2020年月日 講義

 

 

第9講 ヒューマニズムと人間の尊厳

 

1.シンママ大阪応援団

● シングルマザーの実体

 ・若くして結婚するも、夫の暴力や借金に耐えかねて、子どもを連れて離婚
  するシングルマザーの例多し

 ・シンママの平均年収は、養育費や手当を入れても平均200万円

 ・離婚・貧困のなかで子育てするシンママは日本の底辺に位置している

● 一般社団法人シンママ大阪応援団

 ・応援団代表の寺内順子氏は大阪社保協事務局長

 ・「まずは自分を大切にしてください」「あなたを支えようとしてくれる人
  たちはたくさんいます」

 ・すべて無料でDV、離婚、子育てのお金、生活保護、住民票・戸籍など役
  所の手続き、医療、仕事探しなどの要求に応える活動している

 ・カンパにより財政を支え、毎月シンママに食糧支援を実施

 ・田植えをしたり、食事会などでママと子をサポート

 ・学習障害や料理教室など多彩なテーマで「ママの学校」も開催

 ・「ママの学校」最終回は政治のことを学びたいとの要求にもとづき、「シ
  ンママのくらしと政治」の講演も

 ・徹底してヒューマニズムという人間の原点の立場から、人間の尊厳を守る
  活動をすすめている

 

2.社会主義の究極目標は、人間解放をめざす
  ヒューマニズムの運動

● 社会主義は生産手段の社会化を経て、人間解放をめざす

 ・社会主義とは2段階の運動

 ・「社会主義的変革の中心は、主要な生産手段の所有・管理・運営を社会の
  手に移す生産手段の社会化である」(綱領)

 ・生産手段の社会化によって、搾取と抑圧をなくし、生産と分配とをつくり
  かえる「新しい組織が必要」(全集⑰ 517ページ)となる

 ・それは、「時間を要する漸進的な仕事」(同)である

 ・その長い時間を要する「新しい組織」をつくる基準となるのが、ヒューマ
  ニズムである

 ・マルクスは、社会主義・共産主義を「成就されたヒューマニズム」(全集㊵
  457ページ)とよんだが、長い時間をかけて成就されるヒューマニズムと
  は「人間による、また人間のための人間的本質の現実的獲得」(同)を意味
  している

 ・つまりマルクスは、社会主義の第一歩は生産手段の社会化であるが、社会
  主義の究極目標は、ヒューマニズムによる人間の本質を回復する人間解放
  にあると考えていたもの

 ・したがって、人間解放をめざす社会変革の運動は、ヒューマニズムの見地
  にたたねばならない

● ソ連、東欧はなぜ失敗したのか

 ・最初に社会主義への道を踏みだしたソ連は、レーニンが指導した段階では、
  平和と民族自決権を擁護し、社会保障、男女同権、8時間労働などヒュー
  マニズムの立場の政策を実施

 ・しかしレーニン死後、スターリンが指導者になると、共産党の一党支配を
  強め、1936年のスターリン憲法では、ソ連共産党を「すべての社会的なら
  びに国家的組織の指導的中核」と位置づけ

 ・この「指導的中核規定」により、ソ連共産党と人民との関係は、指導・被
  指導の関係となり、ヒューマニズムの対極に位置する「人間抑圧型」(綱
  領) の社会 として固定化された

 ・しかもスターリンは、この「指導的中核」規定を東欧諸国に押しつけた

 ・こうして、ソ連・東欧では、人間解放どころか、「人間抑圧型」の社会が
  誕生し、人民は支配され、抑圧された

 

3.ヒューマニズムと人間の尊厳

● 科学的社会主義の学説は、科学的に社会を変革するヒューマニズムの学説

 ・「共産主義は私的所有の廃止を、自らの媒介としてもつヒューマニズムで
  ある」(「経哲手稿」全集㊵ 506ページ)

 ・ここにいう「私的所有の廃止」とは、後の言葉でいうと「生産手段の社会
  化」であり、社会主義・共産主義とは、生産手段を社会化して人間解放の
  ヒューマニズムを実現することを意味している

 ・科学的社会主義は、生産手段の社会化により搾取と階級をなくして、究極
  的に人間疎外からの人間解放をめざすヒューマニズムの運動

 ・ヒューマニズムの基準となるのが、人間の尊厳

 ・人間の尊厳は、「いやしめられ、隷属させられ、見すてられ、軽蔑された
  存在にしておくような、いっさいの諸関係」(全集① 422ページ)をくつ
  がえし、人間を「人間にとっての最高の存在」(同)にする人間解放のキ
  ーワード

