『ものの見方・考え方』より
序
本書は、全国商工団体連合会(全商連)の機関紙『月刊民商』に、二〇〇七年一月から二〇〇八年一二月まで二年間「中小業者のものの見方・考え方」のタイトルで連載した「哲学ゼミ」の内容を編集委員会での討論をふまえて訂正、加筆、整理したものです。二十四回のうち座談会が一回中間に挟まれました(二〇〇七年一二月)ので、それも収録しておきました。
全商連・民商の会員が読者であったところから、本書は現代社会における中小業者の位置づけからみた民商の意義と役割を科学的社会主義の見地からできるだけ体系的に論じようとしたものです。
新自由主義のもとで、中小業者のおかれている状況はかつてなく厳しいものとなっており、それだけに中小業者の営業と生活、権利を守る民商の役割は重要となっています。本書では、民商をいかに組織するかという組織論を生き方論とも関連させて哲学的に解明しようとの試みもなされています。そこにはすべての組織にかかわる原理的問題も含まれていますので、民商のみならず、労働組合、民主団体などの組織化の一助になればと思います。
* * *
もともと「中小業者のものの見方・考え方」というテーマの性格からして、本書はものの見方・考え方一般にかかわる箇所が大半を占めていますので、科学的社会主義の哲学の入門書的な性格をもつことになりました。しかし、けっして教科書的なものではなく、著者なりの問題意識を一定反映したものとなっています。例えば、人間の本質論、人間疎外と人間解放論、自由の三段階論、価値論、生きがい論と生き方論などが、それにあたります。そこで本書の表題を「ものの見方・考え方── 経済の主人公・中小業者の生きがい論」としました。
科学的社会主義の学説は「全一的な世界観であり、人間、自然、社会という世界のすべてに関」(レーニン)する真理探究の理論です。そのなかにあって人間に関する部門の探究がもっとも遅れた部分になっているのではないでしょうか。
ルソーの『人間不平等起原論』の序文は「人間のすべての知識のなかでもっとも有用でありながらもっとも、進んでいないものは、人間に関する知識であるように私には思われる」との文章から始まっていますが、この言葉は現代においてもけっして古くなっていません。
マルクスも若いときには「ミル評注」や「経済学・哲学手稿」において人間論の探究をしながらも、経済学、の研究に没頭するようになってからは、もはやそこに立ち戻る時間的余裕は与えられませんでした。
本書における著者の問題提起は、この人間論に一石を投じようというものであり、それだけに議論の対象にもなるところだと思われます。さまざまのご批判をつうじて、科学的社会主義の人間論の発展に少しでも寄与できれば幸甚(こうじん)に思います。
* * *
最後に、今回の機会を与えていただき、連載中もさまざまな助言とご協力をいただいた「月刊民商」編集部のみなさんと、いつものように非力な著者を支えていただいた広島県労働者学習協議会・編集委員会のみなさんに、心よりのお礼を申しあげる次第です。また今回は県労学協の会員でもある長崎商連の塚崎信隆さんにも編集委員に加わっていただき「あとがきにかえて」の執筆をお願いしました。この場を借りて謝意を表明するもの、です。
なお装丁は、広島の若きイラストレーター、岡田史織さんにお願いし、素敵なものができあがりました。
二〇〇八年 十二月
著 者
|