2017年12月16日 講義
第10講 世界は法則にそって発展する
1.『資本論』は、資本主義の運動法則を明らか
にすることで、史的唯物論を立証
●『資本論』の誕生した時代
・第1巻の誕生したのは1867年
・日本では、江戸時代の最後、大政奉還の年
・マルクスが研究したのは、イギリスの資本主義
・イギリスでは、1760年代から1830年代の産業革命で、ようやくマニュフ
ァクチュアから機械制大工業が登場してきた頃
・労働者階級の普通選挙を求めるチャーティスト運動が1836〜1848年にか
けて展開
・資本主義がようやく商業資本から産業資本にかわって登場した時代の著作
でありながら、現代資本主義までを展望している
● 当時のブルジョア経済学
・アダム・スミスからリカードに至るまでのブルジョア経済学は、資本主義
は永遠に継続するものと考えていた
・つまり彼らは資本主義を「社会的生産の歴史的に一時的な発展段階ととら
えないで、反対に、社会的生産の絶対的で究極的な姿態」(『資本論』①
18ページ)ととらえていた
・それに対しマルクスは、『資本論』で資本主義の生成、発展、消滅の全過
程を弁証法で明らかにした
●『資本論』は史的唯物論の正しさを証明した
・マルクスは、『資本論』の立場を「経済的社会構成体の発展を1つの自然
史過程」(同 12ページ)ととらえ、「近代社会の経済的運動法則を暴露す
る」ことを最終目的に
・それを受けてレーニンは、「ある社会構成体の構造と発展とをもっぱら生
産関係によって説明しながらも、……この生産関係に照応する上部構造を、
つねに、そして、いたるところで追求し、この骨組みを肉と血でつつんだ
ことにある」(レーニン「人民の友とはなにか」レーニン全集①134ペー
ジ)と紹介
・次いで「いまでは、 ── 『資本論』が出現してからは―、唯物史観はも
う仮説ではなくて、科学的に証明済みの命題である」(同135ページ)と
続けた
2.史的唯物論(唯物史観)とは何か
● 史的唯物論は、世界を合法則的に発展させる理論
・マルクスとエンゲルスとは、1844.8に共同作業をするようになった最初か
ら、唯物論的な世界観で一致していた
・1845〜1846に共同で『ドイツ・イデオロギー』を書いて、彼らの独自の
産物である史的唯物論の土台を築く
・マルクスは、史的唯物論を発展させながら、経済学の研究に打ち込む
● マルクスの史的唯物論の定式化
・マルクスは、「経済学批判 序言」(全集⑬ 6ページ)で史的唯物論を定式
化
・社会は、経済的諸関係という土台と、政治、法律、イデオロギーという上
部関係からなる
・土台は、上部構造を規定する
・土台は生産力(人と自然の関係)と生産関係(人と人との関係)からなり、
生産力が発展し生産関係と矛盾するようになると、社会革命の時期が始ま
る
・「経済的基礎の変化とともに、巨大な上部構造の全体」(同 7ページ)が
くつがえる
● エンゲルスによる史的唯物論の展開
・エンゲルスは、マルクスの定式化を受け、『空想から科学へ』のなかで、
史的唯物論を3つの命題に展開して説明
・1つは「これまでのすべての歴史は、原始状態を別にすれば、階級闘争の
歴史であった」(全集⑲ 205ページ)
・2つは「たたかいあう社会諸階級は、……一言でいえば経済的諸関係の産物
」(同)
・3つは「経済構造が現実の土台」(同)をなしており、「上部構造の全体は、
究極においてこの土台から説明されるべき」(同)
・以下、この3つの命題をもう少し詳しく検討する
3.史的唯物論の3つの命題
① 人類の歴史は原始状態を除き、階級闘争の歴史
● エンゲルスの功績
・マルクスが歴史発展の原動力を「生産力と生産関係の矛盾」ととらえたの
に対し、エンゲルスは階級に焦点を当て、階級闘争という矛盾としてとら
えたことは、大きな功績
・マルクスの定式化は、「生産関係」における階級闘争が「生産力」の発展
の桎梏になるとしたものであり、それをより単純化して階級闘争の矛盾と
してとらえたもの
・「原始状態を別にすれば」というのは、原始共同体のもとでは生産力が低
く、共同生産、共同消費だったため
・約1万年前から人類は階級社会に突入し、それ以後人間社会は階級闘争と
して展開してきた
・人類史を生産力発展のための階級闘争の歴史としてとらえることにより、
階級社会の発展形態がより明確になる
● 人類の歴史
・原始共同体の社会では、「自由、平等、友愛は、定式化されたことは一度
もなかったが、氏族の根本原理」(全集㉑ 92ページ)
・約1万年前に農耕・牧畜により、一人が一人分以上の生産物を生産するよ
うになり、私有財産制が誕生
・これまで殺されていた戦争捕虜は、奴隷として働かされるようになり、奴
隷制社会に
・奴隷社会では、生産物をすべて奴隷主が独占するところから、奴隷の反乱
