『ヘーゲル「小論理学」を読む(下) 』より
あとがきにかえて
本書のなりたちについては「はじめに」でも触れられているように、一九九六年一二月から開講した第二期、「ヘーゲル小論理学ゼミナール」(広島県労働者学習協議会主催)での講義が本書のもとになっています。その前期二〇講がおわり、後期第一講の講義終了後、受講生の幾人かで「講義内容をより理解するために、テープをおこし、講義録をつくろう」ということになったのです。毎回四~五人が二〇~三〇分ずつ分担してテープを反訳し、次の講義のときに受講生に配布しました。
講義録は受講生に好評で、この講義録が増えていくにつれ、これをまとめてもっと多くの人に読んでもらいたいという思いが私たちのなかに募ってきました。問題は、前期二〇講をどうするか。テープはあるものの、だれがどうやって起こすのか。その膨大な量に私たちは、しばしたじろいだのです。しかし、私たちの前に山本一人さんがあらわれ、この講義録を刊行すべきだと強く主張し、自らこの二〇講分の反訳をかってでたのです。出版の気運はにわかに現実味をおびました。山本さんの起こした原稿は手書きでしたので、ワープロに入力する必要がありましたが、広島県労働者学習協議会機関誌「一粒の麦」で「ワープロうちボランティア」をよびかけたところ、複数の方から申し出があり、この作業も順調にすすみました。
こうしてできた原稿を、高村さんと私たち編集委員会が集団的に検討し、本書ができあがりました。ですから、この『ヘーゲル「小論理学」を読む』は、高村是懿さんの労作であるとともに、広島県労学協の集団的な成果であるのです。
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二十一世紀まであとわずかです。たんに世紀の変わり目であるばかりでなく、ルールなき資本主義をあらため、国民が主人公となる日本をつくる転換点に私たちは立っています。国民いじめの政治・経済がすすみ、社会のゆがみが深刻になる一方、国政や地方政治での日本共産党の連続的前進、革新民主の自治体の広がりなど政治革新の新しい変化が起きています。全労連を中心とする労働組合運動の「対話と共同」も広がり、労基法問題やガイドラインなどで従来のナショナルセンターの枠組みをこえた共闘も始まっています。
変革の時代は学習の時代です。しかも、たんに従来の理論が普及されるということにとどまらず、理論的深化、発展がともなっています。理論の深化と発展は、過去の知的遺産ををおろそかにすることなく、十分にわがものにしてこそなしうるものです。この『ヘーゲル「小論理学」を読む』も、そういう観点からヘーゲルの再把握、再認識を通じて、科学的社会主義の理論を深化・発展させようとする試みなのです。本書を通じて、一人でも多くの方がヘーゲルと格闘し、科学的社会主義の理論、とりわけ弁証法を深く身につける一助となればと思います。
私たちは、本書には三つの特徴があると考えています。ひとつは、なによりも労働者・国民のために書かれたということです。本書のもとになる講義は実際に労働者・市民に向かって語られました『小論理学』というきわめて難解な書物を読み解き、ときには現代の問題にも触れながら、ヘーゲルのいわんとすることを的確にえぐりだしています。私たちは、講義を聞きながら、あるいは原稿を整理しながら「目からうろこが落ちる」思いを何度もしました。本書を読んでくださるみなさんもきっと同じ思いをいだかれると思います。
第二に、本書は『小論理学』を逐条的に解説しており、読者は、本書を手引きとしてヘーゲル論理学の全体を自分の力で読み解くことができるようになっています。ヘーゲル『小論理学』の概括的な解説や部分的な解説はあっても、全体にわたる逐条的な解釈、解説書は従来なかったものです。
第三に「概念論」について新しい見地が展開されています。「概念」を「真にあるべき姿」の把握と実現の過程とみる新しい見解、解釈です。通説とは異なり、批判も予想されますが、本書の問題提起を機に論議が起こり、論議を通じてより正確な理解が深まることを私たち編集委員一同願っています。
ヘーゲルは難しいけれども面白いというのが、編集委員の共通した意見です。私がヘーゲルゼミの開催を高村さんにお願いしたきっかけは、私が高村さんに「ヘーゲルは面白いですか」と三度聞き、三度ともまじめに「面白い」という返事をもらったことです。今にして思えばそれが本書の「端緒」なのかもしれません。
ヘーゲル哲学を学ぶ面白さは、真理を学ぶ面白さにあります。読者のみなさんにも、私たちの味わったヘーゲルの面白味を、ひいては科学的社会主義の哲学の面白みをぜひ実感していただきたいと思います。
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最後になりましたが、松村一人訳『小論理学』からの長大な引用をご了承いただいた著作権者、松村秀一さんならびに出版元、岩波書店のご好意に心から感謝いたします。また、出版事情厳しきおり、本書の出版を引き受けていただいた学習の友社にも謝意を表します。
一九九九年 八月 三〇日
編集委員を代表して 佐田 雅美
●編集委員(あいうえお順)
大亀信行・権藤郁男・佐田雅美・武田一平・竹森鈴子・平野光子・二見伸吾・村上厚子・山根岩男
●テープ起こし・ワープロ入力作業協力者
小笠原亨・小柳円香・竹森康二・平野百合子・山本一人
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