2020年7月17日 講義
第12講 「国民が主人公」と人民主権国家
1.「国民が主人公」
● 日本共産党は「国民が主人公」の未来社会を実現するために奮闘している
・「日本共産党は、『国民が主人公』を一貫した信条として活動してきた政
党として、国会の多数を得て民主連合政府をつくるために奮闘する」(綱
領)
・社会主義・共産主義の日本では、「『国民が主人公』という民主主義の理
念は、政治・経済・文化・社会の全体にわたって、社会的な現実となる」
(同)
●「国民が主人公」とは人民主権国家
・1946.6に発表された「日本共産党憲法草案」では、「日本人民共和国の主
権は人民にある」として人民主権を規定している
・現在の綱領は、1961年に制定されたが、憲法草案の人民の民主主義体制を
引きつぎ、「国民が主人公」を旗印にして民主連合政府を経て、資本主義
を乗り越え、社会主義に前進するとしている
・しかし、「人民主権」と「国民が主人公」との間には、その内容に大きな
差異がある
・これからの日本が、野党連合政府から民主連合政府、さらには社会主義・
共産主義の政府へと前進にするにしたがって、「国民が主人公」の内容も、
また大きく発展しなければならない
・その過程にいかなる問題があるのかを検討してみたい
2.ルソーの人民主権論
● ルソーの『社会契約論』
・ルソーは『社会契約論』において、「ありうべき最良の『政体』は何かと
いう大問題」(「告白」『世界古典文学全集』㊾ 256ページ)に対し、そ
れは人民主権国家だと回答したもの
・そのため、ルソーは激しい弾圧を受け、失意と病苦のうちに晩年を送る
・ルソーの死後、11年経ってフランス革命が勃発、フランス人民は『社会契
約論』を小脇にかかえて革命に立ちあがったといわれている
・ルソーの人民主権論は、21世紀の今日もますます光り輝く存在となってい
る
● ルソーの人民主権論
・ルソーの人民主権論は、全ての構成員は共同して「一般意志(真にあるべ
き意志)」という普遍的意志の形成に参加し、かつすべての構成員の特殊
意志は、形成された「一般意志の最高の指導の下に」おかれるというもの
・いうなれば、人民主権国家とは、国家の統治する者と統治される者とは、
いずれも「一般意志」の指導のもとにおかれ、治者と被治者の同一性が実
現される国家
・ルソーは真の人民主権の社会を実現しうるためには、人民自身が成熟し、
主権者としての自覚と能力を高める必要があるし、またすぐれた立法者が
必要であると考えた
・「一般意志はつねに正しいが、それを導く判断は、つねに啓蒙されている
わけではない」(『社会契約論』岩波新書 61ページ)
・「人民は、腐敗させられることは決してないが、ときには欺かれることが
ある。そして人民が悪いことをのぞむように見えるのは、そのような場合
だけである」(同 47ページ)
・したがって一般意志を形成するには、「導き手」(同 61ページ)が必要
となる
・導き手となる立法者は、「われわれの幸福のために喜んで心をくだき、最
後に、時代の進歩のかなたに栄光を用意しながらも、1つの世紀において
働き、後の世紀において楽しむことができる」(同 61〜62ページ)天才で
なければならないが、そんな天才を発見することも困難だとしている
・いわば一般意志は人民のなかから生まれなければならないと同時に、人民
から生まれることはできないという矛盾の内にある
・ルソーもそれを知っていたからこそ、「ヨーロッパには、立法可能な国が
まだ1つある。それはコルシカの島である」(同 76ページ)として人民主
権国家建設の難しさを指摘した
3.プロレタリアートの執権は、
一般意志形成の導き手
● 一般意志形成の矛盾は解決されなければならない
・人民主権国家を建設するには、一般意志の形成は「人民のなかから生まれ
なければならないと同時に、人民から生まれることはできない」という矛
盾が解決されねばならない
・マルクス、エンゲルスは、一般意志を形成し、人民主権論を現実のものと
するには、労働者階級が人民の「導き手」となるプロレタリアートの執権
が必要であると考えた
・なぜなら、労働者階級は利害の共通性と相互連帯のなかで、1つの階級と
しての革命的意識が生まれ、みずから革命を意識した階級として真理を求
めるからである
● ドイツ革命から生まれたプロレタリアートの執権(プロ執権)
・1848.3、パリのふ月革命に続いてドイツ革命が起こり、ドイツ史上最初の
人民代表機関であるドイツ国民議会が選出された
・国民議会は、「みずからドイツ人民の主権ある意志の唯一の合法的表現で
ある」(全集⑧ 43ページ)ことを宣言すべきであった
・しかしこの議会は、「自分の主張を他人に承認させる意志も力も全然もた
ないという、奇妙な光景が見られた」(同 44ページ)
・革命の当初、「この議会が大いに執権者としての革命的な行動をとるだろ
う」 (不破『科学的社会主義研究』35ページ)と予期されていたが、何
もしなかった
・この経験から、マルクスは1850「フランスにおける階級闘争」で「プロレ
タリアートの階級的執権」(全集⑦ 86ページ)を宣言する
● パリ・コミューンとプロ執権
・マルクス、エンゲルスは、資本主義から社会主義・共産主義に移行する政
治上の過渡期において、一般意志をつくり出すには「プロレタリアートの
執権」が必要だと主張してきた
・エンゲルスは、1871年のパリ・コミューンで普通選挙による「人民による
人民の政府」(全集⑰ 323ページ)が実現されたのを見て、「あれがプロ
レタリアートの 執権だったのだ」(同 596ページ)と述べた
・というのも、パリの中間階級の大多数は、労働者階級をもって「社会的主