を招き階級闘争に
・奴隷を土地に縛り付けながらも、農産物の一定割合を奴隷の所有と認める
ことで生産力を発展させ、封建制社会に
・封建制社会のもとで、小商品生産が発展し、ブルジョアジーが台頭。封建
的制約を打ち破り、取引の自由を求めて階級闘争に
・ブルジョアジー(資本家階級)は封建貴族に立ち向かい、階級闘争に勝利
して、資本主義社会に
・資本主義的搾取は、機械制大工業のもとで生産力を発展させ、格差と貧困
を生みだし、労働者階級の階級闘争を生みだす
・科学的社会主義は、資本主義社会の階級闘争の発展により、階級を生みだ
す生産手段を社会化することにより、搾取も階級もない社会主義・共産主
義を「真にあるべき姿」ととらえる
② 社会諸階級は経済的諸関係の産物
● 階級とは何か
・階級は、土台としての経済的諸関係から生じる
・階級とは、生産手段をもつかもたないかによって区別される人間集団
・生産手段をもつ者は、生産物を独り占めすることで搾取する
・したがって階級は、生産手段の私的所有の発展とともに生まれ、搾取する
階級と搾取される階級とに分かれる
・階級社会には2つの主な階級があり、一方が他方を搾取するところから、
和解できない利害の対立関係にあり、階級闘争が生まれる
● 階級社会が国家を誕生させる
・社会が和解できない階級対立に分裂すると、「諸階級のうえに立って、彼
らの公然たる衝突を抑圧」(全集㉑ 168ページ)する「第3の力」(同)
が誕生する
・その「第3の力」が国家であり、国家は法と政治を掌握して上部構造に君
臨する
・搾取階級は、「第3の力」を装って国家権力を掌握し、支配階級となる
・国家は「最も勢力のある、経済的に支配する階級の国家」(同170ページ)
・奴隷制国家は奴隷主の国家、封建制国家は封建領主の国家、資本制国家は
資本家の国家
● 階級は自己の利益を代表する政党を組織する
・国家の誕生により、被搾取階級は搾取階級を相手とする経済闘争と同時に、
国家を相手とする政治闘争を展開せざるをえなくなる
・エンゲルス「政治闘争はすべて階級闘争であり、諸階級の解放闘争はどう
しても政治的形態をとらずにはすまない」(「フォイエルバッハ論」全集
㉑ 305ページ)
・それぞれの階級は、政治闘争のために自己の利益を代表する政党を組織す
る。資本主義社会には、資本家階級、労働者階級、中間階級の3種類の政
党が存在する
・労働者階級の政党が日本共産党であり、資本家階級の政党が自民党である
③ 土台は究極において上部構造を規定する
● 「上部構造の全体は、究極においてこの土台から説明されるべき」(全集
⑲ 205ページ)
・史的唯物論は、土台と上部構造の相互作用を認めながらも、「究極におい
て」土台が規定的要因をなすというものであって、けっして「経済還元主
義」ではない
・土台における階級闘争は、上部構造としての政治闘争と結合して前進する
● 土台と上部構造は、相互作用しながら、上部構造は「究極において」土台
から説明さるべき
・資本主義の基本矛盾は、土台における搾取から生まれる
・この搾取から、一方の側の巨大な内部留保と、他方の側の格差と貧困
・資本家階級は国家権力を掌握し、搾取を擁護して資本主義の土台を守る
・現代日本を動かしているのは、経団連と全労連の間の階級闘争
4.階級闘争の発展のために
● 労働者は、自覚して階級意識をもつようになる
・労働者は生まれながらに階級意識をもつのではない
・マルクスは、「成功の1つの要素を労働者はもちあわせている ── 人数
である。だが、人数は、団結によって結合され、知識によってみちびかれ
る場合にだけ、ものをいう」(「国際労働者協会創立宣言」全集⑯ 11ペ
ージ)として「万国のプロレタリア団結せよ!」(同)と呼びかけている
・労働者は団結し、学習することによって、階級意識をもつに至る
● 労働者階級の政党は、真理をかかげて階級意識を形成する
・労働者階級の政党は、労働者を階級的に組織する
・「歴史に対する前衛党の責任とは何か。それは、そのときどきの歴史が提
起した諸問題に正面からたちむかい、社会進歩の促進のために、真理をか
かげてたたかうこと」(『前衛』651号 41ページ)
・「歴史が提起した諸問題」とは、階級闘争の課題となる歴史が提起した社
会の本質的な矛盾
・「真理を掲げてたたかう」とは、階級闘争の理念をかかげてたたかうこと
・労働者階級が政党を組織するのは、労働者階級の課題である人間解放の社
会主義・共産主義の社会を階級闘争によって実現するため
・労働者階級の政党は、委ねられた任務実現のために、真理をかかげ階級闘
争の導き手となって歴史をきりひらく
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