2020年1月18日 講義

 

 

第4講 自由と平等2

 

1.「平等」概念の発展

● ルソーの平等論の発展

 ・ルソーが提起した平等論は、人間が人間社会の一員として「共同社会性」
  を本質としてもつことを表現したもの

 ・しかし、その後の階級闘争の発展のなかで、ルソーの平等論は、内包と外
  延の2方向に発展する

 ・内包の発展とは、平等は「階級の廃止」まで意味することであり、外延の
  発展とは、平等は「共同社会性」を発展させる規範として、人民主権の「
  民主主義」の一構成部分をなす、ということである

● 平等論の内包的発展

 ・平等の概念は「ルソーによってある理論的な役割を演じ、〔フランス〕大
  革命のさいやそれ以後には、実践的=政治的な役割を演じ、今日なおほと
  んどすべての国の社会主義運動においていちじるしい扇動的な役割を演じ
  ている」(全集⑳ 107ページ)

 ・平等概念が社会的に問題になった契機は、フランス革命で「自由、平等、
  友愛」がスローガンとなって以来のこと

 ・フランス革命は、政治的な平等という「ブルジョワ的な平等」(同 110ペ
  ージ)を求めた

 ・しかし階級闘争をつうじて平等概念は発展する

 ・「フランスのプロレタリアートは、ことあるごとに社会的・経済的平等の
  要求を持って、これにこたえており、平等はとくにフランスのプロレタリ
  アートの戦いの叫びとなっている」(同)

 ・「プロレタリア的な平等の要求のほんとうの内容は、階級の廃止という要
  求である」(同 111ページ)

● 平等論の外延的発展

 ・アメリカの独立宣言(1776)とフランスの人権宣言(1789)は、近代民
  主主義の 諸原則を確立して、ルソーの平等論を民主主義論に発展させた

 ・それは、資本主義の搾取の自由は認めながらも、人民主権を柱として自由
  ・ 平等を核心とする思想・政治形態であった

 ・マルクス、エンゲルスは、パリ・コミューン(1871)の経験もふまえなが
  ら、「搾取の自由」の制限を打ち破り、「近代民主主義」をさらに発展さ
  せた「科学的社 会主義の民主主義」を打ち出す

 ・それは第1に、真の人民主権の民主共和制であり、すべての人民の普通選
  挙権を保障する。第2に、生産手段を社会化することにより、格差と貧困
  を解 決し、人間として平等に生きる権利を保障する。第3に、市民的・政
  治的な自由と民主主義を制限なしに保障する。第4に、レーニンは、科学
  的社会主義の民主主義の思想を発展させ、「民族自決権」という民主主義
  を生みだした

● 現代民主主義としての民族自決権

 ・レーニンは、1917年のロシア革命をつうじて、民族自決権の承認を、民主
  主義に不可欠な原理として主張した

 ・「民族の自決とは、ある民族が他民族の集合体から国家的に分離すること
  を意味し、独立の民族国家を形成することを意味している」(「民族自決
  権について」レーニン全集⑳ 423ページ)

 ・この民族自決権の訴えは、植民地・従属国を励まし、20世紀が国際的な民
  族解放運動の高揚をもたらす契機となり、20世紀初頭に20ヵ国だった独立
  国は、いまや196ヵ国となっている

 ・国際人権規約(A規約)第1条は、「すべての人民は、自決の権利を有す
  る」と明記して民族自決権を国際的に承認された人権として確認している

 ・「植民地体制の崩壊と百を超える主権国家の誕生という、20世紀に起こっ
  た世界の構造変化は、21世紀の今日、平和と社会進歩を促進する生きた力
  を発揮しはじめている」(綱領改定案)

 

2.「自由と平等」から「自由と民主主義」へ

● 科学的社会主義の学説は「自由と平等」の概念を「自由と民主主義」の概
 念に発展させる

 ・科学的社会主義の学説は4つの自由を認めたうえで「真にあるべき姿」を
  とらえるところに真の自由があるとし、また平等概念を発展させた民主主
  義のうちに、人間の本質である「共同社会性」を実現する真の民主主義が
  あるととらえた

