2021年2月20日 講義

 

 

第5講 資本の蓄積

 

[はじめに]

 ・『資本論』第1部第7篇は「資本の蓄積過程」である

 ・資本は剰余価値の拡大を求めて、「蓄積のための蓄積、生産のための生産」
  (Ⅰ④ 1036ページ、Ⅱ④ 1021ページ)に突っ走ることになる

 ・しかし資本主義の必然的没落を学ぶには、資本の蓄積という資本主義の本
  質がどんな矛盾を生みだすのかが明らかにされねばならない

 ・そこで第7篇では、資本の蓄積のなかで資本主義の根本的矛盾の生まれる
  ことが明らかにされ、その矛盾の解決として、資本主義の「必然的没落」
  と、アソシエーションの実現が論じられる

 

1.資本の蓄積

● 資本の蓄積とは剰余価値の資本への再転化

 ・資本の蓄積は、資本の「再生産過程」(Ⅰ④ 984ページ、Ⅱ④ 970ペー
  ジ)において生じる

 ・単純再生産は、同じ規模での生産過程の単なる繰りかえしとはいえ、「こ
  の過程にいくつかの新しい性格を刻印する」(Ⅰ④ 986ページ、Ⅱ④ 972
  ページ)

 ・資本家はいつかあるとき、他人の不払い労働によらない貨幣所有者として
  市場に登場したようにみえるが、「一定の年数が経過したのちには、彼が
  所有する資本価値は同じ年数のあいだに等価なしで取得した剰余価値の総
  額に等しく」(Ⅰ④ 990ページ、Ⅱ④ 976ページ)なり、すべての資本を
  「資本化された剰余価値に必然的に転化させる」(Ⅰ④ 991ページ、Ⅱ④
  977ページ)ことになる

 ・他方で労働者は、生産過程に「はいったままの姿」( Ⅰ ④ 992ページ、Ⅱ
  ④ 978ページ)である賃労働者として不断に再生産されるのであり、それ
  が「資本主義的生産の"不可欠の条件"」(同、同)となる

 ・つまり、資本主義的な再生産過程は、「剰余価値だけを生産するのではな
  く、資本関係そのものを、一方には資本家を、他方には賃労働者を生産し、
  再生産する」( Ⅰ ④ 1006ページ、Ⅱ ④ 992ページ)

 ・しかし資本は、単純再生産によって、資本関係そのものを再生産するのみ
  ならず、拡大再生産によってより多くの剰余価値の生産をめざす

 ・拡大再生産とは、「剰余価値を資本に再転化」(Ⅰ④ 1007ページ、Ⅱ④
  993ページ)することであり、それが「資本の蓄積と呼ばれる」(同、同)

 ・「1万ポンドの最初の資本は2000ポンドの剰余価値を生み、それが資本化
  される。2000ポンドの新資本は400ポンドの剰余価値を生(む)」(Ⅰ④
  1011ページ、 Ⅱ④ 997ページ)

 ・剰余価値は資本に再転化されることにより、剰余価値が剰余価値を生む

 ・価値が価値を生むことを繰り返すことにより、資本は限りなく増殖してゆ
  く

 ・したがって、「資本家は、すでにより多く蓄積していればいるほど、ます
  ます多く蓄積することができる」(Ⅰ④ 1013ページ、Ⅱ④ 999ページ)

● 資本の蓄積によって、商品生産の所有法則は資本主義的取得の法則に
 転換する

 ・資本家と労働者とは、同じ価値をもった商品同士の等価交換という「商品
  生産の所有諸法則」にしたがって労働力を売買した

 ・しかし、いまや「商品生産の所有諸法則」は、労働者の側には何も残さず、
  資本の側にのみ資本の限りない増殖という「資本主義的取得の諸法則」(
  Ⅰ④ 1021ページ、Ⅱ④ 1006ページ)に転換してしまった

