2019年10月19日 講義
第1講 戦争と平和
1.政権選択の時代
● 2019年参院選の結果
・自・公など改憲勢力は、憲法改正の発議に必要な3分の2議席を割る
・国民の大多数も改憲への関心なし
・しかしアベ首相は、依然として9条改憲に執念を燃やしている
● 次の総選挙は、政権選択の選挙
・次の衆院選では、選挙区はすべて1人区であり、野党共闘ですべて統一候
補が実現されれば、政権を手にしうる選挙となる
・野党連合政権は、いずれ9条と日米安保の問題、つまり「戦争と平和」の
問題にかかわらざるを得ない
・その時に備えて「戦争と平和」の問題を検討しておきたい
2.「人類の歴史は戦争の歴史」ではない
●「人類の歴史は戦争の歴史」といわれている
・しかし、これは事実ではない
・人類の歴史の99%を占める原始共同体は、戦争のない「自由、平等、友愛」
を「根本原理」(全集㉑ 92ページ)とする社会
・戦争が始まったのは、人類が階級社会に突入してから
● 私有財産制が戦争を生みだした
・約1万年前に、狩猟・採集から農耕・牧畜に移行
・生産力が高まり、私有財産制が誕生し、私有財産をもつものともたないも
のとの階級に分化する階級社会となる
・階級社会である奴隷制社会の弥生時代の遺跡から、槍が腰に刺さった死体
や弓矢が骨にささった死体がたくさん発見され、組織的な戦い、つまり戦
争が始まったことを示している
・搾取階級は、戦争によって捕らえた捕虜を打ち殺すのではなく、奴隷とす
ることにより、自己の私有財産をより強大なものとする
・奴隷は、自己の消費分と奴隷主の消費分を生産することで奴隷制社会を支
える
・奴隷制社会という階級社会以降、人類の歴史は私有財産を守り、拡大する
ために本格的な戦争の歴史となっていく
3.階級闘争と戦争
●「これまでのすべての歴史は、原始状態を別とすれば、階級闘争の歴史で
あった」(「空想から科学へ」全集⑲ 205ページ)
・階級社会になって以降の歴史は、搾取し、支配する階級と搾取され、支配
される階級との階級闘争の歴史
・階級間の闘争である階級闘争が、歴史発展の原動力となった
・階級対立の非和解性の産物として「階級対立を抑制」(全集㉑ 170ページ)
するために、「公的強力」(同 169ページ)をもつ国家が誕生する
・搾取階級は、「国家を用具として政治的にも支配する階級となり、こうし
て被抑圧階級を抑圧し搾取するための新しい手段を手にいれる」(同 170
〜171ページ)
● 戦争をめぐる階級闘争
・戦争とは、支配階級が「公的強力」を使って、国の内外の被抑圧階級を支
配し抑圧することにより、政治的支配力を強める組織的な闘争
・奴隷制社会の戦争は奴隷の獲得を、封建制社会の戦争は土地の獲得を、資
本主義社会の戦争は国外市場と植民地の獲得を目的とする
・資本主義が帝国主義段階に入ると、植民地と勢力範囲の再分割をめぐる帝
国主義戦争が始まる
・戦争は、支配階級が自らの私的利益のために引き起こすものでありながら、
近代になると総力戦として被支配階級を総動員することから、労働者階級
の階級的自覚の高まりなかで、階級闘争の一環として戦争反対の運動が起
きてくる
・マルクス、エンゲルスは、労働者階級の最初の国際的大衆組織である第1
インタナショナルのなかで、階級闘争の一環として労働者階級の反戦運動
をよびかけた
・それを受け、レーニンは第1次世界大戦末期、ロシア革命という階級闘争
に勝利すると同時に、反戦のたたかいの歴史を一歩前進させた
● 労働者階級は、平和のためにたたかう
・マルクスは、1864年、労働者階級の最初の国際的な大衆的革命組織である
「国際労働者協会(第1インターナショナル)」を創立
・その「創立宣言」(全集⑯)において、マルクスは資本家階級間の「略奪
