2021年1月16日 講義
第4講 独自の資本主義的生産様式
1.独自の資本主義的生産様式
● 『資本論』第1部第5篇
・第5篇は、「絶対的および相対的剰余価値の生産」と題されている
・しかし第3篇「絶対的剰余価値の生産」、第4篇「相対的剰余価値の生産」
で、2つの剰余価値は述べられているので、第5篇は、2つの剰余価値の
関係を含む「独自の資本主義的生産様式」を論じたものとみるべき
・資本は、労働力を購入することにより、労働を自分のものとするところか
ら、マルクスは資本主義の最初の段階を「労働の形式的包摂」、より発展
した段階を「労働の実質的包摂」とよんだ
・「労働の実質的包摂」の段階の資本主義は、「独自の資本主義的生産様式」
とよばれる
・第5篇は、資本主義の本質をふまえて、資本主義のより発展した「独自の
資本主義的生産様式」を明らかにしたもの
● 独自の資本主義的生産様式
・「資本主義的生産は商品の生産であるだけでなく、本質的には剰余価値の
生産である」(Ⅰ③ 886ページ、Ⅱ③ 872ページ)
・絶対的剰余価値の生産は、「資本主義制度の一般的基礎をなし、また相対
的剰余価値の出発点をなしている」(Ⅰ③ 888ページ、Ⅱ③ 873ページ)
・「絶対的剰余価値の生産では労働日の長さだけが問題である。相対的剰余
価値の生産は労働の技術的諸過程および社会的諸編成を徹底的に変革する」
(同、同)
・つまり相対的剰余価値の生産のためには、機械によって必要労働時間を短
縮するための徹底した技術革新と労働過程の再編成による搾取の強化が求
められる
・「したがって、相対的剰余価値の生産は、1つの独自の資本主義的生産様
式を想定するのであって」(同、Ⅱ③ 874ページ)、この生産様式のもと
では、資本のもとへの労働の形式的包摂に代わって、「資本のもとへの労
働の実質的包摂が現われる」(同、同)
・独自の資本主義的生産様式は、機械制大工業を前提としている
・「労働の形式的包摂」とは、資本家の取得する剰余価値がようやく労働者
の所得を上回る程度の労働者の支配
・「労働の実質的包摂」とは、機械を使った賃労働により、労働の処分能力
が資本に完全に支配されて、「労働の疎外」が生じていること
・労働の実質的包摂のもとで、独自の資本主義的生産様式は労働の標準的強
度と労働の生産力を可能な限度まで高めていく
・独自の資本主義的生産様式が、すべての決定的な生産諸部門を征服してし
まえば、「いまや、生産過程の一般的で社会的に支配的な形態となる」(
Ⅰ③ 890ページ、Ⅱ③ 875ページ)
● 労働の疎外とアソシエーション
・独自の資本主義的生産様式のもとでの労働の疎外に対立する未来社会は、
労働の疎外を生みだす賃労働を廃棄する人間解放である
・マルクスは、未来社会を、社会主義、共産主義というよりはるかに多く、
アソシ エーションとしてとらえている
・「階級と階級対立のうえに立つ旧ブルジョワ社会に代わって、各人の自由
な発展が万人の自由な発展の条件であるような1つの協同社会(高村ーア
ソシエーション)が現われる」(『共産党宣言』全集④ 496ページ)
・マルクスは、ルソーの主張する「各人がすべての人々と結びつきながら、
しかも自分自身にしか服従せず、以前と同じように自由である」(『社会
契約論』29ページ)「結合(高村ーアソシエーション)の一形式」(同)
という人民主権論に学んで、未来社会を自由な諸個人のアソシエーション
ととらえた
・未来社会において重要なのは、賃労働を廃棄して人間解放のアソシエーシ
ョンを実現することであり、「生産手段の社会化」とは、アソシエーショ
ンを実現するために生産手段をアソシエイトした生産者の共有とすること
・マルクスは、資本主義社会は胎内にアソシエーションを孕んでいるのであ