 ・このマルクスの言葉を使って、エンゲルスは『空想から科学へ』で資本主
  義の根本的矛盾を「社会的生産と資本主義的取得」(全集⑲ 210ページ)
  の矛盾としてとらえた

 ・資本家は叫ぶ。剰余価値の「できる限り大きな部分を資本に再転化せよ!
  蓄積のための蓄積、生産のための生産」(Ⅰ④ 1036ページ、Ⅱ④ 1021
  ページ)を、と

 

2.資本の蓄積は、資本主義の根本的矛盾を生みだす

● 資本の蓄積は資本の有機的構成を高める

 ・第7篇第23章「資本主義的蓄積の一般的法則」では、「資本の増大が労
  働者階級の運命におよぼす影響を取り扱う」(Ⅰ④ 1068ページ、Ⅱ④
  1053ページ)

 ・「この研究におけるもっとも重要な要因は、資本の構成と、蓄積過程の進
  行中 にそれがこうむる諸変化とである」(同、同)

 ・資本の構成には二重の意味がある

 ・1つは、価値の面からみた資本の価値構成であり、不変資本(生産手段の
  価値)と可変資本(労働力の価値)との比率である

 ・もう1つは、素材の面からみた資本の技術的構成であり、「一方の使用さ
  れる 生産手段の総量と、他方のその使用に必要な労働量との、比率」(Ⅰ
  ④ 1069ページ、同)である

 ・マルクスは、資本の「技術的構成の変化を(自己のうちに)反映する限り
  での資本の価値構成を、資本の有機的構成と名づける」(同、同)

 ・「簡単に資本の構成と言う場合には、つねに資本の有機的構成と解すべき」
  (同、同)

 ・資本の蓄積と独自の資本主義的生産様式は、相互に影響しあいながら、「
  資本の技術的構成における変動を生みだし、この変動によって、可変的構
  成部分が不変的構成部分に比べてますます小さく」(Ⅰ④ 1091ページ、
  Ⅱ ④ 1075ページ)なり、資本の有機的構成を高めていく

● 資本の有機的構成の高度化は、労働者人口と産業予備軍を増大する

 ・資本の有機的構成の高度化により、「確かに総資本の増大につれて、その
  可変的構成部分、またはこの総資本に合体される労働力も増加するが、し
  かし、それは絶えず減少する比率で増加する」( Ⅰ ④ 1099ページ、Ⅱ ④
  1083ページ)ため、総資本は一方で労働者を引き寄せながら、他方で労働
  者を突き放す

 ・したがって、資本の有機的構成の高度化は、資本の蓄積にともなう労働者
  人口を絶えず過剰化することになり、「これこそが、資本主義的生産様式
  に固有な人口法則」(Ⅰ④ 1101ページ、Ⅱ④ 1084ページ)となる

 ・この過剰労働者人口は、「あたかも資本が自分自身の費用によって飼育で
  もしたかのようにまったく絶対的に資本に所属する、自由に処分できる産
  業予備軍を形成する」(Ⅰ④ 1103〜1104ページ、Ⅱ④ 1087ページ)

● 資本主義的蓄積の一般的法則

 ・「機能資本の増大の範囲とエネルギー、したがってまたプロレタリアート
  の絶対的大きさおよび彼らの労働の生産力、これらが大きくなればなるほ
  ど、それだけ産業予備軍も大きくなる」(Ⅰ④ 1124ページ、Ⅱ④ 1106
  ページ)

 ・「これこそが資本主義的蓄積の絶対的・一般的な法則である」(同、Ⅱ④
  1107ページ)

● 資本主義の根本的矛盾

 ・「相対的過剰人口または産業予備軍を蓄積の範囲とエネルギーとに絶えず
  均衡させる法則」(Ⅰ④ 1126ページ、Ⅱ④ 1108ページ)は、「資本の
  蓄積に照応する貧困の蓄積を条件づける。したがって、一方の極における
  富の蓄積は、同時に、その対極における、すなわち自分自身の生産物を資
  本として生産する階級の側における、貧困、労働苦、奴隷状態、無知、野
  蛮化、および道徳的堕落の蓄積である」(同、同)