 ・「人間を人間にとっての最高の存在」にすることが、人間に本質の回復で
  あり、人間の尊厳を守ること

 ・シンママ大阪応援団は、人間の本質を実現して、人間の尊厳を守ろうとし
  ている

● 人間の尊厳と個人の尊厳

 ・人間の尊厳を初めて明らかにしたのが、アメリカの独立宣言

 ・「すべての人は,平等に造られ、……天賦の権利を付与され、そのなかに
  生命、自由および幸福の追求の含まれることを信ずる」

 ・「すべての人」と規定することにより、人間の尊厳を示している

 ・「生命、自由および幸福の追求」とは、人間の本質に欠くことのできない
  権利を一般的に宣言したもの

 ・他方日本国憲法は、アメリカ独立宣言を受けて、「すべて国民は,個人と
  して尊重される。生命、自由および幸福追求に対する国民の権利について
  は、……最大の尊重を必要とする」(13条)として個人の尊厳を認めてい
  る

 ・アメリカ独立宣言と日本国憲法をみるかぎり、人間の尊厳と個人の尊厳は、
  同義に解されるが、国連憲章(前文)と世界人権宣言(第1条)では「個
  人の尊厳」ではなく、「人間の尊厳」を使用している

 ・人類も普遍としての人間と,特殊としての個人から成っている

 ・特殊としての個人は、自分らしく生きるところに個人の尊厳が認められる
  のに対し、普遍としての人間は、人間らしく生きる、つまり人間の本質を
  生かして生きるところに、人間の尊厳が認められる

 ・その意味では、個人の尊厳と人間の尊厳とは、ある意味で同義だといえる
  と同時に、普遍としての人間の尊厳が特殊としての個人の尊厳より上位の
  概念 ということができる

 ・国連憲章、世界人権宣言が、あえて人間の尊厳を主張している理由もそこ
  にあるものと思われる

 ・人間の尊厳が個人の尊厳の上位概念になるということは,人間の尊厳が個
  人の尊厳より,より広い内包をもつということであり、人間の尊厳が侵さ
  れることなくして個人の尊厳が侵されることこともないことを意味してい
  る

 ・つまり、人間の尊厳は、個人の尊厳を内に含んでいるのである

 

4.科学的社会主義は、ヒューマニズムの
  立場から階級闘争を前進させる

● 科学的社会主義は、ヒューマニズムの立場から人間解放の社会主義をめざす

 ・社会主義とは人間解放の社会であり、そこに至る道は、すべての人が求め
  る真のヒューマニズムを追求する道である

 ・社会主義をめざしながら「人間抑圧型の社会」となったソ連・東欧は、社
  会主義の原点を見失ったもの

● 市民運動に学んだ日本の統一戦線運動

 ・2011年の福島原発事故を機に脱原発の運動、沖縄新基地反対闘争、TPP反
  対闘争、消費税増税反対闘争など、「一点共闘」の市民運動が前進

 ・2015年、戦争法=安保法制反対闘争で、これまでの「一点闘争」が、「安
  保法制反対、立憲主義回復、アベ政権打倒」の市民運動に発展し、「野党
  は共闘」が叫ばれる

 ・「野党は共闘」とは、ヒューマニズムで結集した市民運動に学び、イデオ
  ロギーを超えて野党共闘を実現することを求めたもの

 ・図らずも、科学的社会主義の立場にたってヒューマニズムの立場から、野
  党の統一を実現すべきと訴えたもの

 ・これを受けて、日本共産党は、野党共闘はヒューマニズムの立場だと理解
  し、戦争法成立の当日、「安保法制廃止、立憲主義回復」の国民連合政府
  構想を発表し、市民と野党の共闘の土台を築いた

 ・同じヒューマニズムの立場で、共産党と市民運動が結びついた

 ・さらに日本共産党は、2017年第27回党大会で、「綱領や将来像が違って
  も、その違い=「多様性」を互いに尊重し、互いにリスペクト(尊敬)」
  する、「すべての国民の『個人の尊厳』を擁護する新しい日本をつくる」
  方針を発表

