2018年12月15日 講義
第5講 『万引き家族』と対話
1.「万引き家族」の豊かさは対話から
・「万引き家族」の豊かさは、親密な人間関係から生じている
・その人間関係をつくり出したものは、狭い1部屋のなかに6人がひしめき
合って生活していることを基盤にしている
・6人が顔をつきあわせながら共同生活する鍵は、「対話」にある
・彼らは、お互いの立場を呑み込んで、憎まれ口をたたきあいながらお互い
を認め合っている
・意見の違いがあっても、暴力沙汰に及ぶことはなく、すべては対話で解決
され、助け合って生きている
2.対話のもたらすもの
● 乳児の人間形成は、母親との対話に始まる
・母親は、乳児に対して、「さあ、おっぱいをあげましょうね」「どうして
そんなに泣くの」「いい子だから大人しくねんねしてね」などの言葉をか
け、それを聞いた乳児が、喃語をつうじて応答するなかで、乳児は次第に
言語を獲得し、母親と対話するようになる
・乳児は、母親からの呼びかけに応答する対話をつうじて、人間らしくなり、
人間として成長してゆく
・対話は、人間を人間として形成する土台となるコミュニケーションの手段
●「対話が続いている間は殴り合いは起こらない」(ドイツの諺)
・北朝鮮の核・ミサイル開発が進行するなかで、2017 米朝関係は核戦争前
夜の対決に激化する
・それを転回したのが、2018、4の南北首脳会談という対話
・ローソク革命から誕生した文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、「すべて
をかけて戦争を阻止する」(2017.8.15)と宣言し、南北首脳会談を実現
・2018.6 米朝首脳会談で朝鮮半島の非核化と恒久的な平和体制の構築に合意
・これを機に、一気に朝鮮半島の平和体制構築の対話が進展してゆく
・2018.9 第3回南北首脳会談で、金委員長は文大統領に対し、北朝鮮の非核
化を確約し、第2回米朝会談への道をひらく
・ドイツには「対話が続いている間は殴り合いは起こらない」との諺がある
が、それを受け、暉峻淑子氏は「対話こそは、暴力、戦争に対する真の意
味での反対語」(『対話する社会へ』182ページ)と主張する
・対話は相互の利益をすりあわせ、合意によって問題を解決しようとする民
主主義の土台
● プラトンの哲学における「対話」
・プラトンの哲学の大半は、「対話」篇から成り立っている
・対話をつうじて、ある論点が何度も当事者の間を往復し、次第に論点が整
理され、弁証法的に真理に接近してゆく
・プラトンは「弁証法の創始者」(へーゲル『小論理学』㊤ 247ページ)と
呼ばれているが、それは「プラトン哲学においてはじめて弁証法が自由な
学問的な形をとってあらわれている」(同)から
・彼は「一から多を導き出しながら、しかも多が一として自己を限定せざる
をえないことを示している」(同 248ページ)として、対立物の統一とし
ての弁証法を示した
・プラトンの弁証法は、ギリシア語で「ディアレクティケー」とよばれてい
るが、ディアレクティケーは「対話または弁証法」と訳されている
3.人間の言語と対話
● 人間の脳神経は言語によって人間の心を生みだす
・人間には他の動物にはない言語がある
・言語は、脳領域の言語野(ウェルニッケ野とブローカ野)によって担われ、
最後はそれらの情報を総合する「概念中枢」(理化学研究所脳科学総合研
究センター編『脳科学の教科書—心編』76ページ)によって「概念」にま
とめられ、無限な世界のことがらを概念相互の関係として抽象的にあつか
うようになる
・その概念中枢は、いまだ解明されていないものの、言語を媒介として人間
の心をつくり出すとされている
● 言語の中心的役割が対話である
・他の動物も音声によりコミュニケーションの手段をもつが、「今、ここ」
にいる仲間に音声をつうじて伝えうるのみ
・人間の言語は、抽象的世界を取り上げることにより、時・空を超えて無限
に情報を伝達しあうコミュニケーションの手段
・無限に抽象的な情報を相互に交換することによって、人間は人間らしい心
をもつようになるが、その相互媒介の中心的な役割を担うのが人と人との
間の対話である
・したがって、対話は人間らしい心を生みだし、社会的存在としての人間を
人間に形成させる中心的手段
● 対話は人間の本質を形成する
・対話は人間を相互媒介する中心的手段であり、したがって母親と乳児の対
話にみられるように対話によって人間は人間らしく成長する
・人間は、対話をつうじて人間らしく人間の本質を身につけていく
・人間の本質とは、個人としては「自由な意識」をもつことであり、社会的
存在としては「共同社会性(対等、平等、友愛)」をもつことである
・生き生きとした対話は、以下に見られるように人間の本質をもった人間を
つくりあげる
4.対話は人間を人間らしくする
