2019年12月21日 講義

 

 

第3講 自由と平等1

 

1.自由と平等は、未来社会の基本原理

● 科学的社会主義の学説は、未来社会を、社会主義・共産主義の社会として
 とらえる

 ・社会主義・共産主義とは、「人間解放」の社会である

 ・「人間にとっての根本は、人間そのもの」(全集① 422ページ)であり、
  人間解放とは、人間を「人間にとっての最高の存在」(同)にすること

 ・人間解放の中心課題は、生産手段の社会化により、資本家階級による労働
  者階級の搾取を廃止し、資本家階級を廃止することで資本家階級と労働者
  階級の階級対立をなくすことにある

● マルクス・エンゲルスの未来社会

 ・マルクス、エンゲルスは、人間解放の未来社会を、「自由で平等なアソシ
  エーション」としてとらえた

 ・アソシエーションとは、ルソーが『社会契約論』で明らかにした、「各人
  が、すべての人びとと結びつきながら、しかも自分自身にしか服従せず、
  以前と同じように自由である」(『社会契約論』29ページ)社会

 ・マルクスは、ルソーのアソシエーションに学んで、「真の共同体において
  は、諸個人は、彼らのアソシエーションのなかで、またアソシエーション
  をとおして、同時に彼らの自由を獲得する」(『〈新訳〉ドイツ・イデオ
  ロギー』85ページ)と述べている

 ・人間は、個と普遍の統一であり、個として個人であると同時に、普遍とし
  て人間社会の一員

 ・人間は個人であると同時に、人間社会の一員として共同社会性をもってお
  り、個人としての自由と、共同社会性としての平等を統一した連合体がア
  ソシエーションである

 ・マルクスは、1866年 第1インターの評議会代議員への指示として、協同
  組合運動は、現在の専制的制度を「自由で平等な生産者のアソシエーショ
  ン」(全集⑯ 194ページ)におきかえるものだと主張している

 ・またエンゲルスは、1884年『家族、私有財産および国家の起原』におい
  て、 階級と国家が死滅したのちの社会を、「生産者の自由で平等なアソシ
  エーションを基礎として生産を組織しかえる社会」(全集㉑ 172ページ)
  と規定している

 ・これを受けて日本共産党も、「終局の目標として、人間による人間の搾取
  もなく、抑圧も戦争もない、真に平等で自由な人間関係からなる共同社会
  の実現をめざす」(規約2条)としている

 ・科学的社会主義がめざす、社会主義・共産主義の社会がなぜ「自由で平等
  なアソシエーション」なのかについて、マルクスもエンゲルスもとくに説
  明をしていない

 ・「自由で平等なアソシエーション」が、真に未来社会の基本原理になりう
  るのか、について検討してみたい

 

2.人間の本質と、人間疎外からの解放

● 人間の本質

 ・人間も、すべての事物と同様に本質と現象をもつ

 ・人間の本質は、700万年の人類史のうち、99%以上に相当する原始共同体
  をつうじて形成された

 ・モーガンの『古代社会』は、原始共同体である氏族社会を分析し、「自由、
  平等、友愛は、定式化されたことは一度もなかったが、氏族の根本原理で
  あった」(全集㉑ 92ページ)と述べ、自由、平等が人間の本質であった
  としている

 ・マルクスは、「人間自身は、彼らがその生活手段を生産......しはじめるや
  いなや、みずからを動物から区別しはじめる」(『〈新訳〉ドイツ・イデ
  オロギー』17〜18ページ)としている

 ・人間は、生産活動をすることによって、人間の本質を形成していく

 ・すなわち人間は、生産活動をつうじて「自由な意識的な活動」(全集㊵
  437ページ)を身につける

 ・「自由な活動」は、「自由」という「価値」を生みだす

 ・同時に人間は、社会において他の人間と共同して生産活動をすることによ
  り、「共同社会性」という本質を身につける

 ・マルクスは「人間の本質は、人間が真に共同的な本質であることにある」
  (同 369ページ)として、人間のもう1つの本質が「共同社会性」にある
  ことを示した

 ・原始共同体は、狩猟・採集による生産性が低い社会であったため、「共同
  社会性」とは、みんなで生産し、みんなで消費する「平等」な社会であっ
  た

 ・こうして人間の「共同社会性」は、「平等」という2つめの価値を生みだ
  した

 ・したがって人間の本質は「自由と平等」という2つの価値として示される

 ・しかし階級社会において、自由と平等という人間の2つの「本質」は疎外
  され、 表面には不自由と不平等の「現象」が支配している

● 人間の本質の疎外

 ・人間社会は、狩猟・採集から農耕・牧畜に発展することにより、生産力を
  発展

 ・科学的社会主義の学説は、未来社会を、社会主義・共産主義の社会として
  とらえる

 ・社会主義・共産主義とは、「人間解放」の社会である

 ・「人間にとっての根本は、人間そのもの」(全集① 422ページ)であり、
  人間解放とは、人間を「人間にとっての最高の存在」(同)にすること

 ・人間解放の中心課題は、生産手段の社会化により、資本家階級による労働
  者階級の搾取を廃止し、資本家階級を廃止することで資本家階級と労働者
  階級の階級対立をなくすことにある