 ・「資本主義的蓄積のこの敵対的性格」(Ⅰ④ 1127ページ、Ⅱ④ 1109ペ
  ージ)である貧富の格差拡大こそが、資本主義の根本的矛盾となる

 ・『資本論』は、資本主義の本質を解明し、資本主義のあらゆる諸現象を取
  り扱っているが、あらゆる諸現象の根底には、貧富の格差拡大という資本
  主義の根本的矛盾が位置している

 ・例えば、第2部で論じる「あらゆる矛盾の総合的な爆発」としての恐慌に
  は、「恐慌の究極的な根拠」(Ⅰ⑩ 857ページ、Ⅱ⑪ 835ページ)とし
  て大衆の貧困と資本主義的生産の衝動との対立があると指摘されているが、
  それは資本主義の根本的矛盾を反映したものにほかならない

 ・また第3部で論じる利潤率の傾向的低下の法則は、カジノ資本主義を生み
  だしているが、それも資本主義の根本的矛盾によって産業資本の蓄積が停
  滞し、金融収益に走るという資本主義的生産の行き詰まりの現れである

 ・さらにカジノ資本主義は、貧富の格差を一段と飛躍的に拡大しているが、
  その背景には産業資本のつくりだした貧富の格差拡大という経済的構造が
  ある

 ・こうして資本主義の根本的矛盾によって、資本主義の「必然的没落」が明
  らかにされる

 

3.本源的蓄積(第7篇第24章)

● 資本と労働力は同時に生み出されなければならない

 ・第7篇第24章の「いわゆる本源的蓄積」では、資本主義的生産様式とし
  ての原点である資本と労働力とがどのように歴史的に形成されてきたのか
  を問題とする

 ・商品の資本への転化には、一方で必要な貨幣と生産手段の所有者、他方で
  自由な労働者という、「2種類の非常に違った商品所有者が向かい合い接
  触しなければならない」(Ⅰ④ 1245ページ、Ⅱ④ 1223ページ)

 ・「したがって、資本関係をつくり出す過程は、労働者を自分の労働諸条件
  の所有から分離する過程、すなわち一方では社会の生活手段および生産手
  段を資本に転化し、他方では直接生産者を賃労働者に転化する過程以外の
  なにものでもありえない」(Ⅰ④ 1246ページ、Ⅱ④ 1224ページ)

 ・「いわゆる本源的蓄積は、生産者と生産手段との歴史的分離過程」(同、
  同)による、資本家と労働者の同時誕生を意味している

● 封建制社会の解体による資本家と労働者の誕生

 ・16世紀から始まる資本主義は、羊毛価格の騰貴と羊毛マニュファクチュ
  アの繁栄により、「農村の生産者である農民からの土地収奪」(Ⅰ④ 1248
  ページ、Ⅱ④ 1226ページ)から始まるが、この「収奪の歴史は、血と火の
  文字で人類の年代記に書き込まれている」(Ⅰ④ 1247ページ、Ⅱ④ 1225
  ページ)

 ・借地農場経営者は、牧用地の"囲い込み"による農民からの土地の収奪と、
  「いわゆる"地所の清掃"(実際は地所からの人間の掃き捨て)」(Ⅰ④
  1272ページ、Ⅱ④ 1248ページ)によって、生産手段としての土地を独
  占して羊毛マニュファクチュアを拡大し、資本家に成長する

 ・農地を収奪された農民は「大量に物乞いや盗賊や浮浪人」(Ⅰ④ 1282ペ
  ージ、Ⅱ④ 1258ページ)に転化したが、彼らを労働者に仕立てあげるた
  めには「浮浪罪にたいする流血の立法」(同、同)が必要となった

