2020年5月16日 講義

 

 

第8講 本質と現象

 

1.本質と現象の統一

● すべての事物は、本質と現象の統一

 ・現象とは、有為転変する事物の表面的な姿

 ・本質とは、現象の背後に隠されている事物の「真の姿」であり、事物の不
  変な姿

 ・本質と現象とは、対立する相互媒介の関係にある

 ・本質は現象するものであるが、現象は「単なる現象」であり、本質がその
  ままの姿であらわれることもあれば、本質が歪んだ形であらわれることも
  ある

 ・現象のなかには本質があり、したがって現象を通して、本質を探究するこ
  とができる

● 客観世界の真理は、本質にある

 ・客観世界に存在する事物はすべて現象である

 ・現象のなかから本質を発見するところに科学の役割がある

 ・客観世界の本質のなかにも矛盾があり、その矛盾を揚棄して、より発展し
  た本質に変革するところに、人間の存在の意義がある

 ・本質と現象の対立と闘争を、社会変革の見地から、人間、国家、選挙の3
  つの側面から考察してみる

 

2.人間の本質と現象

● 人間の本質の形成

 ・人間は、人類史の99%以上を占める原始共同体をつうじて、人間としての
  本質を形成してきた

 ・人間の本質は、人間は生きるために衣、食、住を生産しなければならない
  という「物質的生活そのものの生産」(『〈新訳〉ドイツ・イデオロギー』
  35ページ)から生じる

 ・生産活動は、1つには生産のための「自由な意識的な活動」(全集㊵ 436
  ページ)、2つには共同して生産することによる「人間が真に共同的な本
  質であるこ と」(同 369ページ)という、人間の2つの本質を生みだした

 ・すなわち、人間の本質は「自由な意識」と「共同社会性」であり、その本
  質を価値として表現したものが、自由と平等(民主主義)である

 ・モーガンの『古代社会』(原始共同体の社会)では、「自由、平等、友愛
  は、定式化されたことは1度もなかったが、氏族の根本原理であった」(
  全集㉑ 92ページ)として、自由と平等(民主主義)を人間の本質として
  とらえている

● 階級社会における人間疎外の現象

 ・原始共同体以後の階級社会では、搾取階級によって人間の本質を奪う人間
  疎外という現象が生じる

 ・すなわち、階級社会にあって、搾取階級は生産者の自由な意識を対象化し
  た労働生産物を奪い、生産者の「自由な意識」は否定される

 ・また階級社会においては、対等、平等な「共同社会性」は奪われ、搾取階
  級は支配と従属の関係をつくり出す

 ・しかし現象としての人間疎外は、人間の本質を現象によって覆いかくすも
  のではあっても、人間の本質そのものを奪いつくすものではない

 ・というのも、人間の本質は、時代が変わっても不変のものだからである

 ・人間の本質は、「良心」となって心のうちにとどまって、人間疎外の現象
  を打ち破り、人間解放を求める

● 階級闘争としての人間解放

 ・人間は、人間解放による人間の本質の回復を求めて階級闘争に立ちあがる

 ・階級闘争は、政治闘争、経済闘争、理論闘争という3つの側面をもつ

 ・階級闘争は歴史発展の原動力であり、なかでも国家、政治、法をめぐる政
  治闘争がもっとも重要な階級闘争となる

 

3.国家の本質と現象

● 国家における本質と現象

 ・人間解放の社会変革を実現するには、まず国家権力をもつ国家そのものを
  変革する政治闘争が必要となる

 ・そのためには、国家の本質と現象を解明する必要がある

 ・国家は、そもそも全構成員の共同の利益を守る存在として誕生したが、次
  第に「公的強力」(全集㉑ 169ページ)を所持して、支配階級による階級
  支配の機関 としての性格を帯びるようになった

 ・「国家は階級対立を抑制しておく必要から生まれたもの」(「家族、私有
  財産 および国家の起原」全集㉑ 170ページ)であり、支配階級は「被抑圧
  階級を抑圧 し搾取するための新しい手段を手に入れ(た)」(同170〜171
  ページ)

