2020年12月19日 講義

 

 

第3講 剰余価値の生産

 

[はじめに]

 ・第3講から5講までは、『資本論』第1部の第2篇から第7篇に相当する
  ものであり、資本主義とは何か、という資本主義の本質の解明にあてられ
  ている

 ・言いかえると、資本主義の本質とは何か、その本質はいかなる矛盾によっ
  て支えられているのか、という資本主義の根本的矛盾を明らかにすること
  によって、「独自の資本主義的生産様式」を説きおこし、必然的没落をも
  明らかにする

 ・それとともに、資本主義的生産様式は生産力を無制限に発展させることに
  より、「人間と自然との物質代謝」を撹乱するという付随的矛盾について
  も論究している

 ・したがって、第3講から第5講までは、『資本論』全体の中心的役割を担
  っている

 

1.貨幣の資本への転化

● 資本の生成

 ・まず、第2篇は「貨幣の資本への転化」と題して資本の本質を明らかにす
  る

 ・商品流通は、買うために売る(W—G—W)のに対し、資本の生成は、売
  るために買う(G—W—G)

 ・W—G—Wの究極目的は使用価値であるのに対し、G—W—Gの究極目的は、
  その両極がともに貨幣なので、「この循環を推進する動機とそれを規定す
  る目的とは、交換価値そのもの」(Ⅰ② 261ページ、Ⅱ② 255ページ)

 ・すなわちG—W—Gでは、「最初に流通に投げ込まれたよりも多くの貨幣
  が、 最後に流通から引きあげられる」(同、Ⅱ② 256ページ)のでなけれ
  ば循環の意味がなく、その完全な形態は、G—W—G'(G'=G+⊿G)

 ・この超過分は「剰余価値」(Ⅰ② 262ページ、Ⅱ② 256ページ)とよば
  れ、「この運動が、前貸しされた価値を資本に転化させる」(同、同)

 ・すなわち、資本は、剰余価値の取得を「推進する動機とそれを規定する目
  的」として生成される

 ・資本の本質は、いわゆる利潤第一主義にある

 ・したがって、「資本の運動には際限がない」(Ⅰ② 265ページ、Ⅱ② 259
  ページ)のであり、資本家の目標は「絶対的な到富衝動」(Ⅰ② 266ペ
  ージ、Ⅱ② 261ページ)である

● 剰余価値はどこから生まれるのか

 ・次いで、資本の本質はどのようにして形成されるのかを解明する

 ・G—W—G'のG—W もW—G'も、いずれも等価物どうしの交換であり、「
  流通または商品交換はなにも価値を創造しない」(Ⅰ② 285ページ、 Ⅱ
  ② 279ページ)

 ・剰余価値が生まれるとしたら、資本が生産のために購入した商品(W)の
  もつ「使用価値そのものから、すなわちその商品の消費から生じるしかな
  い」(Ⅰ② 291ページ、Ⅱ② 285ページ)

 ・ある商品の消費から価値を引き出すためには、「それの使用価値そのもの
  が価値の源泉であるという独自な性質をもっている商品」(同、II② 286
  ページ)を市場において見いだすしかない

 ・それが資本家が市場で購入する「労働力」という独特の商品である

 ・労働力という商品の使用価値は労働であり、労働は価値の源泉である

 ・労働力とは、労働者が自分の「肉体、生きた人格のうちに存在」(Ⅰ②
  292ページ、Ⅱ② 286ページ)している「肉体的および精神的諸能力の総
  体」(同、同)のこと

 ・資本家は、労働市場において、労働者がもっている労働力を一定の時間に
  限って価値どおりに購入し、購入した労働力の使用価値である労働を使っ
  て、労働力の価値以上の価値を生産する

 ・「労働力の1日のあいだの使用が創造する価値が労働力自身の日価値の2
  倍の大きさであるという事情は、買い手にとって特別な幸運ではあるが、
  決して売り手にたいする不当行為ではないのである」(Ⅰ② 337ページ、
  Ⅱ② 331ページ)