 ・マルクス、エンゲルスは『共産党宣言』(1848)において、「労働者革命
  の第一歩はプロレタリアートを支配階級の地位に高めることと、民主主義
  をたたかいとること」(同 494ページ)として、民主主義を主張している

 ・つまり、マルクス、エンゲルスは、人間の類本質としての「共同社会性」
  を実現するものは、単なる平等ではなくて、平等をうちに含む、人民主権
  の民主主義のアソシエーションとしてとらえたもの

●「自由で平等なアソシエーション」は「自由と民主主義のアソシエーショ
 ン」に発展した

 ・現在では平等概念は、平等概念をうちに含む、より広い民主主義概念に発
  展した

 ・日本共産党が第13回臨時大会で発表したのも、「自由と民主主義の宣言」
  となっている

 ・社会主義的変革は、「自由と民主主義の諸制度を......継承し発展させる」
  (綱領改定案)

 

3.「自由と民主主義」概念の今日的意義

● 自由と民主主義は相互前提関係にある

 ・自由が民主主義を実現し、民主主義が自由を実現する

 ・「真の共同社会においては、諸個人は、彼らのアソシエーションのなかで、
  またアソシエーションをとおして、同時に彼らの自由を獲得する」(『 〈
  新訳〉ドイ ツ・イデオロギー』85ページ)

 ・ここにいうアソシエーションとは、人民主権の民主主義を実現する共同社
  会を意味していると解すべき

● 未来社会の理念としての「自由と民主主義」

 ・マルクス、エンゲルス、さらには日本共産党も、人間解放という未来社会
  の究 極的な理念を「自由で平等なアソシエーション」としてとらえたが、
  今日では 「自由と民主主義のアソシエーション」というべき

 ・科学的社会主義の学説は、この窮極の理念に向かって変革の立場を貫いて
  いく、変革の学説である

 ・それは、当面のさしせまった課題を一つひとつ解決しながら、「自由と民
  主主義のアソシエーション」に向かって、一歩ずつ社会を前進させていく
  立場

● 人類に未来はあるのか

 ・しかし、人類の未来を脅かすものとして、資本主義社会のもたらした核戦
  争と気候変動の問題が横たわっている

 ・核戦争と気候変動問題を解決しないかぎり、「自由と民主主義のアソシエ
  ーション」に向かって前進し、到達することはできない

 ・核戦争の問題は、アメリカと中国、ロシアの3ヵ国は、相互対峙のなかで
  核保有に固執しているのに対し、平和を愛する世界人民は、核兵器禁止条
  約の発効にむけて手を結んでいる

 ・これに対し、気候変動の問題は、生産力を無限に発展させようとする資本
  主義生産様式の傾向から、歯止めがかからない状況が続いている

 

4.気候変動問題と科学的社会主義の立場

● 巨大に発達した生産力を制御できないという資本主義の矛盾

 ・綱領改定案は生産力を制御できない世界資本主義の諸矛盾として、貧富の
  格差の拡大と気候変動の2つをあげている

 ・「資本主義的生産様式の矛盾は、まさに、生産諸力の絶対的発展へのこの
  生産様式の傾向にこそあるのであり、この発展は、資本が......そのもので
  のみ運動しうる独特な生産諸条件とつねに衝突する」(『資本論』⑨ 439
  ページ)

 ・「地球的規模でさまざまな災厄をもたらしつつある気候変動は、資本主義
  が21世紀に生き残る資格を問う問題となっており、その是正・抑制を求め
  る諸国民のたたかいは、人類の未来にとって死活的意義をもつ」(綱領改
  定案)

● パリ協定(2015)

 ・約200ヵ国・地域が参加して締結された「パリ協定」は、世界の平均気温
  上昇を、産業革命前と比べ、2°Cより十分低くおさえ、1.5°Cに抑える努
  力目標をかかげた

 ・「協定」は21世紀後半までに、温室効果ガスの排出量を実質ゼロ(排出量
  と吸収量を均衡させる)とする方向を打ち出す

 ・昨年10月の国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、1.5°Cに上
  昇した世界に焦点を当てる「1.5°C特別報告書」によると、2030〜52年の
  間に1.5°Cに到達する可能性が高く、各国の掲げる目標では、3°Cの上昇
  が見込まれると指摘