 ・暴力的に土地を収奪され、浮浪人にされた農村民は「グロテスクで凶暴な
  法律によって、鞭打たれ、烙印を押され、拷問されて、賃労働制度に必要
  な訓練をほどこされた」(Ⅰ④ 1287ページ、Ⅱ④ 1262ページ)

 ・こうして「資本は、頭から爪先まで、あらゆる毛穴から、血と汚物とをし
  たたらせながらこの世に生まれてくる」(Ⅰ④ 1327ページ、Ⅱ④ 1301
  ページ)

 

4.資本主義的蓄積の歴史的傾向
  (第7篇第24章第7節)

● 資本主義的蓄積のもとでの根本的矛盾の展開

 ・資本の本源的蓄積とは、「直接的生産者の収奪、すなわち自分の労働にも
  とづく私的所有の解消を意味するにすぎない」(Ⅰ④ 1329ページ、Ⅱ④
  1303ページ)

 ・いわゆる労働と所有との分離である

 ・自分の生産手段の「私的所有は、他人の、しかし形式的には自由な労働の
  搾取にもとづく資本主義的私的所有によって駆逐される」(Ⅰ④ 1330ペ
  ージ、Ⅱ④ 11304〜1305ページ)

 ・資本主義的生産様式が自分の足で立つようになれば、「いまや収奪される
  べきものは、もはや自営的労働者では、多くの労働者を搾取する資本家で
  ある」(Ⅰ④ 1331ページ、Ⅱ④ 1305ページ)

 ・諸資本の集中による、少数の資本家による多数の資本家の収奪によって、
  「大資本家の数が絶えず減少していくにつれて、貧困、抑圧、隷属、堕落、
  搾取の総量は増大する」(Ⅰ④ 1332ページ、Ⅱ④ 1306ページ)

 ・「しかしまた、絶えず膨張するところの、資本主義的生産過程そのものの
  機構によって訓練され結合され組織される労働者階級の反抗もまた増大す
  る」(同、同)

● 資本主義の「必然的没落」によるアソシエーションの実現

 ・「資本独占は、それとともにまたそれのもとで開花したこの生産様式の桎
  梏となる」(同、同)

 ・「生産手段の集中と労働の社会化とは、それらの資本主義的な外皮とは調
  和しえなくなる一点に到達する」(同、同)

 ・「生産手段の集中と労働の社会化」は、生産手段の資本主義的私的所有で
  はなく、生産手段の共同占有を求めている

 ・「この外皮は粉砕される。資本主義的私的所有の弔鐘が鳴る。収奪者が収
  奪される」(同、同)

 ・「資本主義的な私的所有は、自分の労働にもとづく個人的な私的所有の最
  初の否定である」(同、同)

 ・「しかし、資本主義的生産は、自然過程の必然性をもってそれ自身の否定
  を生みだす。これは否定の否定である」(同、同)

 ・この否定の否定は、「資本主義時代の成果—すなわち、協業と、土地の共
  同占有ならびに労働そのものによって生産された生産手段の共同占有—を
  基礎とする個人的所有を再建する」(同、同)、すなわちアソシエーション
  を実現する

 ・アソシエーションとは、共通の目的のために、自由な労働する諸個人が自
  覚的に結びつき、協同して社会的に生産することにより、再び労働と所有
  を結合し、統一すること

 ・「生産手段の共同占有を基礎とする個人的所有の再建」とは、アソシエイ
  トした労働する諸個人は共同して社会的となった生産手段を使用しながら
  も、生産手段の所有の主体はアソシエーションではなく、アソシエイトし
  た社会的な個人とすることによって、「労働する諸個人と労働諸条件との
  結合」を回復するということ

 ・これが資本主義的蓄積の根本的矛盾から生じた資本主義の歴史的傾向であ
  り、資本主義の根本的矛盾により、「肯定的理解のうちに、同時にまた必
  然的没落」(Ⅰ① 33ページ、Ⅱ① 29ページ)によるアソシエーションの
  実現という大筋を弁証法的に示したものである