもとで、アメリカを中心とした1%の金融資本が99%の全世
  界人民を支配する時代が到来した

 ・資本主義の矛盾の深化によって、世界中で99%の人民を統一戦線に結集し
  うる客観的条件が生まれている

 ・これは、「一億総中流化」だった福祉国家時代にはなかった客観的条件で
  ある

● 日本を変える

 ・日本の各政党は、それぞれの階級の階級的利益を代表するものとして存在
  する

 ・自民党は、資本家階級の利益を代表し、日本共産党は「労働者階級と国民」
  (22回党大会)の利益を代表する

 ・日本共産党は、財界と無縁の唯一の政党として、労働者階級と国民の利益
  を代表している

 ・日本共産党と国民とは、対立物の相互浸透の関係にある(日本共産党は全
  有権者規模の宣伝で国民に支持を訴え、国民はその要求の実現を日本共産
  党に託す)

 ・日本共産党は「国民が主人公」の理念にしたがい、統一戦線を発展させて
  「国民多数の合意の形成」(綱領)により、人民主権の社会をめざしてい
  る

 ・この日本共産党の立場は、「科学的社会主義の政党の主導性と人民主権の
  統一」という「プロ執権」の今日的到達点にたって、普通選挙で多数派を
  形成しようというものである

 ・この立場は、20世紀の社会主義の実験をふまえて、真理を実現したもので
  あり、「真理は必ず勝利する」

● 世界を変える

 ・アメリカでは、「民主的社会主義者」バーニー・サンダースの2020年大統
  領選予備選立候補を機に、民主党が大きく変わろうとしている

 ・6月27日の民主党討論会を、過去最高の1810万人が視聴

 ・進歩派のサンダース派は、1%の少数者による極右政治を、99%の労働者
  と国民の団結で打ち破ると訴え、共感を広げている

 ・トランプ大統領も、韓国文大統領の立ち会いのもとに、3度目の米朝首脳
  会談を実現し、北朝鮮の非核化協議再開に動き出す

 ・アメリカが変われば、日本、韓国の動きとあいまって、東アジア全体を大
  きく平和の方向に転換させ、世界を変える力となる

 ・世界を変えるためにも、参院選で、日本共産党と野党統一候補が勝利し、
  今年を「日本を変えるたたかい」の年にしなければならない