り、それが成長することをつうじて未来社会の「生みの苦しみを短くし、
やわらげることはできる」(Ⅰ① 14ページ、Ⅱ① 12ページ)としている
・「新しい、さらに高度の生産諸関係は、その物質的存在条件が古い社会の
胎内で孵化されてしまうまでは、けっして古いものにとって代わることは
ない」(『経済学批判序言』全集⑬ 7ページ)
・全世界の人民が、資本による物質代謝の破壊を「体系的に再建することを
強制する」(Ⅰ③ 881ページ、Ⅱ③ 868ページ)のも、資本主義胎内で
のアソシエーション孵化の一形態である
・『資本論』の今後の展開をつうじて、資本主義胎内でのアソシエーション
の孵化を学びとらなければならない
● 独自の資本主義的生産様式は、「人間と自然との物質代謝」を攪乱する
・独自の資本主義的生産様式は、搾取を強化して、後述するように資本主義
の根本的矛盾である貧富の格差を拡大するが、それだけにはとどまらず、
あらゆる社会形態から独立した「人間と自然との物質代謝」を撹乱すると
いう付随的矛盾を生みだす
・マルクスは、相対的剰余価値の生産のみならず、独自の資本主義的生産様
式においても物質代謝の破壊を論じている
・「労働の生産性はやはり自然的諸条件に結びつけられている」(Ⅰ③ 892
ページ、Ⅱ③ 877ページ)
・資本主義的生産様式は、「自然に対する人間の支配を前提」(Ⅰ③ 894
ページ、Ⅱ③ 879ページ)としており、自然力を「人間の手になる工事
によって大規模にまず自分のものにする」(同、同)
・自然的富は、「非常に貴重であり、有利なので、それは、人民を軽率にし、
尊大にさせ、そしてまったく放縦にさせてしまう」(Ⅰ③ 895ページ 注
4、Ⅱ③ 880ページ 注4)
・独自の資本主義的生産様式は、「労働の実質的包摂」のもとに、労働の生
産力を無制限に発展させようとして、「人間と自然との物質代謝」を撹乱
する
・資本主義的生産は、18世紀後半19世紀はじめにかけての産業革命以来、
独自の資本主義的生産様式を発展させ、一方で化石燃料をエネルギー源と
して生産力を発展させながら自然を破壊し、他方で労働者を過労死にまで
追いこんでしまった
・その結果「人と自然との物質代謝」は撹乱し、人間と自然との間合いが詰
まって、コロナショックを引き起こし、さらにはCO2排出による気候変
動問題という人類滅亡の危機を生みだしている
・「人間と自然との物質代謝」の撹乱は、気候変動により人間が人間として
生存するための不可欠の条件を破壊するものとして、資本主義の付随的矛
盾となっており、社会は資本に対して物資代謝を「体系的に再建すること
を強制」(Ⅰ③ 881ページ、Ⅱ④ 868ページ)しアソシエーションを孵
化させようとしている
2.労賃
●『資本論』第1部第6篇「労賃」
・労賃において重要なのは、本質が現象において転倒しているということ
・すなわち労賃の最大の問題は、労賃は「労働力の価値」を本質としている
にもかかわらず、「労働の価値」として現象し、搾取を隠蔽しているとこ
ろにある
・時間賃金も出来高賃金も、労賃を「労働の価値」としてとらえるもの
● 労賃の本質と現象
・「ブルジョア社会の表面では、労働者の賃金は、労働の価格、すなわち一
定分量の労働にたいして支払われる一定分量の貨幣として現われる」(
Ⅰ③ 929ページ、Ⅱ④ 915ページ)
・資本家が購入するのは、労働者がもっている労働能力、つまり労働力であ
るにもかかわらず、「労働力の価値」としての労賃は「労働の価値」にさ
れてしまっている
・つまり労賃は、資本主義のもとで「労働力の価値」であるという労賃の本
質を、「労働の価値」という現象に転倒してしまっている
・「現象においては事物がしばしばさかさまに表わされるということは、経