 ・マルクス・エンゲルスの未来社会

 ・マルクス、エンゲルスは、人間解放の未来社会を、「自由で平等なアソシ
  エーション」としてとらえた

 ・アソシエーションとは、ルソーが『社会契約論』で明らかにした、「各人
  が、すべての人びとと結びつきながら、しかも自分自身にしか服従せず、
  以前と同じように自由である」(『社会契約論』29ページ)社会

 ・マルクスは、ルソーのアソシエーションに学んで、「真の共同体において
  は、 諸個人は、彼らのアソシエーションのなかで、またアソシエーション
  をとおし て、同時に彼らの自由を獲得する」(『〈新訳〉ドイツ・イデオ
  ロギー』85ページ)と述 べている

 ・人間は、個と普遍の統一であり、個として個人であると同時に、普遍とし
  てさせて私有財産を生みだし、階級社会(奴隷制社会)に突入する

 ・階級社会では、搾取階級が被搾取階級の人間の本質を疎外する

 ・搾取は、自由を疎外する。つまり、生産者が自由な意識のもとづいて生産
  した労働生産物は、搾取階級によって生産者から取り上げられ、自由は否
  定される

 ・さらに階級社会は、搾取による階級対立により、政治的・経済的不平等を
  生みだし、平等も否定される

 ・疎外された人間の本質は、人間の根底に奥深く根づいているが、表面的に
  は、現象が支配している

 ・搾取にもとづく自由と平等の疎外は、自由と平等の回復を求める被搾取・
  被支配階級の階級闘争を生みだす

 ・したがって、人間解放のより高い社会段階は、階級闘争の発展により、「
  古代 の氏族の自由、平等、友愛の復活—ただし、より高い形態における復
  活となるであろう」(全集㉑ 177ページ)

● 人間解放とは疎外からの解放

 ・マルクスは、本来なら人間の支配に服するべき人間の社会的産物が、逆に
  人間を支配し、人間に敵対する力としてあらわれ、人間の本来の姿が失わ
  れることをもって、人間疎外とよんだ

 ・人間疎外の中心をなすのが、搾取・支配階級の搾取と抑圧による被搾取・
  被支配階級の人間の本質の疎外

 ・人間解放の階級闘争は、被搾取・被支配階級の人間疎外からの解放を求め
  るもの

 ・人間解放をめざす階級闘争は、人間の本質としての自由と平等を「より高
  い形態に」発展させる

 

3.「自由と平等」概念の発展

● 封建制からの解放を求める階級闘争は、「自由と平等」概念を発展させる

 ・「封建制にたいするブルジョワジーの長い闘争は、3つの大決戦で頂点に
  達した」(全集⑲ 553ページ)

 ・資本主義を生みだしたのはドイツのプロテスタント宗教改革、イギリスの
  ピュ ーリタン革命、そしてフランス大革命の3大決戦

 ・フランス革命を理論的に指導したのが、ジャン・ジャック・ルソー(1712
  〜1778)

 ・ルソーは、『人間不平等起原論』において、自然状態の人間は平等であっ
  たが、私有財産制によって不平等が生まれたと主張

 ・また『社会契約論』において、「人間は自由なものとして生まれた、しか
  もいたるところで鎖につながれている」として、人民主権の社会契約国家
  により、「自由と平等」(『社会契約論』77ページ)を実現しようと呼び
  かけた

 ・こうしてフランス大革命は、スローガンとして「自由、平等、友愛」をか
  かげる階級闘争となった

● 資本主義社会における「自由と平等」概念の分裂と対立

 ・なぜフランス革命でブルジョアジーとプロレタリアートは「自由と平等」
  のために、ともにたたかうことができたのか

  ・それは、資本主義的搾取は、奴隷制社会や封建制社会のように、搾取が「
  流通過程」で生じるのではなく、目にみえない「生産過程」で生じるから
  である

 ・つまり労働契約とは、労働市場という流通過程において、労働者のもつ労
  働力という商品と、資本家のもつ金銭という商品との等価交換であるが、
  そこに支配しているのは誰もが商品所有者として自由であり、平等である
  という自由 ・平等の原理

 ・「労働力の売買がその枠内で行なわれる流通または商品交換の部面は、実
  際、天賦人権の真の楽園であった。ここで支配しているのは、自由、平等、
  所有およびベンサムだけである」(『資本論』② 300ページ)

 ・搾取は、「生産過程」において、労働力という商品が労働力のもっている
  価値以上の価値物を生産しうる、という「独特な使用価値」(同 330ペー
  ジ)をもっている ところから生じるのであって、「地獄への道はよき意図
  で舗装されている」(同 326ページ)のであり、目にみえない