 ・ヒューマニズムとは、人間の尊厳、個人の尊厳だととらえた

 ・2020年、第28回党大会でも、「多様性を大切にし、個人の尊厳を尊重す
  る政治を築く」として、野党連合政権の合意をめざしている

 ・これは、市民運動の原点である「個人の尊厳」というヒューマニズムの立
  場にたって、統一戦線を発展させ、社会変革を実現していこうとする姿勢
  を示したもの

 ・多様性のなかの統一とは、個人の尊厳による統一

● 冨田宏治関西学院大教授の訴え

 ・同教授は、「真実とやさしさ、そして希望の政治を」(『今こそ、野党連
  合政権を!』日本機関紙出版センター)と題して、ヒューマニズムを原点と
  する統一 戦線を訴えている

 ・ヒューマニズムで手を結ぶとは、どういうことなのか、何を訴えるべきな
  のかを論じた

 ・すなわち、国政選挙では、どの選挙でもだいたい50%の投票率

 ・自公維30%、立憲野党20%でほぼ固定しており、残りの投票に行かない50
  %のうち、民主党政権に裏切られて政治に失望し、大量棄権層となってい
  るのが20%、明日の暮らしもままならず、政治に関心をもつゆとりも余裕
  もない 無関心層が30%

 ・したがって立憲野党が選挙に勝利するための勝利の方程式は、投票に行か
  ない50%の投票率を上げることにある

 ・2019年参院選では、全国の投票率は48.8%であったのに対し、野党統一候
  補を立てた山形では60.7%、新潟では55.3%、秋田では56.3%と、いずれも
  投票率が上がり、野党統一候補が勝利した

 ・ではなぜ野党統一候補が投票率を上げ、勝利することができたのか

 ・1つには、野党統一候補により、もう一度政治に希望の灯をともし、大量
  棄権層を立ちあがらせたこと

 ・いま1つは、無関心層の心にひびく、生きづらさに寄り添う政治を訴えた
  こと

 ・無関心層に訴える政権放送の代表が、「れいわ」の山本太郎氏の訴え

 ・「みなさん、生きづらくありませんか?死にたいと思うこともありますよ
  ね。だけ どそれはあなたのせいじゃない。政治がこうしたんです。だから
  あきらめないでください。あなたと共に生きていきたいのです」

 ・この言葉は、2018年沖縄県知事選挙の選挙スローガンになった、直前に亡
  くなった翁長知事の「イデオロギーではなく、アイデンティティー」を引
  き継ぐもの

 ・これは、沖縄の戦争中の経験のなかに潜む沖縄の人なら誰もが共有できる
  同一感覚、つまり生命の尊厳というアイデンティティーを語ったもの

 ・この訴えが、生きづらい格差社会のなかで、明日の食事にも不安を抱え、
  政治に関心をもつゆとりや余裕もなく、自分が生きていることに価値を見
  いだせない無関心層の人々の心を動かし、山本氏は228万票を獲得した

 ・これこそ政治家の側から「共に生きていきましょう」という生命の尊厳を
  訴えるヒューマニズムという人間の原点に立ち返った呼びかけだった

 ・上から目線で、投票に行かない、あるいは行けない人々を見るのではなく、
  人間として同じレベルに立って「共に生きていく」と連帯しながら運動す
  るのが、統一戦線の運動

 ・この山本氏の訴えを生かしたのが、2019.11の高知知事選の松本けんじ統
  一候補だった

 ・日本共産党の候補者だった松本氏は、野党統一候補となり、「ここでいっ
  しょに生きよう。誰一人取り残さない高知県政へ」と訴え、大きく前進した

● 階級闘争は、疎外からの解放を求める真のヒューマニズムの運動

 ・階級闘争は、人間解放を求める真のヒューマニズムの運動

 ・階級闘争は、「たたかう」のではなく、「万国のプロレタリア団結せよ!」
  (『共産党宣言』)という、被支配階級の人間としての、ヒューマニズム
  にもとづく団結 を呼びかけている

 ・階級闘争の目標を「万国のプロレタリア団結せよ!」としているところに、
  階級闘争が真のヒューマニズムの運動であることが示されている

 ・人間解放のための統一戦線は、人間の尊厳、個人の尊厳を擁護するヒュー
  マニズムの運動という原点において統一されねばならない

 ・今回の山本太郎の都知事選出馬宣言には、生きづらさに寄り添う気持ちは
  あっても、残念ながら、統一戦線の観点がない

 ・次の総選挙では、「あなたとともに生きていきたい」というヒューマニズ
  ムを原点として野党連合政権をつくろう