戦争」(同 11ページ)は、労働者階級の解放のための「兄弟のような協力」
(同)を否定するものとして、戦争に反対し、平和を求める思想を明らか
にしている
・「もし労働者階級の解放のために彼らの兄弟のような協力が必要とすれば、
犯罪的な目的を追求して、民族的偏見にはたらきかけ、略奪戦争に人民の
血と財宝をそそぎこむような対外的政策をもってして、どうしてこの大使
命を実現できるであろうか?」(同)
・「このような対外政策のためのたたかいは、労働者階級の解放をめざす一
般的闘争の構成部分である。万国のプロレタリア団結せよ!」(同)
● 労働者階級は階級闘争として平和を求める
・労働者階級は、戦争とは資本家階級どうしが、生産力発展のために、領土、
資源、市場、労働力をめぐって争い合う争奪戦であり、労働者は常にその
犠牲となっていることを、階級闘争をつうじて学びとった
・そこから、労働者階級は団結して戦争に反対し、階級闘争に勝利しなけれ
ばならないことを知った
・つまり、労働者階級にとって、戦争に反対する平和のためのたたかいは、
人間解放をめざす階級闘争の一構成部分となった
4.階級闘争による平和原則の発展
● 第1次世界大戦は、最後の帝国主義戦争
・20世紀初頭までに、資本主義は帝国主義の段階に移行し、英、仏、独、米、
露、日の資本主義6大列強により、世界のすべてを植民地として分割完了
・それ以降、遅れて発達した帝国主義国は、分割完了の領土の再分割を求め、
最後の帝国主義間の戦争として、第一次世界大戦(1914〜1918)を引きお
こす
・英、仏、露と独、オーストリアの2大帝国主義陣営の対立─日本は日英同
盟をたてに、その対立を利用し、ドイツから中国の侵略の拠点を奪う
・帝国主義陣営は、戦争に勝利して領土を拡張し、敗戦国から賠償金をとる
のが、帝国主義戦争の常識となっていた
● ロシア革命における「平和についての布告」
・ロシア内で、第1次世界大戦は帝国主義戦争であるとして反対し、即時講
和、食料、土地を求める階級闘争が前進する
・レーニンの率いる労働者、農民、兵士のソビエトは、階級闘争に勝利して
1917年11月政権を握り、直ちに「平和についての布告」を公布して「無併
合、無賠償の即時講和」という帝国主義戦争に反対する新しい平和原則を
示した
・ロシア革命は、世界最初の社会主義をめざす革命として、全世界の労働者
階級の歓迎を受け、これまでの帝国主義戦争には存在しなかった「平和に
ついての布告」は全世界に大反響をよんだ
・ロシア革命による帝国主義戦争を違法とする考えは、戦争そのものを違法
とする考えに発展して、全世界の反戦平和の国際世論をつくり出す
● 国際連盟(1920年1月)と不戦条約(1928年)
・第1次世界大戦後の反戦平和の声に押されて、はじめての平和維持を目的
とした国際政治機構が国際連盟
・国際連盟とは、戦勝国の英、仏が、国際平和の維持と国際協力を名目とし
ながら、ドイツを犠牲にして、ソ連を敵視し、労働運動、民族解放闘争を
抑圧しようという中途半端なもの
・国際連盟規約の前文に、反戦運動を反映して「締約国は戦争に訴えざるの
義務を受諾」という平和原則を掲げたが、それ以上の規定のないところに
真の平和を求めない戦勝国の意図があらわれている
・国際連盟の平和原則への不十分さが、第1次大戦後の反戦平和運動の高ま
りのなかで、連盟規約を一歩前進させた1928年の「不戦条約」となる
・1928年8月、63ヵ国の条約批准のもとに、「不戦条約」が締結され、ソ連
が最初の批准国となる
・不戦条約は、紛争解決の手段として戦争に訴えることを非難し、戦争放棄
を宣言(第1条)、紛争解決のためには平和手段のみ(第2条)とする規
定を設ける
・しかし、条約違反への制裁規定はなく、1931年9月日本は条約違反の「満
