2019年1月19日 講義

 

 

第6講 AIと貧困

 

1.新自由主義のもたらした「格差と貧困」

● 第2講で学んだように、新自由主義の資本主義が「格差と貧困」をもたら
 した

 ・1980年代からの新自由主義は、それまでの福祉国家をぶち壊し、野蛮な強
  欲の資本主義を復活

 ・新自由主義は、中間層を没落させ、貧困層を増大して一挙に「格差と貧困」
  を拡大

 ・日本でも2004年に労働者派遣が製造業にまで拡大し、一挙に非正規雇用が
  拡大

 ・大企業はこの5年間で、純利益を19兆円から45兆円へと2,3倍に増やし、
  内部留保は425兆円にふくれあがった

 ・他方で労働者全体の4割近くが非正規雇用となり、年収200万円以下の労
  働者は1100万人を超える

● 新自由主義の非正規雇用はIT革命(Information technology revolution)
 が生みだしたもの

 ・1980年代後半にホワイトカラーの職場にオフィスオートメーションの導入

 ・1990年代後半にインターネットとメール登場し、コミュニケーションの多
  様化

 ・「仕事のマニュアル化が進み、それがITシステムにのりながら、ネット
  ワーク化していくことで、以前は長い社内教育期間を通じて訓練された正
  社員しかできなかった仕事が、入社して間もない非正規社員でもできるよ
  うになってきた」(鈴木貴博『AI失業前夜』99ページ PHPビジネス新書)

 ・「これが今日まで、非正規労働者が全賃金労働者の4割を占めるようにな
  った歴史なのである」(同)

● IT革命からAI革命に

 ・AI(Artificial intelligence)とは人工知能のこと

 ・AIで注目されているのは、「パソコンのなかに常駐して、ホワイトカラ
  ーの仕事を学んでいく」(同)RPAと呼ばれるプログラム

 ・RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は、定型書類の作
  成作業を人工知能が覚えていて、代わりに行い、情報システム部門の責任
  者を不要にし、ホワイトカラーの仕事を激減する

 ・2018年、学生の就職活動で8年連続して業界首位だった銀行が4位に転落

 ・2017年11月、メガバンク3行がRPAを使ってリストラを予告(同103ペ
  ージ)   

* 三井住友フィナンシャルグループ(FG)—2021年までに4年で4000人削減
* 三菱東京UFJFG—2024年までに7で3割に当たる9500人削減    
* みずほFG—2027年までに10年で7万9000人から1万9000人削減

 

2.AI革命による失業増大

● AIによる失業増大

 ・オックスフォード大学のオズボーン准教授とフレイ博士の推計結果(オズ
  ボーン論文)によると、「2025年から2035年までに日本の労働力人口の
  約49%が就いている仕事が、AIとロボットによって代替可能となる」(
  鈴木貴博『仕事消滅』16ページ 講談社+α新書)とされている

 ・「AIの性能が上がれば、かなりの部分のホワイトカラーの仕事はAIが
  肩代わりできるようになる」(同17ページ)

● セルフドライビングカーの実用化

 ・グーグルは次世代通信「5G」によって2025年までに完全自動運転を実現
  しようとしている

 ・日産・ルノー連合、GM、メルセデス・ベンツも同じ目標に向かっている

 ・日本の運輸業界は、この自動運転車の登場を待ちわびている

 ・「宅配クライシス」でヤマト運輸大幅値上げ、続いて2018年には引越危機
  で入学や転勤にも荷物が届かない「引越難民」登場

 ・自動運転により、長距離トラック、バス、タクシーの労働者数、123万人
  の失業が問題となる

● GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)によるAI
 利用

 ・GAFAの4大IT巨大企業は、年間1兆円規模をAI開発に投じて、A
  Iブームを引き起こす

 ・GAFAはIT業界から流通、金融、自動車、運輸、エネルギーという他
  産業に手を伸ばす

 ・流通—ネット通販と倉庫の無人化

 ・金融—顧客情報の収集・分析

 ・運輸・輸送—完全自動運転の実現

 ・製造—産業のロボットによる熟練労働の解体

 ・将来GAFAに加えたマイクロソフト、IBMなどの6社はAIの中枢を
  握り、それ以外の企業をAIのサブリースとして使うことが予想される

● オズボーン論文の行方

 ・「雇用の未来—コンピュータリゼーションは仕事にどう影響するか」(20
  13)