 ・したがって国家は、全構成員の共同の利益を実現する「現象」をもちなが
  らも、支配階級の利益を実現する「本質」をもつことによる搾取する階級
  の「階級支配の機関」である

 ・支配階級も、普通選挙により国会議員が選出されるところから、表面的に
  は共同の利益実現を目的に掲げざるをえないが、それはあくまで「現象」
  にすぎず、「本質」は、階級支配の機関にある

 ・したがって共同の利益実現という現象は、国家の本質を押し隠すいちじく
  の葉に過ぎず、常に切りすてられる運命にあると同時に、階級支配のため
  の軍隊、警察、裁判所などの強力機関は強化される

● 政治の本質と現象

 ・国家のもつ本質と現象は、国家の機能としての政治に反映する

 ・まず政治において、搾取する階級は、共同の利益を実現するという現象を
  もちながらも、搾取する階級の階級支配の機関という本質をつらぬく

 ・したがって、資本主義の国家は財界、大企業の利益をつらぬきつつ、福祉、
  医療、年金、教育などの共同利益に関する予算は切りすてようとする

 ・これに対して被支配階級を代表する労働者階級は、共同の利益の擁護を国
  家の本質に高めようとし、財界、大企業の利益を守ることは現象にすぎな
  いとして排除しようとする

 ・階級を廃止するための「唯一の手段はプロレタリアートがその手に政治権
  力を握ること」(全集⑰ 389ページ)であり、労働者階級はそのために政
  治にたずさわる

● 法の本質と現象

 ・国家のもつ本質と現象は、国家の施行する法に反映する

 ・第2次大戦後日本は敗戦国となり、ポツダム宣言によって、平和で民主的
  な国家に生まれ変わることになり、帝国憲法にとってかわる新しい憲法の
  制定が問題となった

 ・日本共産党は「日本共産党憲法草案」を発表し、天皇制を廃止し、「人民
  共和国の主権は人民にある」とした

 ・アメリカと日本の支配階級は、人民を支配するために天皇制を残すことを
  最大の課題にし、主権在民の原則を明記せず、「国民の総意が至高のもの」
  とするあいまいな憲法草案を発表

 ・階級闘争の結果、制定された新憲法では、天皇は象徴にとどまり、主権在
  民の原則が憲法に盛り込まれ、戦争放棄と幅広い人権宣言が定められた

 ・こうして日本国憲法は、国民の共同の利益を守る、日本における法体系の
  本質となった

 ・中国革命の前進をまえに、占領軍アメリカは対日占領政策を転換し、1951
  .9 サンフランシスコ講和条約と抱き合わせで、日米安保条約を締結

 ・日米安保は、アメリカの後押しのもとで、日本における法の現象として君
  臨している

 ・以後、安保条約のもとで、対米従属と自衛隊の増強・海外派兵の道に

 ・こうして日本の法体系は、日本国憲法という本質と安保法制という現象と
  の、2つの法体系の対立・矛盾のうちに置かれている

 ・資本家階級は、共同の利益を実現する日本国憲法を単なる現象にすぎない
  ととらえ、資本家階級の利益を守る安法制を本質とする法体系をつくろう
  とする

 ・これに対し労働者階級は、日本国憲法を法の本質ととらえ、安保法制は憲
  法に違反する現象にすぎないとして廃棄しようとする

● 国家をめぐる階級闘争

 ・階級闘争は、国家、政治、法をめぐって、搾取する階級による階級支配の
  機関を本質とする勢力と、搾取され、抑圧される階級の、共同の利益を現
  象から本質に転化しようとする勢力との階級闘争として展開される

 ・もっとも純粋な階級間の闘争は、国家権力の争奪をめぐる政治闘争であり、
  政治闘争のもっとも鋭い闘争は、政党間の闘争である

 ・民主共和制のもとにあって、政党間の闘争は普通選挙制における政党間の
  闘争として展開される

 

