● 聴 講(①1:04:49、②45:12、③19:52)

 

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第11講 近代哲学⑤
     マルクス主義哲学(1)

 

今回から近代哲学の到達点を示すマルクス主義哲学に入る。

①近代哲学の到達点
近代哲学が提起した哲学の最高の問題である「思考と存在との関係」は、二つの側面を持つ。一つは「思考と存在はどちらが根源的か」で、もう一つが「思考と存在の同一性の問題」、言い換えれば「理想(思考)と現実(存在)の統一」の問題である。マルクス主義はこの二つの問題に決着をつけたという意味で「近代哲学の到達点」といえる。

「思考と存在のどちらが根源的か」の問いは「世界の根源性」と同時に「認識の源泉性」の問題が含まれるが、マルクス主義は弁証法的唯物論と史的唯物論の確立により、この二つの問いに対し唯物論の勝利を決定づけた。

「思考と存在の同一性」でも、資本主義社会の分析を通じて「理想と現実の統一」の問題を資本主義と社会主義の関係として具体的に提起し、この問題の到達点を示しうる哲学となった。こうしてマルクス主義以後の哲学は「変革の立場」にたつものか、「解釈の立場」にたつものかが厳しく問われることになった。

②古代哲学も発展的に継承
マルクス主義は、近代哲学のみならず古代哲学も発展的に継承した。一つはソクラテスが提起した「いかに生きるべきか」の問題で、マルクス主義は人間の本質を唯物論的に探究する形で人間の生き方という「当為の真理」を探究した。二つ目はプラトンのイデア論を継承したアリストテレスの「思惟の思惟」(理想と現実の実践的統一)で、マルクス主義はヘーゲル哲学を媒介に唯物論的理想としての社会主義像に結実した。
こうしてマルクス主義は「人類が生み出したすべての価値ある知識の発展的継承者」(13回党大会決議)として哲学史の舞台に登場する。しかしマルクス主義には体系的な哲学書が存在せず、その思想を体系的にまとめるのは極めて困難な課題となるのだが、本講義では世界の構成部分ごとにその思想の要約を紹介する。

③自然の哲学
自然観においてフランス唯物論は、観念論的な機械論的自然観、ドイツ観念論は唯物論的な弁証法的自然観という一種の「逆転現象」が生じていたが、マルクス主義は「世界の統一性」を「物質の統一性」に求める唯物論的自然観を確立すると同時に、「物質と時間・空間の不可分性」「物質と運動の不可分性」「物質の無限の階層性」「生命の起源」や「進化論」をつうじて「自然は弁証法を検証するもの」であることを証明した。また弁証法を駆使し、現代自然科学でようやく実証されている事実を先取りして見せ、弁証法の威力を遺憾なく示した。

④人間の哲学
人間に関しても人間の唯物論的探究により、人間の本質が「自由な意識」と「共同社会性」にあることを生産労働の分析を通じて明らかにした。人間の本質は自然や社会を変革するところから、「世界はどうあるべきか」という価値意識を持つに至り、「価値意識」を人間の本質に加えることができ、そこから「自由」と「民主主義」が人間的価値として承認されると、講師は説明する。これは観念論的な「天賦の人権」思想に対抗する唯物論的な人権論といえる。

さらにマルクス主義は「人間の本質」が階級社会の中でいかに歪められて現象しているかという「人間疎外論」を探求し、疎外の根源に搾取があることを突き止めた。そこから「疎外からの人間解放」という理念が、マルクス主義の原点かつ根本的理念として提起されるに至る。

⑤社会の哲学
マルクス主義の最大の功績は、史的唯物論の確立により社会を初めて「科学」の対象としたことだ。社会を唯物論的に分析することにより、「生産力と生産関係の統一」としての生産様式が社会の土台を形成し、その土台のうえに上部構造(政治、法律、イデオロギー)が存在し、「土台が上部構造を究極的には規定する」ことを明らかにし、社会が一定の構造を持った存在であることを明らかにした。
また弁証法的観点から、土台における「生産力と生産関係の矛盾」が社会の最も根源的矛盾であることを解明し、その矛盾が生産関係における階級闘争として現象し、社会は発展することを解明。「階級的意思」というカテゴリーを社会に導入することで、「歴史の真の究極の推進力」を明らかにすることができ、現存する社会を階級的観点により分析することが可能となった。

このようにマルクス主義哲学は、弁証法的唯物論と史的唯物論を確立することにより文字通り「近代哲学の到達点」を示すものとして君臨し、これ以後の現代哲学は全てマルクス主義への対抗意識のなかで展開されていくこととなる。

本講義については複数の受講生からは「大変よくまとまっていて、とても分かりやすかった」との声をいただいた。本講座の一つのハイライトとなっているようだ。