 ・論文から5年以上経過して、今後大量の失業問題が発生するとの予想は、
  現実味を帯びつつあるようにみえる

 

3.AI革命は大量の失業を生みだすか

● 労働手段は「経済的諸時代を区別する」(『資本論』② 307ページ)

 ・労働手段の創造は、「独自的人間的労働過程を特徴づける」(同)もの

 ・「どのようにして、どのような労働手段をもってつくられるかが経済的諸
  時代を区別する」(同)

 ・AIも人間がつくり出した労働手段であり、AI革命は新しい「経済的諸
  時代」をつくり出す

● AIは人間の能力を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」に到達
 するか

 ・レイ・カーツワイルは、「2045年に人工知能が人類を追い抜く」(栗原聡
  「人工知能と人間の共生に求められるもの」15ページ、『経済』12月号)
  として、その時点を「シンギュラリティ」と呼んだ

 ・しかし人間の「知能とは何か」はまだ研究途上にあって解明されておらず、
  したがってその知能を追い抜く人工知能も不明確な議論

 ・現在「人工知能」 と説明される技術は、「高度IT技術」(同16ページ)
  という用語に置きかえうるもの

 ・AIは、社会を大きく変える労働手段としてとらえるべきものではないか

● 資本蓄積は、労働人口を増やしつつ、相対的過剰人口をつくりだす

 ・資本蓄積は、不変資本の増大と可変資本の減少という資本の有機的構成を
  高めながらも、労働者を蓄積してゆく

 ・資本の蓄積により、資本は総量を増大させることにより、他方で労働者人
  口も増大させながら相対的過剰人口をつくり出す

 ・資本主義は、19世紀後半の産業革命以来、蒸気機関、内燃機関、パソコン、
  インターネットなどで何度かの産業革命を繰り返しながら、資本の総量を
  増大させ、全体として、労働者階級の人口を増やしてきた

 ・日本でも、新自由主義の始まった1984年の雇用者数は3936万人だったの
  が、IT革命により中間層は崩壊したものの、新しい仕事は増え、2016年
  の雇用者数は5391万人と約1500万人近く増加

 ・つまりこれまでの産業革命は、新しい労働手段によって、新しい雇用をう
  みだし、労働者人口を増大させつつ、相対的過剰人口をつくり出してきた

● AIは新たな雇用を生みだす

 ・計算や膨大なデータ処理などの人間にとって不得意な労働は、AIにとっ
  てかわられる

 ・しかし、「お互いを気遣うコミュニケーションだったり、感性・直感によ
  るイノベーションだったり、突発的な事態に臨機応変に対応して判断を下
  す能力、そして新しい環境や状況に適応できる能力は、まだまだ人間の方
  が得意」(同)

 ・つまり医療、福祉、介護、教育、学習などの対人関係を対象とするサービ
  ス労働では、AIは補助的役割にとどまる

 ・AIにより「人間の仕事の比重が、創造性の発揮や、人間同士のやりとり
  が重要なタスクにシフトしていく」(同17ページ)

 ・「AIに対しても、それを使いこなすという能力や、AIやロボットのメ
  ンテナンスという新しい仕事も発生する」(同)

 ・AIはこれまでの産業革命と同様に、新たな雇用を生みだすものであって、
  単純に大量の失業者を生みだし、仕事を消滅させるとはいえない

● AIは資本主義の矛盾を激化する

 ・人類を追い抜くAIができるかどうかも疑問だし、AIが大量の失業を生
  みだすかどうかも不明

 ・しかしAIによって、貧富の対立と「格差と貧困」はますます激しくなり、
  階級間の矛盾は激化する

 ・また資本主義の生産と消費の矛盾も激化し、資本主義経済を停滞させる

 ・資本主義の生産関係が生産力の発展形態の桎梏に一変する

 ・AIによる階級闘争の激化は、資本主義の限界を打ち破り、未来社会を展
  望するところまで発展する可能性をもっている

 