 ・資本家は、労働者を働かせて、購入した労働力の価値の2倍も剰余価値を
  手にし、ここに搾取という「手品はついに成功した、貨幣は資本に転化し
  た」(Ⅰ② 338ページ、Ⅱ② 332ページ)

● 価値増殖過程は、不変資本と可変資本とを区別する

 ・資本主義の本質としての剰余価値の生産は、資本のうちに不変資本と可変
  資本の区別をもっている

 ・「資本のうち、生産諸手段すなわち原料、補助材料、および労働手段に転
  換される部分は、生産過程でその価値の大きさを変えない」(Ⅰ② 363ペ
  ージ、Ⅱ② 356ページ)で、生産物にそのまま価値を移転するところから
  「不変資本」とよばれる

 ・これに対し、「資本のうち、労働力に転換される部分」(同、同)は、新
  価値を生産物に付け加えるところから「可変資本」とよばれる

 ・価値増殖過程において、重要な意味をもつのは可変資本である

 

2.剰余価値の生産

● 剰余価値の生産

 ・資本は、「絶対的な致富衝動」を満足させるために、より多くの剰余価値
  の生産をめざす

 ・より多くの剰余価値の生産には、第3篇「絶対的剰余価値の生産」と、第
  4篇「相対的剰余価値の生産」の2種類がある

 ・資本は、この2つの方法を駆使して剰余価値率を高める

● 剰余価値率

 ・前貸資本(C)は、不変資本である生産諸手段に支出される貨幣額(c)
  と、可変資本である労働力に支出される貨幣額(v)とに分解され、労働
  力に支出された貨幣額(v)は、剰余価値(m)を生産する(C=c+v
  +m)

 ・剰余価値(m)は、可変資本(v)から生産されるから、「剰余価値率」
  ( Ⅰ ② 372ページ、Ⅱ ② 366ページ)は、m/vとして表現される

 ・労働日のうち、労働力の再生産に使用される部分を「必要労働時間」、労
  働日の残りの部分を「剰余労働時間」とよぶと「剰余価値率m/v=剰余
  労働/必要労働」(Ⅰ② 375ページ、Ⅱ② 369ページ)として表現するこ
  ともできる

 ・「剰余価値率は、資本による労働力の、または資本家による労働者の搾取
  度の正確な表現である」(同、同)

 ・これに対し、不正確な表現が、後にでてくる利潤率(m/c+v)である

● 絶対的剰余価値の生産

 ・絶対的剰余価値は、「労働日の延長によって生産される剰余価値」(Ⅰ
  ③ 558ページ、Ⅱ③ 550ページ)として、剰余価値率(剰余労働/必要
  労働)を高める

 ・資本家は、「人格化された資本」(Ⅰ② 401ページ、Ⅱ② 395ページ)と
  して、「できる限り 大きな量の剰余価値を吸収しようとする本能を、もっ
  ている」(同、同)から、労働日を昼夜を問わず最大限に延長しようとす
  る

 ・「"大洪水よ、わが亡きあとに来たれ!これがすべての資本家およびすべ
  ての資本家国家のスローガンである。それだから、資本は、社会によって
  強制されるのでなければ、労働者の健康と寿命にたいし、なんらの顧慮も
  払わない」(Ⅰ② 471ページ、Ⅱ② 464ページ)

 ・これに対し、労働者は、「日々この労働力を再生産し、したがってまた新
  たに売ることができなければならない」(Ⅰ② 403ページ、Ⅱ② 397ペ
  ージ)から、「僕の労働力の利用とそれの略奪とは、まったく別なことが
  らである」(同、同)として標準労働日を要求する

● 労働日をめぐる階級闘争

 ・「こうして、資本主義的生産の歴史においては、労働日の標準化は、労働
  日の諸制限をめぐる闘争—総資本家すなわち資本家階級と、総労働者すな
  わち労働者階級とのあいだの一闘争—として現われる」(Ⅰ② 405ペー
  ジ、Ⅱ② 399ページ)