 ・国連環境計画(UNEP)が2019.11に公表した温暖化対策年次報告書では、
  現在決定されている対策によると、30年に気温は「3.2°Cに上昇する」と
  予測し、日本にも追加対策が必要と指摘

 ・2019.9 の「国連気候変動サミット」で、グレタ・トゥンベリさんは、「
  生態系全体が崩壊しつつある。私たちは大量絶滅のとば口にある」と訴え
  た

 ・持続可能な開発目標に関する国連の最新報告書(2019.9)は、「最も緊急
  に行動が必要な分野が気候変動だ。影響は破局的で取り返しがつかなくな
  ってしまう。気候変動に対し、決定的な行動を取る時間はなくなっている」
  と強調

● 科学的社会主義の気候変動にたいする立場

 ・「人間は絶えず自然力に支えられている」(『資本論』① 73ページ)の
  であって、労働は「人間と自然との物質代謝を、それゆえ人間的生活を、
  媒介する永遠の自然必然性である」(同)

 ・労働は、「人間がそれによって自然との物質代謝を媒介する人間一般の生
  産的活動」(同⑬ 1427ページ)であり、「生命の発現および生命の実証
  として、およそまだ非社会的な人間にも、なにほどか社会的に規定された
  人間にも、共通なものである」(同)

 ・マルクスは、労働とは「人間と自然との物質的代謝」であり、人間は社会
  形態のいかんにかかわらず、労働による「生産的活動」によって、人間と
  して生きていくことができるのであり、その意味で「自然力に支えられて
  いる」としている

 ・気候変動は、「人間と自然との物質代謝」を破壊するもの

 ・では、未来社会の社会主義社会では、「人間と自然との物質代謝」はどう
  すべきなのであろうか

 ・「必然性の国」である本来の物質的生産の領域における自由は「アソシエ
  イテッドな生産者たちが、自分たちと自然との物質代謝によって......支配
  されるのではなく、この自然との物質代謝を合理的に規制し、自分たちの
  共同の管理のもとにおくこと、すなわち、最小の力の支出で、みずからの
  人間性にも っともふさわしい、もっとも適合した諸条件のもとでこの物質
  代謝を行うこと、この点だけにありうる」(同⑬ 1435ページ)

 ・マルクスは、生産力を無制限に発展させようとする資本主義は、「人間と
  自然との物質代謝」を破壊するものであって、未来社会においては、「こ
  の自然との物質代謝を合理的に規制」し、「もっとも適合した諸条件のも
  とでこの物質代謝を行うこと」にあると主張している

 ・すなわち、生産力を無制限に発展させようとする資本主義は、人間が気候
  という「自然力に支えられている」ことを忘れ、人類の存亡にかかわる気
  候変動をもたらしているのであり、それを持続可能な生産力をもつ未来社
  会に変革することにより、気候変動問題を解決しうるとした

 ・つまり、「人間と自然との物質代謝」を、「人間と自然との持続可能な物
  質代謝」に変革することで、気候変動問題を解決しようというのである

● 斉藤幸平大阪市立大学准教授のインタビュー(10.3 朝日)

 ・斉藤氏は、アメリカ、ドイツで経済学を学び、地球環境問題をつうじて「
  マルクスの再評価」が必要だと主張する

 ・すなわち、マルクスの『資本論』は「人間の生活の本質は『自然とのたえ
  ざる物質代謝』にある」と考えていたが、「資本主義ではこの人間と自然
  との関わり合いが徹底的にゆがめられ、両者の破壊」を引き起こす

 ・グレタ・トゥンベリさんのスピーチは、「経済成長が必須の資本主義のも
  とでは気候変動問題に対処できない」とのメッセージ

 ・「国連の昨年の報告書でさえ、経済成長だけを求めるモデルは持続可能性
  がない、として脱成長モデルを検討」

 ・斉藤氏のインタビューは、「人間と自然との持続可能な物質代謝」の未来
  社会を示唆している

● 気候変動問題を解決してこそ未来社会への展望が開ける

 ・「自由と民主主義のアソシエーション」という人類の理想も気候変動問題
  を解 決してこそ展望が開ける

 ・その意味で、気候変動問題は、「人類の未来にとって死活的意義をもつ」
  (綱領改定案)