済学以外のすべての科学ではかなり知られている」(Ⅰ③ 933ページ、
Ⅱ④ 919ページ)
● なぜ労賃は「労働の価値」という転倒した現象形態をとるのか
・「労働者は、労働を提供したあとに支払いを受ける」(Ⅰ③ 939ページ、
Ⅱ④ 925ページ)ため、支払われる労賃があたかも「労働の対価」のよ
うにみえる
・また「資本家が実際に関心をもつのは、労働力の価格と労働力の機能がつ
くり出す価値とのあいだの差だけ」(Ⅰ③ 941ページ、Ⅱ③ 927ページ)
であることから、労賃の形態も、「労働力の機能すなわち労働そのものの
価値」(同、同)であるような「時間賃金」と「出来高賃金」の形態をと
る
・「時間賃金」とは、労働時間の長さに応じて支払われる賃金であり、「出
来高賃金」とは、労働時間の長さの転化形態である労働時間中の仕事量に
応じて支払われる賃金
・さらに資本家が労賃を「労働の価値」としてとらえることは、搾取を隠蔽
するうえで、決定的重要性をもっている
● 労賃は搾取を隠蔽する
・労賃は、「労働力の価値」を「労働の価値」に置きかえることにより、搾
取を隠蔽する
・すなわち、「労賃の形態は、必要労働と剰余労働とへの、支払労働と不払
労働とへの労働日の分割のあらゆる痕跡を消してしまう。すべての労働が
支払労働として現われる」(Ⅰ③ 937〜938ページ、Ⅱ④ 923ページ)
・封建制社会の「夫役労働では、夫役者による自分自身のための労働と彼に
よる領主のための強制労働とは、空間的にも、時間的にも、はっきり感覚
的に 区別される」(Ⅰ③ 938ページ、Ⅱ④ 923〜924ページ)
・奴隷制社会の「奴隷労働では、労働日のうち、奴隷が自分自身の生活手段
の価値を補填するにすぎない部分、したがって、彼が実際に自分自身のた
めに労働する部分さえも、彼の主人のための労働として現われる。彼のす
べての労働が不払労働として現われる」(同、Ⅱ④ 924ページ)
・これに対し、資本主義社会では、「剰余労働または不払労働さえも支払労
働として現われる。奴隷の場合には所有関係が、奴隷の自分自身のための
労働を隠蔽し、賃労働の場合には貨幣関係が、賃労働者の無償労働を隠蔽
する」(同、同)
・「貨幣関係」とは、労賃が後払いとなっていること
・「現実の関係を見えなくさせ、まさにその正反対のことを示すこの現象形
態」(同、同)は、「労働力の価値および価格を労賃の形態に—または労
働そのものの価値および価格に—転化することの決定的重要性」(同、同)
を示すもの ということができる
・労賃の現象形態は、「俗流経済学のあらゆる弁護論的たわごとの、基礎を
なしている」(Ⅰ③ 939ページ、Ⅱ④ 924ページ)
● 時間賃金
・時間賃金は、「たとえば労働力の日価値が3シリング、すなわち6労働時
間の価値生産物であり、労働日が12時間であるとすれば、1労働時間の
価格は、3シリング/12=3ペンス」(Ⅰ③ 944ページ、Ⅱ④ 930ペ
ージ)とすることによって、「労働の価格」に転化する
・時間賃金の場合、「資本家は、『労働の標準価格』を支払うという口実の
もとに、労働日を、労働者にそれに対応したなんらかの補償をも与えずに、
異常に延長することができる」(Ⅰ③ 948ページ、Ⅱ④ 934ページ)
・「いわゆる標準時間内での労働の価格が低いために、一般に十分な労賃を
かせごうと思うならば、労働者はより多く支払われる超過時間の労働を余
儀なくされる」(Ⅰ③ 949ページ、Ⅱ④ 935ページ)
・つまり労働者は時間内の労働の価格が安いために、残業を求める
・「しかし、その逆に、労働時間の延長そのものがまた、労働価格の低下、
したがって日賃金、週賃金の低下を生み出す」(Ⅰ③ 952ページ、Ⅱ④
938ページ)
● 出来高賃金
・「出来高賃金は時間賃金の転化形態にほかならない」(Ⅰ③ 957ページ、