州事変」(中国東北部への侵略)でかいらい政権をつくり「満州国」と名
付けたが、国際連盟は強い制裁措置をとらず、欠陥が明白に(日本はそれ
でも不満があるとし、1933年3月連盟脱退)
● 第2次世界大戦(1939〜1945)
・日、独、伊の「枢軸国」が、英、仏、米、ソ、中の反ファシスト連合国と
戦った「帝国主義戦争と民族解放戦争とが入り混じった戦争」が第2次世
界大戦
・60ヵが国交戦し、死傷者数は5600万人に
・日、独、伊の3国は後開発国として、植民地への侵略をくりかえし、先進
資本主義国との対立を強め、最後は日本がソ連とも敵対することになった
・「枢軸国」は、1943年9月イタリア、1945年5月ドイツ、1945年9月日本の
降伏で連合国の前に敗北した
・枢軸国のなかで、日本が60ヵ国を相手に最後まで戦ったことは、日本の平
和原則を国連憲章を超える特別のものにして、憲法9条が誕生した
● 国連憲章の平和原則
・反ファシスト連合国が、1945年国際連合をつくり、国連憲章を採択
・国連憲章も、紛争の「平和的解決」という民主的原則を示しながらも、他
方で米、英、仏、ソ、中の5大国に安全保障理事会の拒否権を与え、集団
的自衛権行使の道をひらくという矛盾をもっていた
・集団的自衛権行使の事例は、アメリカのベトナム侵略、グレナダ侵略、ニ
カラグア介入、ソ連のチェコ侵略、アフガニスタン、ハンガリーへの介入、
イギリスのイエメン介入、レバノン、ヨルダン内戦介入と、すべてが国際
法違反
・当初は、アメリカが民主的原則をふみにじり、国連を侵略と内政干渉の道
具として使用してきたが、植民地・従属国が次々に独立して国連に加盟し、
非同盟諸国の比重が高まるにつれ、国連の組織・運営の民主化が次第に強
まってきている
・現在国連は、世界の労働者階級の反戦・平和のたたかいを反映し、次第に
紛争の平和的解決という大原則を確立しつつある
1980 国連総会は、圧倒的多数でソ連のアフガニスタン介入の批判決議
1983 国連総会は、国連史上はじめて、アメリカのグレナダ侵攻の批判
決議
1983 国連総会は、非同盟諸国の後押しを受け、アメリカのリビア空爆
1989 パナマ侵略の批判決議
2003 アメリカはイラクが「大量破壊兵器」を保持しているとの理由で、
イラク侵略を提案したが、非同盟諸国会議とフランス、ドイツが反対し、
結局安保理事会でまとまらず、アメリカの単独行動に(その後大量破壊兵
器なしと判明)
・ イラク戦争反対の運動をつうじて、国連憲章の紛争の平和的解決の原則
が確立され、憲法9条に世界の平和を守る眼が集中する結果に
● 日本国憲法9条の平和原則
・日本は最後まで連合国と戦ったことから、連合国と日本国民の要求で、国
際的にも最も民主的な平和原則が定められた
・すなわち、国際紛争解決の手段として、武力の行使は永久に放棄した(9
条1項)のみならず、戦力は保持せず、交戦権は認めない(9条2項)と
定めて、 個別的自衛権はもとより集団的自衛権も否定
・しかし、アメリカは、サンフランシスコ平和条約と同時に締結した日米安
全保障条約にもとづいて、9条を撤去し、集団的自衛権をみとめさせて、
いつでも自衛隊を世界中で戦争させようとしている
・アベ内閣は、参院選で国会議員の3分の2割れとなったにもかかわらず、
トランプ大統領のいいなりに9条改憲をやりとげようとしている
・しかし、いま9条は、世界の平和を愛する市民も政府も注目する平和宣言
である
・9条は、いまや世界中の「戦争か平和か」をめぐる階級闘争の最前線にた
って、20世紀の「戦争の世紀」を21世紀の「平和の世紀」に変革しようと
している
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