2019年11月16日 講義

 

 

第2講 戦争と平和2

 

1.国連憲章の選んだ2つの道

● 紛争の平和的解決の道と集団的自衛権の道

 ・第2次世界大戦の総括から生まれた国連憲章は、国連の第一目的として交
  戦紛争の平和的手段による解決を求めながら、他方で51条により加盟国に
  武力攻撃が発生した場合に、個別的または集団的自衛権をもつと規定して
  いる

 ・この国連憲章のもつ矛盾は、国連および戦争の被害に苦しんだ諸国と、戦
  争に勝利した諸国との間で、相反する政策が実施されることになった

 ・「国連憲章にもとづく平和の国際秩序か、独立と主権を侵害する覇権主義
  的な国際秩序かの選択が問われている」(綱領改定案)

● 国連の動き

 ・国連は、国際の平和と安全の維持につき、アメリカ、ロシア、イギリス、
  フランス、中国の拒否権をもつ常任理事国5ヵ国と、総会で決定する非常
  任理事国10ヵ国計15ヵ国からなる安全保障理事会をもつ

 ・しかし、第2次大戦末期に始まった米ソの冷戦構造のなかで、安保理事会
  は拒否権の行使で機能せず、核軍拡競争が進む

 ・それでも、非同盟諸国運動によって、1978、1982、1988の計3回の国連
  軍縮特別総会が開催されるが、成果は限定的

 ・1991年、ソ連の崩壊により、冷戦構造は消滅したが、新たにアメリカとロ
  シア、中国との軍事対決が始まっている

 ・「アメリカと他の台頭する大国との覇権争いが激化し、世界と地域に新た
  な緊張をつくり出している」(綱領改定案)

 ・米ロは、引き続き核兵器を所有し、米ロ間の核対決を軸に緊張関係を維持
  し、さらに中国も加わり、いまだに全世界には1万5千発の核兵器が存在

 ・他方で、植民地体制の崩壊は、国連憲章の平和原則を発展させるうえで、
  巨大な力を発揮した

 ・非同盟諸国会議も、1961年の発足以来、核兵器廃絶を主張し、70年代以
  降核兵器全面禁止協定の締結を主張

 ・東南アジア諸国連合(ASEAN)は、紛争の平和的解決をかかげた条約を
  土台に、平和の地域共同体をつくりあげ、この流れをアジア、太平洋地域
  に広げている

 ・こうした対決のなかで、2017年7月、122ヵ国の賛成多数で国連総会は核
  兵器 禁止条約を採択─50ヵ国が批准して90日後に発効

 ・現在 批准国33、署名79と発効に向けて前進

● 戦争の被害に苦しんだ諸国の動き

 ・戦争の被害に苦しんだ諸国は、二度と戦争を起こさないための「平和的手
  段による」紛争解決を真剣に考え、戦後新しい道を切り拓いてきた

 ・それが、永年両国の戦争に苦しんできた独仏の歴史的和解に根ざすEUの設
  立、アジア、アフリカ、ラテンアメリカが中心になった非同盟諸国会議の
  設立、永年侵略戦争の犠牲となってきた東南アジア諸国のASEAN結成

 ・第1次、2次世界大戦の主要対立国であったフランスとドイツは、紛争回
  避のために国境付近に存在する石炭、鉄鋼を共同して管理することを決め、
  1950年欧州石炭鉄鋼共同体を結成、それを軸としてその後EUに発展し、
  現在EUはヨーロッパ・東欧の27ヵ国を含む共同体に(イギリスはEU離脱
  の方向)

 ・ドイツ、イギリス、イタリア、フランスなどは、軍事に依存しないヨーロ
  ッパ平和共同体構築への展望のもとに、軍縮への流れを加速させている

 ・他方、1961年に設立された非同盟諸国会議は、反軍事同盟、平和共存、核
  兵器廃絶、反植民地主義をかかげ、現在参加国120、オブザーバー参加国
  17と、国連の7割を占める勢力となり、国連総会に強い発言力をもってい
  る

 ・非同盟諸国会議は、国連総会の核兵器禁止条約の採択にも大きな力を発揮
  した

 ・また1967年に5ヵ国で創設されたASEAN(東南アジア諸国連合)も、い
  まや10ヵ国体制となり、1976年にはTAC(東南アジア友好協力条約)を
  成立させ、武力による威嚇または武力の行使を放棄し、紛争の平和的手段
  による解決を明記している

 ・ASEAN諸国は、核兵器禁止条約の発効にも積極的で、すでに10ヵ国中9
  ヵ国が署名し、3ヵ国が批准している

 ・21世紀の新しい特徴は、諸政府とともに市民社会が大きな役割を占めて
  いる ことにあり、核兵器禁止条約の締結にも、核兵器廃絶国際キャンペ
  ーン(ICAN)や、日本の被爆者を中心にした平和団体が大きな役割を発
  揮した