4.普通選挙制をめぐる本質と現象

● エンゲルスの多数者革命

 ・「マルクスと私とは、40年も前から、われわれにとって民主的共和制は、
  労働者階級と資本家階級との闘争が、まず一般化し、ついでプロレタリア
  ートの決定的な勝利によって、その終末に到達することのできる唯一の政
  治形態であるということを、あきあきするほど繰りかえしてきているので
  ある」(1892.2 全集㉒ 287ページ)

 ・しかしエンゲルスも、パリ・コミューンの経験からしても、普通選挙制を
  とれば、簡単に労働者階級が勝利すると考えていた訳ではなかった

 ・「世襲君主制にたいする信仰を捨てて、民主共和制を信奉するようになる
  と、もうそれだけでまったくたいした大胆な一歩をすすめたように思いこ
  む。しかし、実際には、国家は、1階級が他の1階級を抑圧するための機構
  にほかならないのであって、しかもこの点では、民主的共和制も、君主制
  となんら選ぶ ところがないのである」(「フランスにおける内乱」序文、
  1891.3 全集⑰ 595ページ)

● 普通選挙制をめぐる本質と現象

 ・普通選挙権の本質は、18歳以上のすべての国民の民意を反映した代議制度
  を実現することにより、国民主権の民主共和制を実現することにある

 ・しかし支配階級は、普通選挙によって民意を正確に反映することなく、支
  配階級が議会の多数を占めるために、以下のようなさまざまの現象をつく
  り出す

 ・1つには、支配階級の金権選挙、企業ぐるみ選挙は野放しにしながら、他
  方で膨大なマスコミを使った世論操作によって、「選挙によって政治は変
  わらない」という投票棄権の世論をつくり出す(低い投票率)

 ・2つには、2大保守政党をつくり出し、その間に政治的対決点があるかの
  ように装って、政権のたらい回しにより、支配階級の権力を維持しようと
  する(小池百合子の希望の党設立)

 ・3つには、被支配階級が議会の多数を占めないように、ビラ、戸別訪問、
  街頭宣伝などの政治の真実を知らせる手段を厳しく制限する「べからず選
  挙法」を実施し、他方選挙制度において第1党に有利な小選挙区制を押し
  つける(無差別電話作戦しか選挙の方法なし)

 ・4つには、警察権力を使って、被支配階級の選挙運動に介入し、妨害し、
  弾圧する(公安調査庁と警備公安警察の一体化した日本共産党への選挙弾
  圧)

● いかにして普通選挙で多数派を獲得するか

 ・人間の本質は、「良心」となって、普通選挙にもとづく正確な民意を反映
  した 代議制度という選挙の本質の実現を求めている

 ・人民は、普通選挙制の諸現象のなかでも前進するために全力を挙げながら
  も、階級闘争をつうじて選挙の本質を実現し、階級闘争に勝利しようとし
  ている

 ・そのために重要なことは、多数派である被支配階級を一本にまとめる統一
  戦線を結成して、支配階級に立ちむかうことである

 ・被支配階級は、人間の本質の回復を求めて、国民の全体の共同の利益実現
  のためにたたかうから、一本にまとまり、統一戦線を実現することができ
  る

 ・統一戦線が結成されれば、「選挙によって政治が変わる」世論が形成され、
  投票率を大きく上昇させることができるし、「べからず選挙法」を廃止し
  て自由な選挙法を求める力が生まれてくる

 ・警察権力による選挙介入、干渉、弾圧も、野党が統一戦線を組んで大きな
  力をもつようになるなかで、減少せざるを得なくなってくる

 ・以上により、統一戦線は、支配階級の企むすべての選挙の現象を打ち破り、
  選挙の本質を実現する最大の力となる

 ・現在の市民と野党の共闘を発展させ、次の総選挙で政権構想を含む野党連
  合政権の統一戦線を実現しうるかどうかに、選挙をめぐる階級闘争の命運
  がかかっている