● 対話は、「自由な意識」を真理に向かわせる
・人間は知を愛し、真理を求める
・それをアリストテレスは「すべての人間は、生まれつき、知ることを欲す
る」(『形而上学』アリストテレス全集⑫ 3ページ)と表現した
・哲学を意味する「フィロソフィア」とは「知を愛する」こと
・プラトンが対話の哲学で追求したのも、対話により真理を求めるというも
の
・人間の脳は、コンピューターとは異なり、出力することによって脳神経細
胞のネットワークをより発展させるようになっており、「自由な意識」は
対話をとおしてネットワークを発展させる
・真理とは、「自由な意識」の発展形態である
・対話は、真理に接近する弁証法であり、へーゲルはプラトンの哲学を発展
させて弁証法の基本形式を「対立物の統一」として確立
・すなわち弁証法とは、対象のなかに対立・矛盾を見いだし、その矛盾を解
決するものとして真理を見いだす方法
・人間は対話をつうじて人間の本質である「自由な意識」を発展させて、真
理に接近する
● 対話は、人間の本質としての「共同社会性」を生みだす
・対話は、人間の本質としての「共同社会性(対等、平等、友愛)」を生み
だす
・フィンランドにおける「オープンダイアローグ」は、統合失調症の治療回
復として、「医療チームと患者および患者家族とのオープンな対話をつう
じて患者を治療に向かわせ」(暉峻淑子『対話する社会へ』120ページ)
るもの
・対話は、人間性を回復させることを証明
・「万引き家族」では、対話が心を閉ざしていた幼女の心をひらき、人間性
を回復させる
・朝鮮半島では、文在寅大統領と金正恩委員長との対話が、非人間的な核戦
争の危機を転じ、平和体制の確立へと方向転換した
・対話は、人間の本質としての「対等、平等、友愛」という共同社会性を生
みだすことで人間性を回復する
● つまり対話は人間を人間らしくする
・対話は他の動物には存在しない人間特有のコミュニケーションの手段であ
り、人間は対話をつうじて人間となる
・1つには、人間は対話をつうじて真理を求め、人間の本質である「自由な
意識」を発展させる
・2つには、人間は対話をつうじて「共同社会性(対等、平等、友愛)」と
いう人間社会に不可欠な人間の本質を形成する
・この2つを統一することにより、人間は対話によって人間となる
5.人間疎外からの解放
● 資本主義社会は、人間を「サル化」する
・サルは、優劣をはっきりさせ強いものが食物や交尾相手を独占する
・資本主義社会は、人間を人間社会から切り離し、人間疎外によって共同社
会性を破壊してバラバラにし、「サル化」する
・インターネットやスマホというIT革命が「サル化」をさらに促進する
・戦争による暴力は、階級社会が生みだした「サル化」の最たるもの
● 人間解放は対話に始まる
・資本主義による人間疎外からの解放は、人間性を回復する対話に始まる
・「万引き家族」は、対話こそ人間疎外からの人間性回復であることを教え
てくれる
・対話は民主主義の基本原理であり、民主主義とは、日常生活上人民が社会
の主人公となることを意味する(韓国のロウソク革命)
・マルクス、エンゲルスは『共産党宣言』のなかで、労働者革命の第一歩は
「民主主義をたたかいとることである」(全集④ 494ページ)と述べてい
る
・国連憲章は、第一次、第二次世界大戦を踏まえて、国際紛争の平和的手段
による解決の原則を打ちだしている
・平和的手段とは、1つには対話による紛争の解決であり、2つには対話は
必ず真理に接近した解決を生みだすことを意味している
・国連憲章は、人間疎外からの人間解放は「民主主義をたたかいとること」
にあることを象徴的に表現したもの
● 統一戦線結成は、対話をつうじて
・人間解放に向かう統一戦線の結成は真理を求める対話によって生まれる
・沖縄における統一戦線である「オール沖縄」は、戦争に反対する保守と革
新の対決を超える対話から生まれた
・玉城デニー県知事、豊見城、那覇市長と「オール沖縄」」のたたかいは3連
勝に
・いまや本土の市民と野党の共闘は「オール沖縄」という真理に学ぶべきと
き
・2018.11.17 「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」と野党
との意見交換に、初めて国民民主党が参加し、5野党1会派は来年の参院選
1人区で協力を強めることを確認
・小池書記局長は「前提条件をおかず、政党の本部間での率直で真剣な協議
を始める」として、政党間の対話をすすめることを提唱
・「率直で真剣な協議」は真理を実現する
・32の1人区のすべてに野党統一候補を立てれば、与野党逆転も可能
・いまこそ野党の「政党本部間」で、統一戦線結成に向けての真剣な討議を
重ねる対話が求められている
・対話は、真理を模索することで野党間の一致点を見出し、野党相互間のリ
スペクトを生みだすことで統一戦線を結成する力となる
|