● 戦争に勝利した諸国の動き

 ・戦勝国であるアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国は5大国とし
  て核兵器を保有し、核不拡散条約で5ヵ国以外の核兵器保有を禁止する、
  現代の戦争勢力となっている

 ・綱領改定案では、中国が「社会主義をめざす」国から削除された

 ・中国は、1979年の「改革・開放」路線以来、大きく経済成長し、今や米ロ
  の対決に一枚噛んで、アメリカ対ロシア、中国の対決の構図をつくり出し
  ている

 ・アメリカとロシア、中国との対決は、お互いに相手国を破滅させる威力の
  核兵器を保有し、そのバランスの上に緊張関係をつくり出して、いざとな
  ればいつでも集団的自衛権を行使しようというもの

 ・米英仏中ロの5大国は、2019.11 国連総会第1委員会で核兵器禁止条約に
  反対する考えを表明し、条約支持を検討する国に「真剣に熟考するよう」
  呼びかけ、圧力を加えた

● 核兵器禁止条約の発効は、いまや世界平和を守る階級闘争の最大の課題と
 なっている

 ・国連憲章が示す戦争か平和かをめぐる階級闘争は、いまや最大の軍事力と
  なっている核兵器を認めるのか否かにかかっている

 ・5大国、とりわけ米中ロの3国は、核兵器を搭載した大陸間弾道ミサイル
  を保有することにより、最大の戦争勢力となっている

 ・2017年の核兵器禁止条約は、この最大の軍事力である核兵器の全面禁止に
  より、階級闘争による平和への道を切り拓こうというもの

 ・核兵器禁止条約が発効すれば、2020年4月、核不拡散条約(NPT)の再検
  討会議で、核保有国に対し、第6条の「核軍縮交渉を行う義務」を求め、
  核兵器廃絶に向かって運動をすすめることができる

● 日本の安全保障

 ・日本の安全保障の歴史は、第2次大戦後、憲法と日米安保条約の対立と闘
  争のなかで展開されてきた

 ・アメリカは核保有大国として、安保条約のもとで、日本の自衛隊を海外で
  の無制限の武力行使に踏み切らせようとしてしている

 ・アメリカは日本に対し、9条改憲、集団的自衛権のフル稼働をめざして、
  一段と多くの負担と課題を押しつけようとしている

 ・アベ政権は、9条改憲、集団的自衛権のフル稼働をめざし、アメリカいい
  なりの政治をめざしている

 ・他方で国民の多数派は、最高の平和原則である9条の改憲を望まず、次第
  に改憲の根本原因である安保条約にも目を向けつつある

 ・9条改憲、集団的自衛権フル稼働をめぐるアベ内閣と国民との対決は、こ
  れからが勝負所となり、改憲勢力と野党連合の護憲勢力との対決の時代と
  なる

 

2.日米間の安全保障をめぐる矛盾

● アメリカの安保政策の転換

 ・アメリカでは、トランプの「アメリカ第一」が、前方展開戦力を転換し、
  日米安保の役割の変更を求めるものとして、議論になっている

 ・トランプは、「アメリカが攻撃されたときに日本の自衛隊は戦わない。こ
  れでいいのか」として、自衛隊をさらに強化し、アメリカは後方に引くと
  いう考えを示している

 ・トランプの前方展開戦力の後退の思想の背景には、「オフショア・バラン
  シング」の考えがある

 ・「オフショア・バランシング」とは「特定の大国が、想定される敵国が力
  をつけてくるのを、自分に好意的な国を利用して抑制させる」(孫崎享
  『不愉快な現実』73ページ)考え

 ・つまりオフショア・バランシングは、アメリカがアメリカを守るために、
  自国の軍隊を展開せずに、日本の自衛隊を使って前線への影響力を保とう
  というもの

● 米中2大国の支配による日本の役割の変化

 ・トランプ政権の「アメリカ第一」は、中国との「G2戦略」にもとづいて
  いる

 ・2011年に中国がGDPで日本を追い抜いて以来、アメリカは、米中相互間の
  核保有を認めたままで、21世紀を形づくるオフショア・バランシングの「  G2戦略」に突入

 ・G2戦略とは、米中2大国間で世界を調整し、支配するという新しい植民
  地政策であり、アメリカは東アジアから部分的に撤退を図るが、その分を
  日本の自衛隊で穴埋めさせようというもの

 ・つまり「俺(アメリカ)は中国と関係強化に努める。お前(日本)は万が
  一のため、中国敵視政策を続けていけ」というもの

 ・トランプ戦略は、そのままアメリカと日本との矛盾となってあらわれる

 ・すなわち、アメリカは自衛隊に最新鋭の軍備を与えて自分は後方に引こう
  としているのに対し、アベ政権は「アメリカは日本を守ってくれる」と信
  じて、アメリカのいうがままの軍備増強に努めている