4.貧困をめぐる階級闘争の発展

● 現在の階級闘争の発展が未来をつくり出す

 ・現在の日本における貧困をめぐる階級闘争の発展が、AI時代の未来をつ
  くり出す

 ・AI革命が大量の失業をつくり出すとの議論は、現在の階級闘争の発展が
  未来のAI時代の階級闘争をつくり出すという観点が欠落していることを
  特徴としている

 ・その意味で日本における貧困をめぐる階級闘争を分析しておかなければな
  らない

● アベノミクスの貧困対策

 ・アベノミクスの貧困対策は「トリクルダウン論」であり、大企業が儲かれ
  ば、それが低所得層にもしたたり落ちるというフェイク理論

 ・大企業の首切りを放置し、社会保障も一方的に切りすて

 ・アベ政権の7年間で、生活保護、年金、医療、介護などの社会保障を、4.3
  兆円も削減して、さらに貧困が広がる

 ・アベ政権は、2019.10の消費税率10%への引きあげの口実として、幼児教
  育や高等教育無償化などを進める「全世代型社会保障改革」を主張するも、
  幼児境域の給食費を除外、高等教育の無償化は、住民税非課税世帯限定な
  どの「つまみ食い」社会保障

● 全労連の要求

 ・全労連は「資本からの独立」「政党からの独立」「共通の要求での行動の
  統一」という労働組合の基本的3原則を堅持する

① 最低賃金の引きあげ

 ・全国一律最低賃金の引きあげを、正規・非正規労働者の共通の課題として
  位置づける

 ・「どこでもだれでも今すぐ時給1000円の実現、1500円をめざす」

 ・時給1000円で年収180万円、時給1500円で年収270万円と文字通り最低限
  の要求

② 消費税増税に反対し、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する社
  会保障の実現を

 ・消費税という逆累進性の税制の10%への増税は、日本経済を破壊する

 ・消費税は1989~2017までに349兆円。他方法人3税(法人所得税、事業税、
  住民税)は281兆円の減税と8割が穴埋めに

 ・所得税率も最高税率70%だったものが、現在45%に

 ・「応能負担の原則」にもとづき、大企業と富裕層に応分の負担を求め、それ
  を財源として「所得再配分」を実現する社会保障の実現を

 ・アベ内閣の社会保障の切りすては「所得再配分」どころか、「格差と貧困」
  を拡大するものとして許せない

③ 革新統一戦線

 ・貧困対策を実現するには、革新統一戦線を結成して、政治を革新するしか
  ないと主張

 ・全労連は、市民と野党の共闘を推進する「安保法制の廃止と立憲主義の回
  復を求める市民連合」の中核として奮闘している

● 市民と野党の共闘の前進

 ・戦争法反対以来、市民と野党の共闘は大きく前進

 ・玉城デニー知事誕生によって、「『オール沖縄』に学べ」の気運高まる

 ・2019年夏の参院選にむけて32の1人区で候補者一本化の動き強まる

 ・安保法制反対、9条改憲反対、原発ゼロ、辺野古新基地反対の政策と合わ
  せて、消費税増税反対でも一致すればアベ政権を打倒しうる共通政策を確
  認しうる

 ・戦争法反対にはじまった市民と野党の共闘は、沖縄県知事選を機に野党間
  の共闘を強め、新しい統一戦線の結成にむけて前進しようとしている

 ・2019年は、市民と野党の共闘の前進による新しい政治への転換の年になろ
  うとしているし、転換の年にしなければならない

 ・2019年が新しい統一戦線により政治転換の年になれば、消費税増税反対の
  運動は、「応益負担の原則と普遍的社会保障の統一」にまで前進しうるこ
  とになるし、最賃制の要求でも一致しうる可能性が生まれる

 ・新しい統一戦線が結成されれば、AI革命による失業問題にも、貧困打開
  の階級闘争として取り組むことができる