 ・労働標準日をめぐる労働者階級の階級闘争は、剰余労働時間を短縮させる
  ことにより、剰余価値率(剰余労働/必要労働)を低下させようとする階
  級闘争である

 ・14世紀から18世紀半ば過ぎにいたるまでのイギリスの労働者規制法は、
  労働日を「強制的に延長しようとする」(Ⅰ② 473ページ、II② 466ペー
  ジ)ものだったが、1848年に、10時間労働法が制定され、以後労働日を
  短縮しようとする動きに変化した

 ・「標準労働日の確立は、資本家と労働者とのあいだの数世紀にわたる闘争
  の成果である」(Ⅰ② 473ページ、Ⅱ② 466ページ)

● 相対的剰余価値の生産

 ・労働日の限界が定められていても、一労働日における必要労働を減らし、
  剰余労働を増加する労働日の分割の変化により、資本家は相対的剰余価値
  を生産する

 ・すなわち、相対的剰余価値は、限られた労働日のうち、生産力の増大によ
  って必要労働時間を短縮することにより、その分だけ剰余労働時間を増や
  すことで、剰余価値率(剰余労働/必要労働)を高める

 ・必要労働時間の短縮は、労働者にとって必要な生活必需品を生産する諸産
  業において生産力が増大し、これらの諸商品が安くなり、労働力の価値も
  低下することによってえられる

 ・しかし、資本は漫然と生活必需品全体の生産力の増大を待っているのでは
  なく、自ら生産する商品の生産力を高めることで特別剰余価値を得ようと
  する

 ・「一商品の現実の価格は、その個別的価値ではなく、その社会的価値」(
  同、 Ⅱ③ 553〜554ページ)であり、新しい生産方法を開発した資本家
  は、その商品を個別的価値で生産しながら社会的価値で売ることにより、
  相対的剰余価値の一形態である「特別剰余価値」(同、Ⅱ③ 554ページ)
  を実現する

 ・資本主義的生産様式のもとでは、商品の社会的価値よりも安い個別的価値
  を取得するために、「競争の強制法則」(Ⅰ③ 560ページ、Ⅱ③ 552ペ
  ージ)が働き、「個々の資本家にとっては、労働の生産力を高めることに
  よって商品を安くしようとする動機が存在する」(Ⅰ③ 562ページ、
  Ⅱ③ 554ページ)

 ・「商品を安くするために、そして商品を安くすることによって労働者その
  ものを安くするために、労働の生産力を増大させることは、資本の内在的
  な衝動であり、不断の傾向である」(Ⅰ③ 565ページ、Ⅱ③ 557ページ)

 ・こうして労働日の限界のもとにあって、相対的剰余価値をふやすために、
  資本は、生産諸方法を発展させる

● 相対的剰余価値を高める生産諸方法の発展

① 協業

 ・協業とは、1つの生産現場で多数の労働者が計画的に協力しおこなう労働
  の形態

 ・「労働者は、他の労働者たちとの計画的協力のなかで、彼の個人的諸制限
  を脱して」(Ⅰ③ 582ページ、Ⅱ③ 573ページ)、社会的平均的労働力
  を発揮し、生産力を発展させる

 ・協業の発展は、必然的に作業場内での分業を生みだす

② マニュファクチュア

 ・「分業にもとづく協業は、マニュファクチュアにおいて、その典型的な姿
  態をつくり出す」(Ⅰ③ 593ページ、Ⅱ③ 585ページ)

 ・すなわち、労働者は分業により「一面的な部分労働者」( Ⅰ③ 598ペー
  ジ、Ⅱ③ 590ページ)となり、仕事に熟練し、時間も節約でき、道具も
  専門化されて、単純協業よりも生産性をいっそう高め、相対的剰余価値を
  増大した

③ 機械制大工業

 ・産業革命にもとづき、道具から機械に労働諸手段が発展することにより、
  「機械は、剰余価値の生産のための手段」(Ⅰ③ 652ページ、Ⅱ③ 643
  ページ)となって、機械制大工業を生みだした