● アベ首相は、トランプのオフショア・バランシングに乗っかって、「日本
 を守るため」といいつつ自衛隊の増強に努めている

 ・アベ首相は、アメリカを信じて「安保条約を堂々たる双務性にしたい」と
  して、「アメリカが攻撃されたときに日本の自衛隊はたたかわない」との
  トランプの発言に応えようとしている

 ・そのためにアメリカの最新鋭の軍備を"爆買い"しようとしている

 ・アベ首相は、2017年12月にイージス・アショア導入の閣議決定

 ・しかし、2018年4月南北首脳会談、6月米朝首脳会談により、一挙に朝鮮
  半島の緊張は緩和したにもかかわらず、アメリカは米軍隊を守るためにイ
  ージズ・アショアを日本に購入させた

 ・さらに護衛艦「いづも」の空母化は、空母をもつ「中国への敵対心」(半
  田滋『先制攻撃できる自衛隊』184ページ)からであり、その攻撃型空母
  に搭載するため、最先端の完全なステルス機能をもつF35 B42機を爆買い

 ・それ以外にも、日本は中国、ロシアを視野に長距離戦略爆撃機、さらには
  大陸間弾道ミサイルをも手に入れようとしている

 ・しかし、これらの自衛隊の増強が、アメリカのオフショア・バランシング
  として、「アメリカを守る」ために、中ロを視野に、無制限に武力強化し
  ようというものであることが判明するとき、アベ政権の「日本を守る」た
  めに「日米同盟体制の強化」という根拠は失われてしまう

 

3.日本の階級闘争

● 市民の階級闘争が日本の平和を守る

 ・国連は、国連憲章のなかで、非政府組織の役割を認めており、1990年代以
  降、核兵器、平和と軍縮の問題で市民の参加が飛躍的に拡大

 ・つまり、日本での階級闘争の発展が、日本と世界の平和を守る原動力とな
  る

 ・マルクス、エンゲルスが提起した「労働者階級の解放をめざす一般的闘争
  の構成部分」が平和を求める階級闘争であることを実感しうる時代となっ
  てきた

● 核兵器禁止条約の早期発効の実現

 ・5大国は、核兵器を独占し、それを背景に集団的自衛権を行使しようとす
  る、現代の戦争勢力である

 ・戦争勢力の中心となっているのが、アメリカとロシア、中国

 ・2019.10 被団協は被爆者国際署名を1051万人分国連総会第1委員会(軍
  縮・国際安全保障)に提出したが、世界最初のヒバク国民として、何とし
  ても批准国50ヵ国をめざして、核兵器禁止条約の早期発効を実現すべき

 ・そうなれば、5大国の核保有を追いつめ、核兵器廃絶に追い込むことがで
  きる

 ・同時に核兵器禁止条約の早期発効は、核の傘のうちにある日米安保条約へ
  の批判を強め、9条を守る力を育てる

● 安倍改憲を許さない

 ・9条は、いまや全世界の「戦争か平和か」をめぐる階級闘争の最前線にた
  っており、安倍改憲を絶対に許してはならない

 ・それと同時に、9条が第2次大戦での日本の植民地支配の反省のうえに誕
  生した国際的な平和原則であることを明らかにして、韓国や北朝鮮とも友
  好関係を築く必要がある

 ・日本が、韓国、北朝鮮と平和協力体制を築けば、ASEANとも連携して、
  アジア全域の軍事的緊張関係を解きほぐし、世界平和に大きく貢献するこ
  とになる

● 日米安全保障条約を廃棄する

 ・日本が世界の平和勢力になるうえで、何より重要なことは、安保は「日本
  を守る」ためのものではなく、「アメリカを守る」ためのものであるのを、
  徹底して明らかにして世論を動かし、安保を廃棄することにある

 ・そのためにも、今後トランプの「アメリカ第1」の安保政策とアベ政権の
  安保政策との対立と矛盾に注目する必要がある

 ・安保廃棄のために必要なことは、野党連合政権をつくって、アメリカに対
  し安保の終了通告をすることであり、それにより安保条約10条によって安
  保を廃棄することができる

 ・安保条約を廃棄すれば、米軍を撤退させ、すべての米軍基地の返還を実現
  することができるし、その後に日本はアメリカと日米友好条約を結んで、
  日米間の対等・平等な友好関係を築くことができる

 ・安保を廃棄すれば、日本は9条を掲げて非同盟諸国会議に参加し、国連の
  なかで平和を守る活動の先頭にたち、「国際社会において、名誉ある地位」
  (憲法前文)を占めることができる

 ・これが日本国憲法の示す平和への道である