『ヘーゲル「精神現象学」に学ぶ』より
あとがきにかえて
広島県労働者学習協議会(県労学協)や高村是懿講師との出会いは二〇〇七年六月の「『反デューリン論』に学ぶ」の開講時ですから、約八年前になります。北海道旭川市という地理的関係からCD受講を続けており、昨年から県労学協編の著作の編集にも関わらせてもらっています。その他、二年前より講師、県労学協、一粒の麦社の同意を頂き、竹森鈴子編集委員と共同で「Facebookページ〜高村是懿(たかむらよしあつ)哲学講座」を公開しているのに加え、今年より札幌のグラフィック・デザイナー鶴見裕子さんの協力を得て、ホームページ「高村是懿哲学講座」で著作、レジュメ、録音も含めて過去の全講座の再現を試みて現在準備中です(一部公開済)。
全国の学習協活動をみても、資本論の学習は徐々に前進していますが、もうひとつの柱である哲学をヘーゲル、ルソーまで立ち返って本格的に学習している学習協運動は広島県以外にはありません。あわせて講座資料がしっかりしており、講座後に集団討議を経て出版活動に結びつけています。このことが、ネットを通じての全国発信を思い立った理由です。
この度の『精神現象学を学ぶ』は、前回の『科学的社会主義の哲学史』に続き、県労学協活動の使命と情熱のもと、パイオニア・スピリットを糧に、豊富で貴重な内容を十五講でまとめあげたというのが最初の率直な感想です。
原著の構成は「個体発生は系統発生を繰り返す」というヘッケルの「反復説」とあとづけられる方法で個人の意識の発展と人類の歴史的真理認識の発展という二部構成での展開になっています。原著の解説の後、コラム記事で、前者は脳科学の最新の成果に依拠して検証・記述し、後者ではヘーゲル後の史的唯物論の成果からヘーゲル当時の歴史認識を検証するという形になっています。総じて「理性は全実在であるとする意識の確信」(『現象学』一四二ページ)という理性の変革の立場を表わす記述が重要で、含蓄のある命題です。
個人の真理認識の弁証法的発展では、人類特有の「自己意識」が認識の源で、自分を客観化することにより真にある姿と真にあるべき姿が明確にされ、個人としての、また人類のあるべき姿が描写されています。哲学を通じヘーゲルが二百年以上前に解明したことを現代脳科学が遅ればせながら証明しており、ヘーゲルを学ぶ私たちの大きな確信になります。講座終了直前に出版された、私の知人でもある伊古田俊夫著『社会脳からみた認知症』という本を、早速本書で紹介されている高村さんの探究心には脱帽です。二一世紀は脳とか精神の機能解明の世紀と言われてきましたが、哲学の側から一石を投じる講座になったと自負しています。
人類の歴史的な真理認識の発展でも、時代的制約の中で階級社会が生み出す疎外を人類の類本質(自由な意識と共同社会性、価値意識)との対比で解明し、ヘーゲル自身の後年の著作へと引き継がれます。コラム記事では、マルクス・エンゲルスとその後の科学的社会主義の著作へのあくなき研究心をみる事ができます。とりわけ道徳論・宗教論は自由・民主主義論と合わせ、レーニンの「三つの構成部分」からはみ出す部分に思われがちですが、「現象学」の記載をふまえての、階級的立場と人類的立場の統一から発展をめざす高村さんの問題提起は重要です。
真理には事実の真理と当為の真理があり、変革の立場から生じる当為の真理を明確にするだけで、個人や人類に対する絶対の信頼感、安心感を得ることができます。安倍政権の二枚舌的攻撃にも、「教養」をつむこと、科学的社会主義を学ぶことで、あるべき姿を明確にすることにより必ず現状は発展、前進します。『精神現象学』が伝えてくれる個人と歴史の真理を確信に「一人はみんなのために、みんなは一人のために」の理論と実践力を磨き、明日の社会づくりに奮闘しましょう。
最後に編集委員に加えていただき、広島での会議に参加して、県労学協の「集団力」「会議力」を実感できたことに感謝いたします。
二〇一五年 七月
編集委員会を代表して
渡辺 良忠
● 編集委員(アイウエオ順)
奥田文子・権藤郁男・竹森鈴子・中井勝治・山根岩雄・吉崎明夫・渡辺良忠
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