Ⅱ④ 943ページ)
・出来高賃金では、「労働は、一定の持続時間中の労働がそのなかに凝縮さ
れる生産物の分量によってはかられる」(Ⅰ③ 960ページ、Ⅱ④ 946ペ
ージ)
・「労働時間そのものの価格は、結局は、日労働の価値=労働力の日価値と
いう等式によって規定され」(同、同)、「したがって、出来高賃金は、
時間賃金の変化された形態にすぎない」(同、同)
・「出来高価格が完全に支払われるためには、その製品は、平均的な品質を
もっていなければならない」(同、同)のであって、この側面から見れば、
出来高賃金は「賃金減額および資本主義的ごまかしのきわめて実り豊かな
源泉となる」(同、Ⅱ④ 946〜947ページ)
・「以上の叙述から、出来高賃金は、資本主義的生産様式にもっともそった
労賃形態であることが明らかになる」(Ⅰ③ 966〜967ページ、Ⅱ④
952〜953ページ)
・現代の出来高賃金は、1990年代以降の成果主義賃金である
● 労賃の国民的相違
・「労働力の価値は、労働力の所有者の維持に必要な生活諸手段の価値」(
Ⅰ② 298ページ、Ⅱ② 292ページ)であり、「一定の国、一定の時代に
ついては、必要生活諸手段の平均範囲は与えられている」(同、同)
・「一国で資本主義的生産がどの程度発展しているかに応じて、その国では、
労働の国民的な強度および生産性も同程度に国際的水準よりも高められる」
(Ⅰ③ 973〜974ページ、Ⅱ④ 959〜960ページ)
・したがって、「同じ労働時間内に生産される同種の商品のさまざまな分量」
(Ⅰ③ 974ページ、Ⅱ④ 960ページ)は不等な国際的価値をもち、「国
際的価値に応じてそれぞれ異なる貨幣額で表現される」(同、同)
・「資本主義的生産様式が支配している諸社会の富は、『商品の巨大な集ま
り』として現われ」(Ⅰ① 65ページ、Ⅱ① 59ページ)るのであり、生
産力の増大している国では、商品生産の増大により商品総量に含まれる交
換価値そのものが増大している
・したがって生産力の発展している国における諸商品の価値の総量は、そう
でない国のそれより大きく、また労働者の生活に必要な諸手段の価値の総
量も そうでない国のそれよりも大きい
・そのため「名目的賃金、すなわち貨幣で表現された労働力の等価物も、や
はり、第1の国民〔資本主義的生産様式のより発展した国民〕のもとでの
ほうが、第2の国民のもとでよりも、高いであろう」(Ⅰ③ 974ページ、
Ⅱ③ 960ページ)
・日本の資本家階級は、新自由主義のもとで、日本よりも安い労働力を求め
てアジア諸国に進出し、国内での生産力を低下させて資本の過多におちい
ってしまった。
● 三位一体的定式と労賃
・マルクスは、『資本論』第3部第48章を「三位一体的定式」と題して、
俗流経済学の土地が地代を生み、資本が利子を生み、労働が労賃を生むと
の考えを、「事物の現象形態と本質とが直接に一致するなら、あらゆる科
学は余計なもの」(Ⅰ⑫ 1487ページ、Ⅱ⑬ 1430ページ)になると批判
している
・すなわち彼らは、資本が労働力を購入して取得した剰余価値が利子や地代
に分割されることを忘れ、土地、資本、労働が3つの収入の源泉となって、
地代、利子、労賃という3つの収入を生み出すと考えた
・この考えは、現代にも生きており、資本家は「付加価値のうちの一部分だ
けが労働によって生み出された価値、つまり労働の価値に見合う分であっ
て、それ以外の部分は労働以外のもの、つまり資本(生産手段または貨幣)
と土地によって生み出された価値」(大谷『図解社会経済学』190ページ)
だと主張する
・この剰余価値を否定する「労働—労賃」という、労賃を「労働の価値」と
する俗論は、「いっさいの資本主義弁護論の主柱となっている」(同) |