動性を発揮する能力をもった唯一の階級」(同 320ページ)であることを
公然と承認し、プロ執権を確立して多数者の力で人民主権の政府を実現し
たからである
・エンゲルスは、普通選挙によって選ばれた労働者階級が、社会的主動性を
発揮して人民諸階級の「導き手」になり、人民主権の多数者革命を実現し
たことを、「プロレタリアートの執権」とよんだもの
・つまり、プロ執権とは、労働者階級が導き手となって一般意志をつくり出
し、 人民主権の政府を実現すること
・さらにマルクス、エンゲルスは、パリ・コミューン直後の第1インターナ
ショナル「代表者協議会」(同 395ページ)で、労働者階級が資本家階級
に対抗して行動し うるには、独自の政党をもつ必要があることを強調
・労働者階級の政党が「導き手」となって、人民主権の政治をつくり出すと
考えたもの
・当時マルクス、エンゲルスは、へーゲル弁証法に学んで、真理の認識には
弁証法が必要であり、弁証法をもった労働者階級の政党が真理を認識し、
人民の導き手となることが必要だと考えたもの
・弁証法は、現実の社会の矛盾を掘り起こし、その矛盾を解決する「真にあ
るべき姿」という一般意志をつくり出す
● 科学的社会主義の政党によるプロ執権は、人民主権国家の要件をつくり出す
・まず科学的社会主義の政党は、弁証法を使って、人民の矛盾のなかから一
般意志を取り出し、人民主権の政治を示す主導性を示す
・また科学的社会主義の政党は、主導性を発揮して、一般意志のもとに統一
戦線を結成して、多数派の形成をめざす
・それと同時に科学的社会主義の政党は、統一戦線をつうじて、人民代表(
国会議員)と人民双方に人民の一般意志を示し、人民代表と人民が共に一
般意志のもとに団結するよう働きかける
・つまり科学的社会主義の政党は、人民代表に対しては、一般意志にもとづ
く人民主権国家の野党連合政府をよびかけ、人民に対しては、一般意志に
もとづく統一戦線の結成をよびかける
・プロ執権のもとで、人民代表と人民とは、統一戦線を媒介として相互浸透
をはかり、治者と被治者の同一性を実現する
4.プロ執権と「国民が主人公」
● 野党連合政府から民主連合政府、社会主義・共産主義の日本に
・日本社会は、綱領のもとで、野党連合政府から、民主連合政府へ、さらに
社会主義・共産主義の日本へと発展する
・「国民が主人公」という理念も、人民主権論との関係で、日本社会の発展
に応じて展開する
・野党連合政府のもとでは、内容のあいまいな「国民が主人公」を野党連合
政府の共通の課題とすることに努める
・民主連合政府のもとでは、現行憲法が規定する「国民主権」の政府をめざ
す
・社会主義・共産主義の政府のもとでは、「人間が、ほんとうの意味で、社
会の主人公となる道が開かれ」(綱領)「人民主権」の政府をめざす
・プロ執権は、それぞれの政府が提起する「国民が主人公」の立場を、一般
意志として人民代表と人民の前に提起し、そのもとに国民の多数派を形成
しなければならない
・国家は階級支配の機関であるとの本質は、簡単には変わらないことを銘記
すべき
● 国民主権と人民主権
・主権とは、政治を決定する最高の権力もしくは権威を意味している
・現行憲法は「国民主権」を規定しているが、重要なことは、国民主権と人
民主 権を区別することである
・国民主権とは、主権が国民に帰属することを意味しているが、主権主体は
ナシオン(全国民)という抽象態であって、主権の行使を国民代表といわ
れる代 表機関に委任するというもの(いわゆるナシオン主権論)
・ナシオン主権論は、憲法43条の「両議員は、全国民を代表する選挙された
議員でこれを組織する」を根拠とし、代表は具体的な選挙民からは独立し
て行動する(命令的委任の禁止)、というもの
・これに対して、人民主権とは、主権主体は意志決定能力をもった市民の総
体としてのプープル(人民)であって、プープルは主権行使の形態として
選挙を行う(プープル主権論)
・憲法95条は地方自治特別法の住民投票、96条の憲法改正の国民投票、79
条の最高裁裁判官の国民審査などを定めているので、プープル主権に適合
的な「半代表制」を定めたものということができる
・すなわち、フランスでは国民の代表が純粋代表制から直接民主制(命令的
委任)に変わっていく過程にある形態を、プープル主権論の立場から「半
代表制」または「半直接性」と呼んでいる
・憲法15条1項に公務員の選定・罷免権を国民固有の権利としているのも、
プープル主権の有力な根拠となっている
● プロ執権は、「国民が主人公」の内容を一貫してプープル主権として人民
の合意を形成する
・いまだ憲法の立場が国民主権か人民主権下の争いは、司法においても決着
をみていない
・しかし、科学的社会主義の政党は、プロ執権の立場から、「国民が主人公
とは人民主権、言いかえるとプープル主権を意味している」と言い続け、
それが国民合意となるように働きかけていかなくてはならない
・とくに、これまでの自民党政治は、憲法15条1項「公務員を規定し、およ
びこれを罷免することは国民固有の権利である」の罷免権を立法化するこ
とをサボり続けてきたが、何としても統一戦線の力により立法化を急がね
ばならない
・パリ・コミューンでは「代議員はすべて、いつでも解任することができ、
またその選挙人の命令的委任に拘束されることになっていた」(全集⑰
316ページ)
・その立法が実現化されるならば、憲法は人民主権を規定したものとの確固
たる地歩が築かれることになる
・それは日本社会に対し、普通選挙と罷免権を使って人民主権の政治を合法
則的に発展させる強力な武器を与えることになる
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