 ・資本の担い手としての機械は、「労働日をあらゆる自然的制限を超えて延
  長」(Ⅰ③ 707ページ、Ⅱ③ 696ページ)し、絶対的剰余価値の生産の
  「もっとも強力な手段になる」(同、同)

 ・それと同時に標準労働日が制定されたその瞬間から、「資本は、全力でま
  た完全に意識して、機械体系の加速的発展による相対的剰余価値の生産に
  没頭した」(Ⅰ③ 719ページ、Ⅱ③ 708ページ)

 ・機械の利用は、労働の生産力の増大による相対的剰余価値のみならず、「
  同じ時間内での労働支出の増加、労働力の緊張の増大、……労働の凝縮」
  (同、同)という労働の強化による相対的剰余価値の増大をもたらした

 ・「マニュファクチュアと手工業では労働者が道具を自分に奉仕させるが、
  工場では労働者が機械に奉仕する」(Ⅰ③ 741ページ、Ⅱ③ 730ページ)

 ・工場は、「蓄積のための蓄積、生産のための生産」(Ⅰ④ 1036ページ、
  Ⅱ ④ 1021ページ)により、「緩和された徒刑場」( Ⅰ ③ 748ページ、
  Ⅱ ③ 737ページ)となる

 

3.資本主義的生産は
  「人間と自然との物質的代謝」を撹乱する

● 資本の「絶対的な致富衝動」は、「人間と自然との物質代謝」を撹乱する

 ・資本の「絶対的な致富衝動」は、すべての社会形態に等しく共通なもので
  あった「人間と自然との物質代謝」を、生産力の無制限な発展により撹乱
  する

 ・資本主義的生産は、「人間と土地とのあいだの物質代謝」(Ⅰ③ 881ペー
  ジ、Ⅱ ③ 868ページ)を、「したがって持続的な土地豊度の永久的自然
  条件を撹乱する」(同、同)

 ・「資本主義的農業のあらゆる進歩は、単に労働者から略奪する技術におけ
  る進歩であるだけでなく、同時に土地から略奪する技術における進歩」(
  同、同)でもある

 ・「それゆえ資本主義的生産は、すべての富の源泉すなわち土地および労働
  者を同時に破壊することによってのみ社会的生産過程の技術および結合を
  発展させる」(Ⅰ③ 881〜882ページ、Ⅱ③ 868〜869ページ)

● 全世界の人民は、資本に「強制」して人間と自然との物質代謝を「再
 建する」

 ・「しかしそれは同時に、あの物質代謝の単に自然発生的に生じた諸状態を
  破壊することを通じて、その物質代謝を、社会的生産の規制的法則として、
  また完全な人間の発展に適合した形態において、体系的に再建することを
  強制する」(Ⅰ③ 881ページ、Ⅱ③ 868ページ)

 ・すなわち資本主義的生産は、「人間と自然との物質代謝」を破壊するのに
  対し、全世界の人民は、物質代謝を「体系的に再建する」ことを資本に「
  強制する」

 ・というのも、「人間と自然との物質代謝」を破壊するにまかせていたので
  は、「社会的生産の規制的法則」としての持続可能な開発が不可能となり、
  また人間が人間として生きるための「完全な人間の発展」もありえないこ
  とになるから

 ・「資本は、社会によって強制されるのでなければ、労働者の健康と寿命に
  対し、なんらの顧慮も払わない」(Ⅰ② 471ページ、II② 464ページ)

 ・国連は、2030年を目標に「持続可能な開発目標」(SDGs)を掲げ、
  2030年までにCO2排出量を45%減らし、2050年までに実質ゼロにす
  る気候変動目標を提起している

 ・こうして資本主義的生産は、「人間と自然との物質代謝」を破壊しながら
  も、「社会によって強制」(同、同)されて、物質代謝を「体系的に再建
  する」ところに、付随的矛盾と称する理由がある

 ・資本主義の根本的矛盾は、資本主義の必然的没落を生みだすのに対し、付
  随的矛盾は、社会が資本に強制して資本主義の内部で解決されるが、社会
  はその力で資本主義の没落を生みだす