 ・そこから、封建制社会の身分的束縛と不平等を批判し、自由な個人の「理
  性の国」を認めあう、ブルジョアジーとプロレタリアートの共闘が生まれ
  た

 ・しかし、資本主義が発展するなかで、目にみえない搾取の事実は表面化し、
  ブルジョアジーとプロレタリアートの「自由と平等」は対立し、分裂して
  くる

 ・資本家階級は、利潤第一主義という搾取を押し隠し、資本主義を流通過程
  からみた「自由と平等」の社会として謳歌する

 ・労働者階級は資本主義の生産過程に注目して、搾取を指摘して資本主義的
  な「自由と平等」を批判し、搾取も階級もない「真の自由と真の平等」を
  求めて、その後の歴史のなかで「自由と平等」概念の発展を求める

 

4.「自由」概念の発展

● へーゲル(1770〜1831)は、ルソーの自由論を発展させた

 ・へーゲル哲学は、「ひたすら革命の哲学であり、フランス革命の問題をひ
  たすら中心的な核としている哲学は、他には1つもない」(リッター『へ
  ーゲルとフランス革命』19ページ)

 ・へーゲルは、ルソーの自由論を引き継ぎ、カントの「理性のアンチノミー
  」(『小論理学』㊤ 248ページ)を発展させて、「真の自由」(同㊦ 119
  ページ)を確立した

● カントのアンチノミー(二律背反)とへーゲルの批判

 ・カントは、『純粋理性批判』のなかで、自由の問題をアンチノミーとして
  論じた

 ・カントは、「世界は必然性によって支配されているのか、それとも自由な
  存在なのか」という問題を提出し、こういう「無限なものを認識しようと
  すれば、矛盾(アンチノミー)におちいる」(『小論理学』㊤ 186ページ)
  として、認識可能性を否定 する不可知論にたった

 ・これに対しへーゲルは、世界のすべてのものは、矛盾をもっているのであ
  り、 矛盾する「2つの規定が、事実上統一のうちにある」(同 188ページ)
  とする弁証法的認識こそ真理をとらえうるものと主張した

● 自由と必然

 ・へーゲルは、「悟性が自由および必然のもとに理解しているものは、実は
  真の自由および真の必然の観念的なモメントにすぎず、両者が分離される
  場合、それらは真理を持たないことがわかる」(同 188ページ)として、
  自由と必然の統一のうちに真の自由と真の必然という真理があると主張し
  た

 ・すなわち、真の自由とは、必然そのものを認識するのみならず、「必然を
  前提し、それを揚棄されたものとして自己のうちに含んでいる」(『小論
  理学』㊦ 116ページ)ことであり、「概念(真にあるべき姿—高村)その
  ものは、必然の力と真の自由を実現するもの」(同 119ページ)としてい
  る

 ・つまり、真の自由とは、客観世界の必然性(法則性)を認識し、かつ必然
  性を 揚棄して、「真にあるべき姿」としての概念を認識する「概念的自由」
  にあると考えた

 ・この立場から、へーゲルは必然性との関わりにおいて、自由を段階的に発
  展する次の4段階としてとらえた

 ・第1は、必然性から逃れて自由になろうとする、引きこもりの「否定的自
  由」

 ・第2は、必然性を無視して決定するという、軽率さを持つ、形式は自由だ
  が、 内容は不自由という「形式的自由」

 ・第3は、必然性を認識して決定するという、必然性に拘束される不自由さ
  をもつ「必然的自由」

 ・第4は、必然性を認識し、それを揚棄して概念をとらえる「概念的自由」

 ・へーゲルは、4段階の自由を明確にするなかで、資本家階級のいう「自由」
  とは、取引の自由であって、せいぜい第3段階の自由にとどまることを批
  判した

 ・こうしてへーゲルは、「必然から自由への、あるいは現実から概念への移
  りゆきは、最も困難なものである」(同 118ページ)として、真の自由で
  ある「概念的自由 (自由な意志により真にあるべき姿をとらえる—高村)」
  をとらえることの困難性と重要性を指摘している

 ・ここにへーゲル哲学は、変革の立場から自由を論じ、「ひたすら革命の哲
  学」であることを証明した

● 人間は概念的自由をとらえることにより、社会変革をめざす

 ・へーゲルは、現実性がもつ必然性のうちに矛盾を見いだし、その矛盾を解
  決するものとして「概念的自由(理想)」をとらえることにより、理想と
  現実の統一を実現しうるという変革の立場を明らかにした

 ・マルクスは、へーゲルに学び、資本主義社会の矛盾を見いだし、その矛盾
  を解決するものとして社会主義という概念的自由をとらえた

 ・現代における社会変革も、社会主義という概念的自由を大枠としながら、
  現代社会における具体的矛盾をとらえ、その矛盾を揚棄する概念的自由を
  とらえることで、社会主義に向かう社会変革の道すじ見出すことができる